散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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ハート咲ク   (2007/02/15)
今年もやってきたこの季節。
愛に飢えてる老若男女。
でっかいハートを咲かせるために。
さっそくお仕事開始です。



板チョコを細かく刻んで。
湯せんでとろとろになるまで溶かして。
でっかいハートの型に流し込んで。
固まるまで冷やして、型から取り出して。
まだよ。
まだ完成じゃないの。
さあ、ここからが大切な仕上げ!

このでっかい金づちで…。
パッキーン!!

もひとつ。
パッキーン!!

おまけにもひとつ。
パッキーン!!!


見るも無残なカケラたち。
きれいなハートはどこいった。
でもいいの。
もとをたどればでっかいハート。
『愛のカケラ』の完成です。


バラバラの一口大に砕いたチョコのカケラ。
きれいな紙に一つずつ包んで…。
最後にふっと息を吹きかければ。
さぁ、完成。
今年も『愛』を配りに参ります。


  ****


「よいしょっと」
それは、手のひらくらいの女の子。
茶色と赤のワンピース。
腕と足を元気に出して、でっかいでっかい袋を抱えました。
自分の背丈よりも何倍もでっかいその白い袋には、さっき作った、ちっちゃなチョコレートのカケラが入っています。
今日は2月14日。
一年に一回だけのお仕事。
愛を込めて作ったチョコレートを、これから配りに行くのです。
え?
まるでサンタクロースみたいって?
いえいえ、全然違いますよ。
だって、チョコレートをあげる相手は、小さな子どもではないのですから。
「さぁ、今年も行くわよ」
その手のひらサイズの女の子は、そう呟いて、白くてでっかい袋を抱え、愛に飢えた人間たちがざわめく街へと、ひらりと飛んでゆきました。


  ****


「うーん、今年もちっちゃなハートが多いわね」
街をふらっと一周しながら、女の子は言いました。
“ちっちゃなハート”とは、何のことを言っているのでしょう?
女の子の視線をよく見てみましょう。
空から見る人間たち……いろんな人がいます。
会社に行く男の人、自転車に乗るおばあちゃん、手を繋いで歩いてる親子、友だちと話してる女の子……。
みんな、胸の前に何か光っています。
赤いハートです。
ハート型のキラキラしたものが、みんなの胸の前にあります。
あ。
でも待ってください。
よく見ると、みんな、ハートの大きさが違います。
あの人はこぶし大くらい。
この人はドッジボールくらい。
その人は両手で抱えるくらいでっかいハートです。
「さぁ、ハートを咲かせに行きますか。待っててね。愛に飢えてるちっちゃなハートさんたち」
女の子が動き出しました。
小さな体で、速い速い。
目にも止まらぬ速さで、白い袋からチョコレートを出して、次々と配っていきます。
ん?でも全員に配っている……というわけではなさそうです。
どうやら、胸のハートがちっちゃな人たちだけに配っているようですね。
人間たちには、女の子の姿は見えていません。
あの人には机の上。
この人にはカバンの中。
その人にはズボンのポケットの中。
チョコレートを見つけたちっちゃなハートの持ち主は、その『愛のカケラ』をぱくっと口にします。
するとどうなるのでしょう?
あ、今、ちょうど女の子が、起きたばかりの大学生のところへ置いたみたいですね。
ちょっと様子を見てみましょう。
あらあら、この青年、なんとハートが親指大くらいしかありません。
よっぽど愛に飢えているのでしょうね。
さぁ、枕元に置いてある『愛のカケラ』に気づきました。
あくびをしながら包みを開けています。
なんのてらいもなく、『愛のカケラ』を口に放り込みます。
チョコレートの甘ーい香りが広がって、口の中でとろーりと溶けて……。
すると、彼の胸にあった、ちっちゃなハートが、ポンッと音を立てて、一回りでっかくなりました!
これがどうやら、彼女が言う「ハートが咲く」ということみたいですね。
そこに、電話がなりました。
なんと、別れた彼女からのようです。
何の話をしているのかまでは分かりませんが、嬉しそうな彼の顔を見ると、素敵なお話のようです。
なるほど。
手のひらサイズの女の子が『愛のカケラ』と呼ぶこのチョコレートには、ちっちゃくなってしまったハートを少しだけでっかくして、少しだけ愛を取り戻せる。
そんな不思議な力があるみたいです。


