散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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I’m in love?   (2006/12/15)
あなたの影が夜ごとにあらわれて
はずかしながら睡眠不足の今週の僕

2、3回少々口きいただけで お互いにまだなにも知らない
始まりそうで始められないこんな関係 どう言えばいいの

I’m in love? 笑いごとじゃない
雪崩がおきそう
その声がこの胸の奥の鐘を鳴らしてしまった

人生にもちょっとずつ経験を積んでゆけば
やみくもに前にばかり進めなくなる

カレンダーがぱらぱらめくれていって
いつしか興奮も冷めるだろう
でももし今日という日でこの世界が
終わるとしたらみんなどうするの?

I’m in love? だれにも言えない
自信もぐらつく
ありえないことばかり想像しては夜が更けてゆく

なんだろう? 済みきった声に
真っ直ぐ立ってらんねぇ
I’m in love? だれにも言うまい
堤防は決壊しそう
今ならまるで新しい自分になれそうな気がする
始まるかもしれない


Words by B’z「I’m in love?」





――ああ、もう、また。
ギュッと目を閉じて、布団を頭からかぶる。
これで、今夜何度目の寝返りだろう。
体は疲れているはず。でも頭が眠くないって言っている。
寝なくては、と思えば思うほど、意識が鮮明になってくる。
瞳を閉じても暗闇にならない。見えないはずの彼女の姿。
深夜2時。聞こえないはずの、彼女の声。

こんな夜が、もう一週間も続いている。

  *****

「はよ。なんだ、具合悪いのか?」
 机に突っ伏して、朝のクラスの雑踏を聞いていた僕の上に、遠慮なく降りかかる声。
 僕の前の席に鞄をかけ、ゼンジは朝からだるそうにどっかと腰をおろした。
 本名は善治と書いてヨシハル。去年からの付き合いだが、少し口が立つことを除けば、なかなかいいやつだ。
「いや…眠いだけ」
 ホームルーム開始のチャイムまであと5分。願わくばゆっくり寝ていたかったが、こうなるとそうはいかない。
 僕はあきらめたようにのっそりと体を起こし、あくびと同時に口を開く。まくら代わりにしていたマフラーをたたみ、すぐ後ろのロッカーに突っ込む。
 クラスには、いつの間にかほとんどの生徒が登校していたようだ。
「はっ。さすが受験生。テスト勉強に勤しみ…なわけないか」
「んなわけねーよ。……ちょっと、睡眠不足で」
「だよなぁ。とゆーことは今日のライティングの宿題ももちろんやってないよねぇえ?絶対ここはテストに出るぞ~って言ってたやつ」
「ああっ!」
「はい、ザンネン」
「たのむ、見して!」
「Aランチとから揚げ棒」
「Bランチとフライドポテト!」
「交渉決裂。サヨナラ~」
「ちょっと待ったぁ~」
 そんなやり取りをしている間に、チャイムが鳴る。睡眠不足の原因を聞かれないことに、ほっとしたような、がっかりしたような。
 ガラリとドアを開けて担任が入ってくる。

 今日もまた、いつもと同じ一日のハジマリ。

  *****

 彼女と出会ったのは、ほんの1週間前だ。
 普段図書室なんて行かないのに、今は完全テスト前。年に5回、図書室が混雑する期間だった。みんなの目当ては自習机…ではなく、ドア横にある、たった一台のコピー機。この時期だけは、ここぞとばかりにその存在が際立っている。堅実に勉強しに来る奴より、他人のノートをコピりに来る奴の方がよっぽど多いのだ。
 僕も例に洩れず、その一人だった。
 散々ゼンジに頼み込んだ結果、から揚げ棒一本でノートコピー権を獲得し、一人長蛇の列に並んでいた。
「プリント一枚足りないよー」
「ここもテスト範囲だっけ?」
「あ、こないだのとこ書いてないじゃん」
 テスト前になると決まって繰り返されるこんな会話。一人でいると、嫌でも耳に入ってきてしまう。
そのたびに考える、いろんなこと。
 みんな普段からやってないないなダメじゃん、って僕もだけど、受験生とは思えないな、こんなの、大学なんて早すぎるよ、いきなり将来の夢とか言われても、今こんなせかせか勉強してることってはたして意味があるんだろうか、点数が1点あがったからって――。
 ここらへんまでぐるぐる考えて、ようやく僕の番がきた。よかった。これ以上考えるとせっかくのノート獲得権が無駄になってしまうところだった。
 おとなしく、コピーして勉強しよう。
 コインを入れる。
 ノートを開いてセットする。
 数字の「1」ボタンを押して、「スタート」ボタンを押す。
 ゼンジのこぎれいなノートの写しが、ガーっと出てくる。
 はずだった。
 出てくるはずの紙は、「ガガ…」と、どうしようもなくいやな感じの音と共に、機械の中に飲み込まれた。「まさか」と思って見たディスプレイには、案の定「紙詰まりです」の容赦ない文字。サッと、冷たい汗が流れた気がした。後ろを見ると、まだまだ途切れそうもないノートたち。慌てて紙が出てくる箇所を見てみるが、なんら変わったところはない。なんのボタンを押しても液晶画面は変化ない。すがったように見たカウンター。あいにく書架整理のため、司書の先生は不在。
そろそろ、後ろからのプレッシャーが感じられる。
 ああ、くそ、なんで学校にコピー機が一個しかないんだよっ。
「――あの、大丈夫ですか?」
 焦りがピークに達したその時、右隣から聞こえた天の声。
 え、と思って見ると、肩までの髪をふたつに縛った、少し小柄な感じの女の子が立っている。
「えっ……と、詰まっちゃったみたいで」
 僕がそれだけ言うと、その子はすっとコピー機の前に来て、
「こっちを見るんです」
 と言って、給紙トレイをガタンと開けた。それからは見事な手際だった。詰まった紙を取り除き、残りの紙も整頓しなおしてセットし、なんらかのボタンをピピッと押して、
「なおりました」
 とにっこり僕に笑いかけた。
 今思うと、その笑顔とその声が、僕のこの奥の鐘を鳴らしてしまったのだ。
 僕は小さく、
「あ、どうも」
 と言い、再びコピーを試み始めた。わずかな胸の高揚を抑えつつ、これが終わったら、改めてお礼を言おう、と思いながら作業を続けた。
 ところが、僕のコピーが終わった頃には、彼女の姿はすっかり消えていた。
 図書室には相変わらず人が多い。
 覚えているのは、制服の上着についていた、赤い校章。

