散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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    某サークル六代目総長

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フューチャー・エレクトリカル・フィナーレ 【前篇】   (2007/08/06)
大通りから一本奥へ入った横路地を少し歩くと、懐かしい色に輝くネオンがあった。そのネオンに誘われ、まるで光に吸い寄せられる蛾のように、ふらふらと、しかしあたかもそこに向かうのが当然かのように、男はネオンの下の階段をゆっくりと下りていった。今朝から降っていた雨でまだ湿っている、歴史を感じさせるような石造りの階段を下りきり、黒光りのする扉に手をかけ、男はゆっくりとその扉を開く。

ギイィィィッ・・・

まるで何年もの間開かれたことのなかったかのようなドアの軋む音と共に、そのバーの入り口の扉は開いた。開いた視界には、最適な明るさに保たれた店内が見える。左側には奥にかけてカウンターの座席が並び、右側の短い通路にはテーブル席がいくつか見える。客もそれなりには居るようだ。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか? どうぞお好きな場所へお座り下さい・・・」
カウンター越しから、マスターとおぼしき男性が声をかけてきた。少々禿げ上がった髪と短く整えている口髭には白髪が交じっていて、その男性が歩んできた時の長さを感じさせる。口調は穏やかで、客商売にありがちな押しつけがましさもなく、スマートだ。おそらく客商売の経験が豊富なのだろう、言葉遣いにも手慣れた感覚があった。

男はそのマスターの言葉に従い、カウンターのちょうど真ん中の席へと腰を下ろした。この場所からは店内至るところを眺めることができるようだ。男はマスターに「とりあえず」という言葉と共に生ビールを頼み、注文の品が届くまでの間に店内を見回している。

シックな色調で統一された店内は、オシャレすぎず、かといって安すぎず、ほどよい雰囲気を醸し出していた。こういった雰囲気は人を落ち着かせる。男は、仕事の疲れを少しでも癒そうとこのバーへ立ち寄ったのだが、その面ではチョイスは間違ってはいないだろう。男の品定めをするような目にも、暫くすると安堵の色が浮かんだ。

「お待たせいたしました、生ビールでございます」
マスターからビールを受け取った男は、まずは一口ビールを口に運ぶ。細かな泡で口の周りを少々白く色づけながら、男は引き続き店内を見回しているようだ。カウンター奥の鏡越しに見える若い男女のカップル、年齢に若干差があるような男女の二人組、会社帰りのサラリーマン二人組は肩を叩き合いながら話が盛り上がっていて、一番奥のテーブルに座る母娘はお互いの傘を見せ合いながら笑顔で話をしている。
男の横のカウンター席では、何故か金髪の女性が、バーの雰囲気にそぐわないようなカレーを懸命に口に運んでおり、奥のカウンターに腰掛ける外国人のカップルは、喧嘩でもしているのかそっぽを向く女性に男性が懸命に取り入っている。

よく分からない客層だ、と思いながらも男は生ビールを飲み干し、二杯目のドリンクを注文しようとドリンクメニューに目を落とした。メニューにはカクテルはもちろんのこと、バーボンやスコッチ、焼酎、日本酒に泡盛まで揃っていた。何にするか決めあぐねていた男に、マスターが話しかける。

「何にするかお悩みですか?」
男は、何かお薦めのカクテルがないか、尋ねる。
「そうですね……。カクテルといっても様々ですからね。甘みが欲しいのならブラックルシアン、酸味が欲しいのならブラッディメアリーといったところでしょうか。お客様の気分に合わせてお作りすることもできますよ」
男がブラッディメアリーを注文すると、マスターは微笑みながらカウンターの奥でグラスに氷を注ぎ込み、そこにウォッカとトマトジュースを流し入れながら、軽くステアした。
「お客さん、ブラッディメアリーに関するこんな噂話があるんです。ちょっぴりヒンヤリとする、この暑い季節にピッタリの話なんですが、興味はございますか?」
興味を覚えた男は、マスターに話の続きを促した。マスターはグラスにカットしたレモンを添えると、男の前に差し出しながら話を始めた。
「ご覧の通り、ブラッディメアリーは真っ赤なカクテルです。カクテルの名前も血からの連想で名付けられたんですが、この噂話はバーが舞台になっています。そう、お客さんが座っている、こうしたバーのカウンターがね」
マスターはニヤリと笑うと、カウンター上にディスプレイされた指輪を手に取り、話を続けた。マスターの話は血を吸う指輪の話で、もちろん本当の話とは思えないような内容だったが、男にとっては酒を楽しむ肴として、少なくともカウンターで一人暇を持て余すこともなく、心地良い時間を男に提供してくれた。