  ****


さて、街を一日中ひゅんひゅん飛んで、白くてでっかい袋の中身も、あとわずか…という時。
女の子の動きが止まりました。
「あーあ。消えそうなハートだわね」
視線の先には、30歳くらいのスーツ姿の男性です。
「しかたない、行ってやるか」
茶色と赤のワンピースの裾をひるがえし、女の子がひゅっと動きました。
「ねぇ、おじさん。そんなちっちゃなハートで、誰の愛に飢えてるの?」
突然、空から降ってきたそんな小さな姿に、男の人は目を丸くしました。
どうやら、彼には姿が見えるみたいです。
「え?君は誰?それに僕はまだ30歳だよ、おじさんはやめてくれよ」
ここは、その男の人が住んでいるアパートです。
ぐるっと見渡してみると、一人暮らしのようですが……?
「それは失礼。それにしても今日はハッピーなバレンタインだというのに、あなたのハート、消えそうよ?」
「僕のハート?消えそうって……そうか。実は僕は結婚していてね。今2歳になる男の子がいるんだよ。でも運悪く転勤で、可愛い盛りの時に、この通り単身赴任さ。妻からも最近は連絡もないし。バレンタインなんか、僕には関係ないよ」
「あら!一生独身みたいな顔してるのに、奥さんがいて男の子までいるの。じゃあ私も姿を変えてあげるわ。消えそうなハートの人だけ、特別サービスよ」
手のひらサイズの女の子は、そう言うと、ポポンッと音を立て、あっという間に姿を変えました。
おじさん…いえいえお兄さんの前には、かわいいかわいい5歳くらいの男の子がいます。
「へぇ!君がさっきのちっちゃな女の子かい? 変身までできるのか」
「へへ。すごいだろう?おじちゃんの子どもとどっちがかわいい?」
声や話し方まで、ちっちゃな男の子になっています。
「『お兄さん』。……君も確かに可愛いけれど、やっぱり僕の子の方が何倍もかわいいよ」
「ちぇ。まあ、いいや。ほら、おじちゃん、これあげる」
「『お兄…』ってもういいけど。ん?これは何?」
手のひらサイズの女の子が……おっと、今は普通の男の子ですが――でっかい袋からちっちゃな包みを取り出して、男の人に渡しました。
「いいから、食べてみなよ。『愛のカケラ』さ。ぼくからのプレゼントだよ」
彼はぱくっと口に放り込みました。
チョコレートの甘ーい香りが広がって、口の中でとろーりと溶けて……。
すると、彼の消えそうだった胸のハートが、ポンッと音を立てて、一回りでっかくなりました。
と同時に、玄関のチャイムが鳴りました。
「お届けものでーす」
見ると、その可愛らしい包み紙に、愛しい奥さんと、子どもの名前。
どうやら、さっきの『愛のカケラ』なんて、比べ物にならないくらい、でっかいチョコレートのようですね。
見事に、ハートが咲きました。



