散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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23:00   (2005/10/14)
 一週間の仕事が終わった。
 たまには一緒に晩飯でも、と誘う同僚に、満面の笑みで「お疲れ様でした」と返事をし、車に乗り込む。ハンドルを握って向かう先は、仕事場から少し離れた大きめの本屋。隣接している喫茶店は、既に常連。金曜日、週末の疲れた頭と体にご褒美を。
 といっても、気に入った雑誌をまとめ買いするのではない。新刊を片っ端から買っていくわけでもない。まして、ずっと欲しいと思っていた「ガラスの仮面」全巻を買うわけでもない。ただ「本屋に行く」これだけ。それ自体が、私にとっての「ご褒美」なのだ。特にあてもなく、ふらりと店内を眺める。気になった本を手にとる。新刊をチェックする。たまにレジに持っていくのは、2時間あれば軽く読めそうな薄い文庫本。ごくまれに、表紙が気に入ったから、という理由だけで買う時もある。すごく大切で、好きな時間。文庫本一冊と、アメリカンコーヒー1杯分の値段しかかからない、ささやかなご褒美。
 でも、今日は違う。今日これから本屋に行くのは、いつもの「ご褒美」のためではない。

 入り口になるべく近い場所に車を停め、店内に入る。ぴかーっと新刊が並ぶ文庫本コーナーを横目で見ながらそそくさと通り過ぎ、片隅に設置してある文房具売り場へと来た。本屋が大きいと、文房具売り場まで大きい。ずらっと陳列する、ペンノート消しゴムファイルのりハサミ定規メモ帳クリップふせんコピー用紙……。実は、本屋と同じくらい文房具売り場が好きな私だ。こまごましている新品の文房具たちを見ると、たまらなく高揚してくる。おもちゃ売り場に来た子どものように、わくわくする。大好きな紙類はもちろん、普段必要のない真っ赤なマグネットや、「よくできました」シールまで欲しくなってしまう。今日はそれらを全て素通りし、真っ直ぐに目的の品の前まで来た。
 それは、大きい売り場なだけあって、さすがに品揃えが豊富だった。色とりどり。形も違う。私は迷った。一つ手にとっては考え、また棚に戻す、という作業を、おそらく30分は繰り返していた。丹念にひとつ選び、レジへと持っていく。迷いに迷った挙句、結局はシンプルで、どこでも売ってそうな変哲のないものになってしまった。それでも、数ある中で厳選した、あの子の好きそうな優しい色合いのレターセット。

 その日の夜、23:00を回って、やっと私は机に向かった。書き物をする時は、静寂がいい。音楽もいらない。丁寧に淹れたコーヒーと、万年筆さえあればいい。
 便箋の1行目に、10年以上付き合っている親友の名前を書いた。もちろん、電話番号もメールアドレスも知っている。ついこの間も、あくびをかみ殺しながら夜遅くまで長電話をした。この一ヶ月でやりとりしたメールなんか、本当に他愛ない内容だ。
【この前言ってた車、今日初めて見た。可愛いね(≧▽≦)】
【あんたがめちゃくちゃ好きそうなタイプ発見♪♪♪】
【髪切った。写メ送るから感想プリィーズ!】
 20代半ばにもなって、こんな短い画面の文字が、真剣で、楽しい。