  *****

 翌日、僕はゼンジには内緒で、再び図書室へと足を運んだ。
 会いたい、とかじゃない。ただ、昨日きちんとお礼を言っていなかったから。
 本当に、一言だけ、お礼を。
 彼女はすぐに見つかった。
 昨日と変わらず人で賑わっている中、彼女は一人黙々と机に向かっていた。
 コピーだけじゃなくて、きちんと勉強している子もたくさんいるんだな…と改めて思いつつ、軽く息を吐く。よし。
「あの」
 ここは、図書室。意識しなくとも、小声になってしまう。突然降ってきた僕の声に反応し、一瞬の戸惑った表情を見せた彼女だが、すぐ「あ」という形の口を作った。
 彼女の言葉を待たず、話しだす。
「昨日はどうもすいません。ちゃんとお礼言おうと思ったんだけど、いなくなっちゃって。あの、ホントにありがとう」
「あ、大丈夫ですよー。わざわざすみません」
 彼女もまた、周りに聞こえないような小さな声で答えた。
 胸の前で手を振って、昨日と変わらない笑顔で。
 さて。
 用は済んだ。これ以上話すこともない。これでさよならだ。
 でも。
 何かないか。何か話すこと。探せ。なんでもいいから。ほら、早く。
 自分の声が聞こえる。なかなか立ち去らない僕を、彼女がこくっと首をかしげて不思議そうに見ている。
 その時ふと目に入った、胸に光る赤い校章。うちの学校は学年ごとに校章の色が違う。
「――2年生?」
 たった一言。搾り出したようなその言葉に、彼女はほんの一瞬止まり、
「あ、はい」
 と頷いた。
 限界だ。ここまでだ。僕は、じゃあ、と呟くと、そそくさと図書室を後にした。

  *****

 あれから、一週間。明日から、二学期期末テスト。こんなことを考えてる場合じゃないのに。受験だって控えているのに。
 あの日から、彼女の夢を3回くらい見た。
「たまにはポテトでもいっか」
 結局、間をとってBランチとフライドポテトで手をうったゼンジが、ざわついた食堂で夢中でポテトをむさぼっている。その横で、必死にノートを写す僕。全く、我ながらゼンジがいなかったら卒業も危うかったのではないかと思う。恥ずかしながら、お世話になりっぱなしだ。
「よっし終わった。マジ助かったわゼンジ」
「感謝するなら今からから揚げ棒プラスでもいいぜ」
 その言葉を見事にスルーし、丁重にノートをお返しする。ゼンジは最後に残った細かいポテトを一気に口の中に流しこみ、空っぽの袋を僕に押し付けながら席を立った。僕もそれに続く。
 袋を丸めてゴミ箱に入れ、教室へと向かう。まだまだ一日は終わらない。これから午後の授業だ。
 さみい、さみいと言いながら階段を上がる。上から聞こえてくる数人の女子の声。
 その女子たちとすれ違う踊り場で、思わずはっ、とした。
 彼女だった。
 迷った。声をかけるべきか。そのまま素通りするか。
 彼女も僕に気づいたようだ。刹那、視線が交わる。
 しかし。
 すっ、と。二人はすれ違った。他人だった。僕と彼女の間には、何も、ない。ただ、コピー機を直した人と、直してもらった人だ。たった2、3回、口をきいたことがあるだけで、お互いにまだ何も知らない。挨拶をする間柄でも、ない。
 一言「こんにちは」と声をかければ、もちろん快く返事をしてくれるだろう。でも、そのたった一言がどうにも難しい。始まりそうで始められない、こんな関係をどう言えばいいのだろう。――知人。いや、それ以下か。
「今の女子、なに?知り合い?」
 意外と鋭いゼンジがすかさず聞いて来た。わずかな動揺を隠しながら、そしらぬ顔で言葉を紡ぐ。
「なんで。今の2年だろ。知り合いなんていないよ」
「そっか。お前が知ってる女子の方が珍しいか」
 べつだん、興味なさそうにゼンジが笑う。くそう。笑い事じゃない。
 いろんな感情が渦巻いて、今にも雪崩がおきそうだ。もちろん、そんなことだれにも言えないけれど。

