散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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フューチャー・エレクトリカル・フィナーレ 【後篇】   (2007/08/13)
「ようこそお越し下さいました、お久しぶりです!」

年季の入ったドアを開けると、彼らにとって懐かしい顔がそこにはあったのだろう、途端にノスタルジックな雰囲気が漂い始めた。
男性二人に女性二人のその団体客は、早速カウンターの真ん中の席を横一列に陣取り、マスターとの会話を楽しんでいる。
「いやぁ、良い店だねぇ、ほんとに」
女性の一人が感嘆の声を上げた。
「だからオレが言ったっしょ? 細部までこだわってるって。前から誘ってるのに、全然来ようとしないんだから」
男性の一人は、手馴れた手つきで店のマッチを手に取り、早速紫煙を燻らせている。
「とりあえず、一杯目はビールでいいですか?」というマスターの問いに、OKサインを出したのもその男性だ。
「あれ、そういえばまだ来てないみたいだね」と店内を見渡しながら言ったのは、もう一人の男性。
「ちょっと遅れて来るみたいですよ。仕事が忙しいみたいで」と控えめに言ったのがもう一人の女性。
男女2組ずつのその団体客は、どうやらカップルなどでは無いようだ。会話を聞く限り友人同士という印象を受ける。それはマスターとの関係もそうなのだろう。

「さぁ、用意はできましたよ。まだ全員は揃ってませんが、一先ず乾杯しましょうか」
マスターがビールグラスを5つ持って、4人の前に並べた。そしてグラスの1つは自分で持ち、早くも乾杯をしようと準備している。
じゃあ、という合図と共に、4人の客とマスターは、「久しぶりの再会に!」と言葉を添えてグラスを高々と掲げ、乾杯を行うと、早速それぞれの話に花を咲かせ始めている。

一組の男女は、カウンターで酒を片手に語らい合っている。
「いやぁ、こうして美味しいビールを皆で飲めるなんて、良い時代になったもんだね」
「そうね、なかなか忙しくてお互い会えないですもんね。こうした場所で飲めるなんて、嬉しいわ」
「良く言うよ~。前誘っても断ったくせに」
「あら、ごめんなさい。その時ちょうど忙しかったのよ」
「ほんとかぁ~?」
「まぁまぁ。こうして今日飲めたんだから、良いじゃない、良いじゃない」

もう一組の男女は、ラックの展示物に夢中のようだ。
「おっ、これはもしや! な、懐かしいっ!」
「何ですか、このペットボトル?」
「ほら、中を見てみなよ」
「うわぁ、複雑なミニチュアですねぇ。よくできてる」
「このペットボトルは、地球を表しているわけよ。ほらここに大地があって、水もある」
「なるほど、コロニーみたいなものですね」
「そうそう、着想はそこから来てたんだけどね」

マスターは、店に掛かってきた電話に対応している。
「えぇ、そこまで辿り着いてもらえれば、あとはずっと進んでいただくと“Prose”っていうネオンが見えて来ますので。特に操作なども必要ないんで大丈夫だとは思いますけど、もしまた分からなくなったら連絡下さい。皆さんもうお揃いなんで、お越しを待ってますよ」

しばらくすると、もう一人の男性が店内に姿を見せた。遅いと周りに野次られながら、カウンターの端へと腰掛ける。
「悪い悪い、だいぶ迷ってしまって。何せ初めてだからさ」と謝るその男性の前にもビールが届くと、二度目の乾杯の声が店内に響き渡った。

「さぁ、全員が揃ったところで改めてお礼を。本日は当店にお越しいただき、ありがとうございます。少しの時間ですが、せっかく久しぶりに皆で会えたわけなので、心行くまでお楽しみ下さいませ」
マスターが、5人に増えた団体客にスピーチをすると、拍手が沸き上がる。「よっ、マスター!」と声を上げたのは、またもや紫煙を燻らせている男性だ。マスターはその声に笑顔を浮かべながら、スピーチを続ける。

「この店をオープンして早くも3年になります。ご存知の通りこのご時勢ですから、誰でも簡単にこうしてお店を開けるようになりましたが、なかなかどうして。店を続けるのはそれなりに労力が掛かるわけです。そう、まるで一昔前のホームページ運営みたいなものですね。でもまぁこうして皆さんの再会の場として機能したのであれば、今まで続けてきた甲斐があるというものです」
マスターは満足げな表情を浮かべながら、自分の言葉に頷いている。
「20周年の記念日をこの場で過ごせるというこの喜びに応えるために、今日は様々な仕掛けをご用意しました。既に手にとっている方もいると思いますが、店内を見渡していただいて、是非ご覧になってお楽しみ下さい」
マスターは急に小声になって囁く。
「ほら、こうして我々以外の客の顔ぶれも、ちょっとしたサプライズですよ」