 でも。
 でも、今日は手紙を書こう。落ち着いて、ゆっくりと。便箋に万年筆のインクが滲んでいくのが心地良い。伝えたいことは山ほどある。考える前にペンが動く。便箋に向かって、しゃべっている。実は今朝から決めていた。今日の、この時間だけは、彼女のために使おう、と。他のことは何も考えない。わずかに残っている仕事モードのスイッチを、無理やり切って。
 彼女に手紙なんて、何年ぶりだろう。中学生の時以来か。思えば、長い付き合いだ。一緒にテニスボールを追い掛け回し、クラスの男子に一喜一憂し、他愛ないことで泣いたり笑ったり。あの頃は、ただ、楽しめればよかった。10年後の今を、どうして想像しただろう。
 来年は異動かもどうしよう。まじあの上司むかつくんだけど。またあのコ別れたらしいよ。最近お母さんの体調が良くなくて……。たっぷり便箋4枚。読み返せばわざわざ手紙に書くようなことか?と言いたくなる内容かもしれない。もしかしたら、この間長電話した時に話した内容と同じのもあるかもしれない。けれど。ペンが書きたいって言っている。
 こんなくだらないこと書いてゴメンね読まなくてもいいよ嘘やっぱり読んでそれで時間がある時でいいから返事ちょーだいその時はこれ以上にくだらないこと書いていいからきちんと読むからだから。
 そんな気持ちが伝わるといい。きっと、伝わる、彼女なら。
 少しペンを置いて考えて、コーヒーを一口。静かにカップを置き、意を決して最後の1行を書き加えた。万年筆だ。少しでもペンを迷ったらにじみができる。迷いを、見せないように。
 さらりとペンを走らせる。
<本当に、結婚おめでとう。先を越されちゃったな。どうか、幸せに。>

 宛名を書いて、切手を貼る。きれいに三つに折って、便箋とおそろいの封筒に入れる。丁寧に糊付けし、封をする。欲しい欲望に耐え切れず、つい先週の「ご褒美」の時に、文庫本と一緒に買ってしまった金ピカの「おめでとう!」シールを貼る。小学生のノートの端っこによく貼ってある、アレだ。このくらいの冗談は、許せる仲。きっと、「らしいな」と笑ってくれる。でも、残ったシールの使い道は、今のところない。
 あとはポストに投函するだけの封書を、もう一度確認する。宛名よし、差出人よし、切手よし。
 机に手紙をそっと置く。おもむろに視線を横の出窓に移す。飾り気のないそこに、からっぽの写真立て。捨てられないタバコの空き箱。借りたまま返せなかった、グレーのハンカチ。
 最後の一口だった冷めたコーヒーが不味い。自然と、表情がゆがむ。ドロリとした黒い感情が胸の奥からじわりと湧き上がってくる。カップを握った手に、知らず、力が入る。
 結局、自分の幸せをつかむためにあの男は彼女を選んだ。ただ、それだけのこと。
 私ではなく、彼女といる方が幸せになれる。そう思ったから、結婚を決めた。それもまた、当然のこと。 
 そう分かっていても。
 彼女の幸せを心から願っているはずの私が、今、どうしても笑顔になれない。
 待ち望んでいた親友の結婚だ。祝ってやれないのか、狭量だな。
 己を謗(そし)る本音が、心の底でよどんでいる。
 結婚式は一ヵ月後。
 直接会うその時は、言わなくては。うるさい本音に蹴りを入れ。
 彼女に、怪訝に思われないように。素直に。自然に。笑顔で。心から。
 何も、知らない彼女に。
「結婚おめでとう。本当に良かったね」と。

 その瞬間。
 私と彼との間にかろうじて繋がっていた細い細い糸は。
 ぷつんと、切れる。

 明日は休みだけれど、少し早起きをして、ポストまで歩こう。
 この手紙が、早く、彼女のもとへ届くといい。
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この記事に対するコメント

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【2005/10/15 18:03】 | #

拝見させて頂きました^^
口の悪い人は「女の友情は紙より薄い」と言いますが、もちろんそんなことはないと思います。
彼を思っているのと同じぐらい彼女が大切だからこそ、主人公は感情の整理が未だ付かないのではないかと僕は思いました。(的外れだったらごめんなさい^^;)
端々に現れる詩的な技法、表現もいいですね。
作品に良いアクセントを加えていると思います^^
楽しませて頂きました。
次回も頑張ってください^^
【2005/11/09 21:49】 URL | ロビタ #gPxiGQPc


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