 *****

 期末テストが終わった。
 結果は良くも悪くも、という無難な、というか微妙な結果に終わり、担任からは散々発破をかけられた。あとは余計なことを考えずに受験勉強に専念しろ。この二ヶ月が人生の勝負だ。最後まで気を抜かず前進して行け。――とりあえず、はい、はい、とおとなしく聞いていた。
 「人生」か。まだ18年足らずしか過ごしてない人生だけれど、それなりに経験も積んできたつもりだ。人並みに勉強もしたし(今が一番しなきゃいけない時期だけど)、人並みに誰かを好きになったりもした。その経験の中で、前へ進むことが必ずしも成功に繋がるとは限らないということも学んだ。
 テスト中は一切彼女に会っていない。このまま日にちが経って、一ヶ月が過ぎて、カレンダーがぱらぱらめくれていけば、僕の中に残るこの興奮も冷めていってしまうのだろうか。始まらない関係だったら、いっそのことそうしてしまおうか。
 でも、前進が成功に繋がらないことはあるかもしれないけれど、成功は前進なくしては生まれない。このまま時が経てば、きっと彼女とのつながりはなくなってしまう。あのコピー機の前で出会ったこと自体が削除されてしまう。
 テストが終わったその日、ゼンジから一緒に帰ろう、との誘いを受けたが、担任からの呼び出しを理由に断った(あながち嘘ではない)。
 なんだか、むしょうにあの場所に行きたくて。

 さすがにテストが終わったその日は、この前とはうって変わってガランとしていた。もちろん、会えることを期待していたわけではない。テスト後だ。ゼンジたちのように寄り道の計画を立てながらすっきりと帰るのが普通だろう。でも、今日はまっすぐ帰るのは無理だった。初めて会ったあの場所に、ただ来たかった、それだけ。

 だから。
 心臓が止まるかと思った。
 初めて声をかけたあの場所に、彼女は、いた。
 あの時みたいに参考書にかじりついたりはしていない。
 机にむかっているものの、視線はどこか浮ついている。
 ほおづえをついているその横顔は、まだどこか迷いがあった僕の心を決めるのに十分な表情で。

 どきっとした。
 彼女が、僕に気づいた。
 彼女が席を立ち、歩き出す。近づいてくる。  
 コピー機の横で呆然と突っ立っていた僕は、必死に言葉を探した。
 でも、出てこない。
 僕が今、彼女に一番伝えたいことは。

 僕の前に来た彼女が、丁寧な動作で笑って会釈。
 ゆっくりと口を開く。
「……ここに来れば、会えるかと思って」

――なんだろう。
 澄み切った声にまっすぐ立っていられない。
 そうか。
 それは、僕が彼女に言いたかったこと。探して探して、ようやく見つかった言葉。
 一週間以上前から、もやもやしていた僕の感情の堤防は、今にも決壊しそうだ。
 にこっとした彼女の笑顔は、初めて会った時となんら変わりなく。

 今なら、新しい自分になれそうな気がする。
 彼女と会う前の自分から、新しい自分へ。
 それは、どんな楽しいことよりも、わくわくするもの。
 切れそうな糸のように、細い細い関係だった僕たちが、ようやく始まるかもしれない。

 彼女のふわっとした笑顔が、愛しい。

  
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この記事に対するコメント


こんにちわ。
WARPの次は、
I'm in love?ですか~
今回もとってもいい感じです(^^
まるで僕の趣味をご存知かのような選曲で、
一気に読ませていただきました。。
次回作、期待してます♪
【2006/12/15 10:10】 URL | 畑山正人 #-

コメントありがとうございます!
主人公を、30歳か18歳か迷って、後者にしてみました。
選曲は~…車の中で聞いていてピンときたものを使っています(^^;
楽しんでいただけたみたいで何よりです☆
ぜひまたお越しくださいね♪
【2006/12/17 17:41】 URL | こさめ #-

素晴らしい!
なんかいいね、今回の(*^▽^*)

きっと誰もがこれに近いような体験してるもんね。いい思い出だよ。
【2006/12/17 19:36】 URL | GAM #-

遅レスごめんなさい!
コメありがとうです!
今回はちょっと身近な感じにしてみました。
お褒めいただきめっちゃ嬉しいです☆

またよろしくです!!
【2007/01/09 00:51】 URL | こさめ #-


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