「もし良ければ、店内を歩きながら眺めてみて下さい。この指輪の他にも、一癖ある品々をディスプレイしてますので、楽しんでいただけるかもしれませんよ」
そうマスターに提案され、男は店内を再度見渡してみた。すると、先ほどは客にばかり気を取られ気づかなかったものの、壁にはディスプレイラックが備え付けられていて、そこには確かに何やら奇妙なものが、今更ながら存在感を示している。

男は興味を覚えて席を立ち、一番身近なラックにちょこんと乗っている、ペットボトル型の置物を手に取ってみた。「ペットボトル型」ではなくペットボトルそのものだったことに気づいた男は、その中身を凝視した。ペットボトルの中には、精巧なミニチュアで作られた樹木や池、そして驚いたことに生き物のミニチュアまで入っている。そうしたミニチュア達がうまく絡まり合い、空間内であたかも生き物たちが生活しているような、そんな気にさせる。よく見かける帆船入りのウイスキーボトルよりも新鮮で、暫し男はペットボトルに見入ってしまった。

ペットボトルを元の場所に置き、次の場所へと移動する。折り紙で作られた大小様々、色とりどりの折り鶴がある。一般的な「バー」という場所には不釣り合いな展示品だ。その横には小さなブックスタンドと共に、いくつかの書籍が並んでいた。男は『100人の小隊を間違いなく点呼する方法』というHowTo本の横にあった、エメラルドグリーン色の装丁がされた質素な本を手に取り、中身が小説だったことを確認すると、また元の場所に戻した。さすがにバーで小説を読む気にはなれなかったのだろう。

男は、その後も店内のディスプレイを見て回ったが、そうしているとカウンターからは聞き取れなかったお客同士の会話も聞こえてきて、いつしか男の関心はディスプレイよりもその会話に傾いていった。ディスプレイを手に取り眺めているふりをしながら、その回りの会話に耳を傾ける。

年の差がある男女は、男性が懸命に女性に対してうんちくの披露をしているようだった。カメラの操作法がどうだとか、臨時特急は絶好の被写体だとか、そうした話をしているが、知識の無い男にはその半分も話が理解できなかった。
店の奥の母娘は、二人してそれぞれの夫の話をしている。娘が結婚するとこうした会話が繰り広げられているのかと思うと、男は我が身に置き換えて考えてみたのか、少し苦笑いを浮かべた。母と娘は二人とも胸に白いバラのブローチをしていたのが、仲の良い親子だということを男に印象づけた。
若い男女のカップルは、テーブルの上にリクエストカードを置き、二人でどうしようかと相談したあげく、どうやら曲が決まったらしい。その曲名を書いてマスターに渡すと、これまで店内に流れていたJAZZに変わって、これまで何度も耳にしてきた独特の声と滑らかなギターの音色が辺りを満たした。曲名まではわからないが、おそらくB'zの曲だろう。その曲を二人は聞きながら、満足そうに見つめ合っている。

男が続いてサラリーマンの二人組の会話に耳を傾けようと席に近づくと、いきなりそのサラリーマンの一人に絡まれた。

「なぁ、腐ったミカンとワキガって、どっちが臭いと思う?」

何とも突拍子のない質問を投げかけられた男は、よく分からぬまま聞き返した。
「いやね、こいつは小学校の頃からの親友なんだけど、譲らなくてね。お互いその臭いを体験しちゃったもんだから、思い入れもあるわけさ。でもよく考えたら普通の人はどっちも嗅いだことないもんな。悪いね、急に話しかけて」
サラリーマン達はそう言うとお互い顔を見合わせて、また大声で笑った。男はその隙に何事もなかったかのように、しかしながら慌てて自分の席へと戻った。本当になんだか分からない店だ、と男は一人呟いた。