「やれやれ、素敵な奥さんで幸せ者ね」
また手のひらサイズに戻った女の子は、もう一度ひゅーんと街を飛んでいきます。
また一つ、『愛のカケラ』が白くでっかい袋からなくなりました。
でも、あと少し残っています。
「まだ、いるわね。消えそうなハートさん」
また、見つけたようです。
今度は一軒家の角の部屋に向かって、ひゅん、と飛んでいきました。
女の子は、窓から部屋に入りました。
さて、ここはどこでしょう?
「ちょっと!まだ夕方よ?寝るには早いんじゃない?」
狭い部屋のすみっこに、薄い布団をしいて、誰か寝ているようです。
突然のちっちゃな女の子の声にびっくりしたのか、ガバッと毛布をはいで、高校生くらいの男の子が顔を出しました。
「え?何?……っていうか誰?」
「『っていうか』あなたのハート、消えそうよ?寝てるくらいなら自分で愛を取り戻しなさいよ」
「消えそうなハート、だって?当たり前だろ。オレ、今日フラれたばっかりなんだぜ?」
「あらあら、こんなハッピーな日にお気の毒。じゃあ特別サービスよ」
手のひらサイズの女の子は、そう言うと、またポポンッと音を立てて、あっという間に姿を変えました。
そこには、三つ編みをした可愛らしい中学生くらいの女の子がちょこんと座っています。
「お前、でっかくもなれるのか。便利でいいな」
「そうよ。どう?可愛いでしょ。フラれたばかりのあなたの為に、可愛い女の子に姿を変えたの」
「まぁ、確かに可愛いけれど、オレ好みじゃないな。っていうかオレ、年下はキョーミないし」
「ま。フラれたばかりでなんてワガママなの。じゃあこれでどう?」
ポポンッ。
再び音を立てて、女の子は姿を変えました。
さっきちょこんと座っていたおさげの中学生が、今度は20代後半くらいの、真っ赤なワンピースを着たのオトナの女の人に変わっています。
ミニのスカートからすらっと伸びる足。
大きく開いた胸元からは、白い谷間がのぞいています。
「これで、どうかしら?これなら文句はないでしょ?」
うっとりした瞳で、男子高校生の顔を覗き込みます。
彼はびっくりした表情で、耳まで真っ赤になって、「はい」とだけ言いました。
「ふふ、大きな口をたたいてた割には照れ屋さんなのね。純な高校生って感じだわ」
くすくすと笑いながら、その女の子……いや、セクシーなオトナの女の人は、白くてでっかい袋から、ちっちゃな包みを一つ取り出しました。
「本当はここまでしないんだけど。反応が可愛かったから、大サービスよ。ほら『愛のカケラ』、食べなさい」
そう言うと、彼女は包みを開け、そのちっちゃな『愛のカケラ』を、赤い爪をした指でつまんで、男子高校生の口の中に放り込みました。
チョコレートの甘ーい香りが広がって、口の中でとろーりと溶けて……。
すると、男子高校生の消えそうだった胸のハートが、ポンッと音を立てて、一回りでっかくなりました。
同時に、メール受信を知らせる短い携帯の着信音。
画面をのぞくと、
【祝!バレンタイン♪かわいそうなキミにに合コンのお知らせ( '∇^*)^☆】
……どうやら、彼的には、これが愛のカタチのようですね。
見事に、ハートが咲きました。