マスターのスピーチが終わり、5人の客は思い思いに店内を歩き回り始めた。展示物を手にとって感慨深げに眺めたり、他の客の会話に聞き耳を立てたり、大胆にも客同士の会話の輪の中に入り、楽しそうに談笑したり。そんな楽しげな5人を満足そうに眺めているのは、本日の仕掛け人であるマスターだった。

マスターはバーの片隅にある書籍コーナーから、エメラルドグリーンの書籍を手に取ると、パラパラとめくった。書籍の中には70作品以上の散文が掲載されていて、出典元の作品の所々にはマークがあった。
在りし日の記憶が、マスターの頭の中に甦って来る。その記憶を頼りに、マスターはこの日の催しを企画し、実行したのだった。

十数年前のあの日、実現することを夢見ながら書いたあの小説の光景が、目の前に繰り広げられている。2年もの間、6人のメンバーで持ち寄った作品の登場人物たちが、小説を飛び出し動き回る。そんな中に、作者であるメンバー全員が集まる・・・。そうした夢物語は、十数年もの間に進歩し続けたネット環境が実現してくれた。人間がバーチャルな世界にまで実生活を持ち込めるようになった現在、その世界の中では、現実の時間の束縛は受けるものの、実世界と同じような生活を営むことができるのだ。
3年前、その男は今日のこの日を夢見て世界の片隅にバーを開いた。そして今日、ついにこの日を迎えた。店内には作品内の登場人物を客として存在させ、所縁の物を展示させた。その仕掛けを、集まってくれたメンバー達は懐かしそうに楽しんでくれている。

男は、書籍の終わり頃に掲載されている作品『フューチャー・エレクトリカル・フィナーレ』に目を落とし、一気に読み終えると、書籍を閉じて元の場所に戻し、改めて店内を見渡した。気の知れた仲間、皆で創り出した人々に品々。それらが、今、この店内で交わり合っている。それは、男にとって至福の時であった。正に2年に及ぶ活動の集大成だと感じた。

活動の終焉を迎えていた時、男は実生活での変化によって活動の限界を感じていた。そしてそれはおそらく、参加メンバーの全員が少なからず感じていたに違いない。しかしそれでも、それぞれ別々の生活を営みながら活動を続けた2年間は、男にとって、参加メンバーにとって、有意義な期間だったと、今でも感じているに違いない。だからこそ今、この瞬間も、こんなにも満ち足りた表情を浮かべているのだろう。
男は、マスターと呼ばれるその男は、コップに残った生ビールを一気に飲み干すと、もう一度皆に向かって乾杯を促した。

「皆さん、宴もたけなわではございますが、明日は金曜日ということでなかなか長居は難しいと思います。なので最後にもう一度皆で乾杯をして、一先ずお開きということで!」
マスターは皆にドリンクを配ると、声高々に声を上げた。
「20周年おめでとうございます! これからも皆お元気で! 乾杯!!」

6つのグラスが空中でコツンと乾いた音を立てて店内に響き渡ると、同時に店内の時計が日付が変わったことを知らせ、20周年記念日である2025年9月4日は過ぎ去った。
しかし、バー“Prose”の店内からは、まだまだ盛り上がりは冷めることなく、その宴が永遠に続くかの如く、いつまでも笑い声が聞こえてくるのだった。

  (終)




   ~エンドロール~

ブラッディメアリーの挿話:『リスキー・リング』(こさめ)

ペットボトルの置物:『ペットボトル』(P助)

色とりどりの折り鶴:『惜別鶴』(仁礼小一郎)

『100人の小隊を間違いなく点呼する方法』:『「小松軍曹と佐藤兵長」他一篇』より、『行軍記』(大塚晩霜)

エメラルドグリーンの装丁の本:散文ブログ『ちりぶみ』

年の差がある男女:『電車の撮り方教えま』より、主人公と鉄道会社の女の子(ナチュレ)

お揃いのブローチをした母娘:『春の雨垂れ』より、主人公と娘(イシカワマキ)

リクエストをした若いカップル:『I’m in love?』より、主人公と図書室の彼女(こさめ)

サラリーマンの二人組:『バトルみかん』より、山ちんと岡ちん(ナチュレ)

カレーを食す金髪の女性:『エミリーとカレーライス』より、Emily K. Woodser(大塚晩霜)

喧嘩をする男女:『愛は世界を救わない』より、ジョニーとリンダ(P助)

カウンターの男性客及びレジの音声:『舞台「VOICER」』より、教師イトウとVOICER(仁礼小一郎)

男性客のリクエスト曲:『Hard Luck Japanese Man』(仁礼小一郎)




マスター:仁礼小一郎

男A:大塚晩霜

男B:P助

男C:ナチュレ

女A:イシカワマキ

女B:こさめ


散文ブログ『ちりぶみ』に関わった多くの方々、そして多くの読者の方々に感謝します!!


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