二杯目のブラッディメアリーを頼むと、男はマスターに灰皿が無いか尋ねた。マスターは失礼しましたと詫びながら、灰皿と、その店のマッチを持ってきてくれた。
年季を感じさせるようなレトロな作りのマッチの表面には、このバーの名前なのだろう、“Prose”と印字されていた。そのマッチで煙草に火を点し、フゥーッと一息天井に向かって吐いた。

横に座っていた金髪の女性は、カレーを既に食べ終え、マスターにリクエストカードを渡していた。ちょうど若いカップルがリクエストした曲が終わり、マスターは店内にあるメッセージボードに書かれていた『I'm in love?』という字を消すと、新たな曲名をそこに記した。流れてきた曲は、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』だった。食後のモーツァルトとは、それこそバーが不釣り合いだ、と男は思った。

男が煙草をちょうど吸い終えた時、カウンターの一番奥に座っていた男女が慌ただしく席を立った。先ほどからの喧嘩がいよいよ本格化したのだろうと、男は推理したが、案の定男性は明らかに不機嫌な女性に対して謝りながら引き留めている。
「待てって、誤解だって! ほら、せっかく素敵なバーに居るんだから、もっと楽しもうじゃないか! だってほら、僕らが愛し合わないと世界に平和が訪れないんだから!」
「そんなの知らないわ! だって私は幸せじゃないんだから、平和なんか来るもんですか。もう帰る!」
「ちょっと待てって、リンダ!」
慌てて男性はカードで精算を済ませると、ドアから出て行った女性を追いかけて出て行った。


「いつの世も、男女の仲は大変ですねぇ」と、マスターが苦笑いしながら二人が居た席のグラスを片付けている。全くだ、と男は同意した。そしてそういえば、とマスターにリクエストカードのことを尋ねた。マスターの説明では、この店では客からのリクエスト曲をBGMで流してくれるサービスを行っているらしい。リクエスト曲があれば是非、というマスターの言葉に甘え、男は曲名をカードに書いてマスターに渡した。
その時、男の携帯電話が鳴った。男は周りに申し訳なさそうに席を立つと、化粧室前でその電話に出た。
「はいもしもし? あぁ、なんだ君か。どうしたんだ? うん? 先生はまだ家に帰る前だけど? 何、今から?」
男は時計に目をやると、しょうがないなぁといった感じで後頭部を掻きながら会話を続けた。
「わかった、今から行ってやるからもう暫く待ってろ。わかったな?」

そう言って男は電話を切り、マスターに「お会計! カードで。」と頼んだ。
カード読み取り機をマスターから手渡された男は、「カードをお入れいただき、暗証番号を入力して下さい」という音声アナウンスに従い、カードと暗証番号を入れ、精算を済ませた。「ご利用ありがとうございました」という機械のスピーカーから流れる生音声を聞きながら、男はマスターに詫びた。
「曲をリクエストしたのに、急に帰ることになってしまってすいません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。この曲は私も好きな曲ですからね。失礼ですが先生をされていらっしゃるのですか?」
「いえ、先生といってもしがない講師ですよ、職業訓練校の。ほら、これですよ」と言って、男は言葉を繰り返している機械のスピーカーを指さした。
「あぁ、なるほど。その職業でしたか。では次回ご来店の際にはそのお話でも、お聴かせ下さい。またお待ちしていますので……」

マスターの申し出を快諾した男は、グラスの残りを一気に飲み干すと、来たときと同じように店の扉を開き、店を出て階段を登った。
途中、数人の団体とすれ違うと、階段を登り切った時に、階段の下から「ようこそお越し下さいました、お久しぶりです!」というマスターの明るい声と、男が最後にリクエストしたKISSの『Hard Luck Japanese Man』のメロディーが、風に乗って男の耳にまで届いたかと思うと、「ギイィィィッ・・・」という扉の閉まる音と共に、聞こえなくなった。
そうして男が自らの生徒が待つ公園へと足早に向かうと、バー“Prose”のネオンは男の背にネオンの懐かしげな明かりを照らし、そして次第にそのネオンの明かりも、まるで幻だったかの様に周りの街灯の明るさにかき消されていった。

(続く)
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この記事に対するコメント

最後まで
掲載日を守れずに申し訳ないです。ちりぶみ最終作は、続きの後篇のアップを持って終了です。もうしばらくのお付き合い、宜しくお願いします。
【2007/08/07 01:04】 URL | 仁礼 #-


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