「やれやれ、合コンで愛を取り戻せるなんてお手軽でいいわね」
また手のひらサイズに戻った女の子は、もう一度ひゅーんと街を飛んでいきます。
また一つ、『愛のカケラ』が白くてでっかい袋からなくなりました。
でも、あと少し残っています。
「まだ、いるわね。消えそうなハートさん」
また、見つけたようです。
今度は、街の端っこにある、ちっちゃなカフェに向かって、ひゅん、と飛んでいきました。
自動ドアをすっと開けて、店内に入り込みます。
街の端っこにあるカフェの、これまた端っこの席に、OLらしき30歳くらいの女の人が座っています。
どうやら一人のようですね。
「おねーさん。なぁ~に冷めたコーヒー片手に、店内のカップルを羨ましそうに見てるのよ」
突然のちっちゃな女の子の声にびっくりしたのか、その女性はコーヒーカップをがちゃんと置いて、目を丸くしました。
「え?あなた誰?それに私、別に羨ましそうに、なんてしてないわよ」
「ま、よく言うわね。さっきからずっと幸せそうなカップルばっかり眺めてるくせに」
「だって……世間はバレンタインで浮かれてるっていうのに、私は彼氏どころか好きな人すらいない。家に帰れば結婚はまだかって親がうるさいし…。今日はずっとここにいるわ」
「あらあら、消えそうなハートはそのためか。じゃあ私も付き合ってあげる」
手のひらサイズの女の子は、そう言うと、またポポンッと音を立てて、あっという間に姿を変えました。
今度は、その目の前にいる女の人と同じような年代で、同じような格好をした女性に姿を変えました。
「きゃ。あなた、でっかくもなれるのね。しかもちゃっかりコーヒー片手に座ってるし」
「そうよ。あなたの年恰好を真似てみたの。私のコーヒーは熱々だけどね」
「でも、なんか懐かしい、こういう感じ。友だちとカフェでおしゃべり、なんてこともすっかりなくなっちゃったから」
「『まあね。このくらいの歳になると、友達はみんな結婚しちゃって、中には子どもまでいたりして。会社はだんだん居づらくなってくるし……』でしょ?」
言いながら、その手のひらサイズの女の子……いや、今はOLでしょうか、湯気のたつコーヒーを一口すすりました。
「何もバレンタインは男性だけのもの、とは限らないわ。あなたの消えそうなハート、私がなんとかしてあげる」
「私のハート、消えそうなの?それはいやだわ。愛が欲しいもの」
「分かってるわよ。ほら、これ。『愛のカケラ』プレゼント」
女の人は渡されたちっちゃな包みを開けて、ぱくっと口の中に放り込みました。
チョコレートの甘ーい香りが広がって、口の中でとろーりと溶けて……。
すると、彼女の消えそうだった胸のハートが、ポンッと音を立てて、一回りでっかくなりました。
同時に、向こうから、ウエイターの格好をした男の人が近寄ってきました。
そして小声で彼女に話しかけます。
「あの、よく、この席に座ってますよね」
どうやら、思いがけないところに愛はあったみたいです。
見事にハートが咲きました。



「カフェで出会うなんて、ちょっとステキじゃない」
また手のひらサイズに戻った女の子は、もう一度ひゅーんと街を飛んでいきます。
また一つ、『愛のカケラ』が白くてでっかい袋からなくなりました。
おや?
その袋の中をよーく覗き込んでみると……残る『愛のカケラ』はあと一つとなりました。
「あと一つ!もうすぐ今年のお仕事も終わりだわ。さぁ誰にあげようかな?」
ビルの屋上の手すりにちょんと乗っかって、街全体をぐるっと見渡しました。
「よし、決めた!あの人にしよう」
そう言うと、また消えそうなハートの持ち主のところへと、ひゅん、と飛んでいきました。
辺りはもう暗くなる時間です。
街中にも人が少しずつ減り、家路に着く人たちが増えてきました。
最後の一人も、そんな人のようです。
暗くて狭い路地裏に、スーツでとぼとぼ歩く寂しそうな後ろ姿を見つけました。
「おじさん、だいぶお疲れのようね。もう、いい大人だってのに、そんな背中丸めて歩いててどうするのよ。」
突然のちっちゃな女の子の声にびっくりしたのか、その50歳くらいのおじさんは足をとめて、目を丸くしました。
「え?いきなり何だ?君は?」
「これから家に帰るんでしょ?もうちょっと楽しそうにしなさいよ。ハートも今までの人の中で一番見えにくいわ」
「ハートが見えにくい?……ああ、そうかもしれないなぁ。今の私には愛なんて無縁だから」
「寂しいこと言うわね。その歳じゃ家族もいるでしょ?子どもだって」
「いるさ。口もきいてくれない高校生の娘がね」
「女子高生か。難しい年頃だものね。しかたない、じゃあ特別にこんなのはどう?」
そう言うと、その手のひらサイズの女の子は、ポポンッと音を立てて、あっという間に姿を変えました。
そして、そのおじさんの前に現れた姿はというと……。
「どう?ぴっちぴちの女子高生よ。おじさんのムスメっていうのも、こんな感じ?」
「おっと。君はでっかくもなれるんだな。見事な変身っぷりだ。でも、うちの娘はそんな純粋でいい子そうな高校生じゃないよ」
なるほど、確かに目の前に現れた女子高生は、制服もきちっと着ているし、髪の毛も上品な黒だし、スカートの丈も、きちんと膝まであります。
「ふぅん、ってことはギャルちっくな感じか。そりゃお父さん苦労しそうだわ。もう一回変身し直してもいいけど、他の人に変な目で見られそうだから、ここではやめとくわ」
「うん、そうしてくれ。外でまであんなのは見たくないよ」
「ずいぶんな言いようね。ま、いいわ。はい、これあげる。『愛のカケラ』よ」
「『愛のカケラ』?なんだいそれ」
目の前の女子高生から差し出された、ちっちゃな包み。
「いいから食べてみてよ。少しだけ愛が手に入って、ハートがでっかくなるわよ」
「『愛が手に入る』?あぁ、今日はバレンタインか。チョコだったら私はけっこうだよ。今さら愛なんて欲しくないんだ」
「なんですって?愛がいらないって言うの?」
「ああ、そうだ。もう疲れたんだよ。娘だけじゃなくて、妻ともどんどん疎遠になっていく。家族とはほとんど口をきいていない。『愛』のおかげで余計な会話が増えるより、私は今の生活でいいんだよ」
そのおじさんはそこまで言うと、また同じようにとぼとぼと、歩き始めました。
女の子は焦りました。
おじさんの後に続きます。
「ちょ、ちょっと待ってよ。この『愛のカケラ』をあなたが受け取ってくれないと、私は今年の仕事が終わらないのよ」
「じゃあ他の人にやってくれ。私より『愛』に飢えている人たちなんて、他にいっぱいいるだろう」
「んもう!それじゃ私の気が済まないわ。私からの『愛のカケラ』を受け取らないなんてあなたが初めてよ。どうしても受け取ってもらうから」
女の子は道をふさぐように、ぐいっとおじさんの前に出ました。
おじさんはふぅっとため息をつきました。
「君はさっきから『愛のカケラ』と言っているが、一つ聞いていいかい?なぜ『カケラ』なんだ?どうやら君は私みたいにハートがちっちゃな人たちに『愛』を配っているようだけど、そんな意味のないこと。だったらそんな『カケラ』じゃなくて、きちんとしたハートの形のチョコレートを配ればいだろう。どうせだったら完全な『愛』をくれないか」
そこまで聞いた女の子、少し顔つきが変わりました。
両の拳がぐーになっています。
「『意味のない』ですって?あなたこそ何も分かってないわ。『愛』で作った完全なハート型のチョコレートを私が与えてしまったら、本当の『愛』は誰から与えられるの?『愛』は絶対に身近にあるものよ。みんなそれに気づいてないだけ。私がわざわざ『カケラ』をあげるのは、それに気づいて欲しいからよ。『カケラ』は単なるきっかけにすぎないわ」
「ふうん。なるほど。でも私はやっぱりいらないよ。今さら『愛』なんて必要ないからね。それに私にきっかけをくれても、きっと身近に『愛』なんてないよ」
「ウソよ、そんなの。『愛』がないなんて人、いるわけがないわ」
「どうしてそんなこと、言い切れるんだい?」
「だって」
そこで女の子は、一度言葉を切りました。
そして、彼の胸を指差し、強い口調で続けます。
「だって、あなたのハート、まだ光ってるもの」
おじさんははっとしたように、その女の子の指先を見ます。
見えないはずの赤いハート。
ここにあるはずの、光るハート。
「すっごくちっちゃいけれど。すっごく弱々しいけれど。ハートがある以上、『愛』はあるのよ。そしてそれをでっかくできるかどうかは、その人次第なの。このままだとおじさんのハート、本当にいつか消えてなくなってしまいそう」
女の子の、必死で真っ直ぐな言葉が伝わったのでしょうか。
おじさんの表情も、少し明るくなりました。
さっきまでは微塵も見られなかった笑顔が、ちらりと見えるようになったのです。
「……ありがとう。私も歳をとったものだ。人の言葉が素直に聞けなくなっている。娘と同じ年頃の君に諭されるとは、思っても見なかったよ」
女の子の本当の年齢は、もっとずっとずっと、おじさんよりずーーーーっと上だけれど、それは言いませんでした。
「それ」
さっきからずっと差し出されていたちっちゃな『愛のカケラ』を、おじさんが見つめました。
「食べてくれるのね?」
嬉しそうに女の子が言いました。
「うん、でも一つお願いがあるんだ。この『愛のカケラ』、『愛』じゃなくて、『勇気のカケラ』に変えられるかい?」
それは、とても意外なお願いでした。
でも、そのおじさんの顔がすごく優しくて、女の子は首を縦に振りました。
「……できるわ。でも、『愛のカケラ』よりも、もっともっとちっちゃなカケラになるけど、それでもいい?」
「もちろんだよ。ありがとう」
「でもどうして『勇気』なの?『愛』でいいじゃない」
「君が言ったじゃないか。『愛』がない人なんていない。それに気づいてないだけなんだって。だから私は家族の『愛』を確かめてみようと思う。今日、思い切って話しかけてみるよ。でも、それには少しだけ『勇気』が必要だ。私の『愛』のために、ちょっとだけ手助けを頼むよ」
「分かったわ。じゃあ」
女の子はうなずくと、手にしていた『愛のカケラ』に、強く息を吹きかけました。
すると、ポポポンッと音がして、中のチョコレートが、少しだけ姿を変えました。
見ると、ちっちゃなアーモンドのカケラが上にちょこんと乗っています。
「チョコレートには、何も入ってないわ。ただのチョコレートよ。そのアーモンドのカケラが、『勇気のカケラ』」
もう一度、女の子は両手を差し出しました。
ちっちゃな手のひらに、ちっちゃなチョコレートが乗っています。
そのちっちゃなカケラを、おじさんはぱくっと口の中に放りこみました。
「ありがとう」
おじさんはそれだけ言うと、また、元の道をまっすぐ歩き出しました。
出会う前のような、丸い背中ではありません。
明日になれば、消えそうだった赤いハートも、きっと、見違えるほど、でっかく光っていることでしょう。
『愛』がない、なんて人はいないのですから。


  ****


女の子は、また手のひらサイズに戻って、空になった白くでっかい袋を抱えて、高く高く飛んで行きました。
どこに行ったのかは、わかりません。
でも、きっとまた来年、この街に現れるはずです。
ちっちゃな『愛のカケラ』を配りに。
そして、でっかいハートを咲かせるために。





今年、あなたの元に、『愛のカケラ』は届きましたか?

届いていない人、なぜかって?

それはきっと、あなたの身近に『愛』があるからですよ。
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この記事に対するコメント

ふふふ。
とっても可愛くて、あったかいね
こしゃらしい愛に溢れた作品だなぁ・・・と思います♪
『愛』のカケラ・・・アタシの元には届いてません(笑)
【2007/02/16 11:35】 URL | びぃ #-

わーい♪
感想ありがとうです!
今回はちょっとだけ絵本風にしてみました。
届いてないということはつまり…うふふ。
【2007/02/21 20:56】 URL | こさめ #-

お久しぶりです。
コメント、だいぶご無沙汰になってしまいました。
お久しぶりです。

ハート咲クとても面白かったです!!
少し涙がでそうになるぐらい、暖かな作品でした。

これからもがんばってください^^
【2007/02/22 22:46】 URL | ロビタ #-

ありがとうです!
こんな作品で貴重な涙を…(笑)。
本当に嬉しいです!
ありがとうございます(@^▽^@)

次回はまた歌詞モチーフかもしれません(^^;
【2007/02/24 17:43】 URL | こさめ #-


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