散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
プロフィール

  • 執筆陣紹介

    P助
    主宰。企画/発案担当。
    え、それって口だけってこと!?(笑)


    大塚晩霜
    デザイン担当。ブログのレイアウトが悪いとすればコイツのせいなんだ。
    週刊とりぶみ


    ナチュレ
    [プロフィール作成中...]


    仁礼小一郎
    沖縄出身ゴールデンルーキー

    某サークル六代目総長

    しがないサラリーマン
    ~順調にジョブチェンジ中!~
    (HP:気分は下克城!!
    See-Saa Night Fever!!


    こさめ
    万緑ソー中、紅一点!? 
    ココロに移りゆく何ごとか


    イシカワ マキ
    長野市在住。



カテゴリー



月別アーカイブ



ブログ内検索



リンク

このブログをリンクに追加する



スポンサーサイト   (--/--/--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



空っぽの明日   (2006/10/14)
 ――やってられるか。
 月曜日、夜の10時。
 ひと気のない路地で、くたびれたスーツ姿の男は呟いた。
 ――やってられるか。我慢できない。
その顔は憤怒と落胆と失望で強張り、まだ20代半ばだろうと思われるその風貌は、疲労しきった40代に見える。保険会社に勤めている男は、上司のミスの尻拭いをさせられ、会社全体に大問題を起こした。右手に持ったアタッシュケースが、今日はいつもよりずっしりと重い。
24時間営業のコンビニエンスストアに入り、カップ麺とおにぎり一個を買う。迷ったが最後にマイルドセブンを付け足した。
 ビニール袋を下げ、とぼとぼ歩くその先に、おあつらえ向きの小石を見つけた。ちょうど歩幅が合い、男は右足でコン、と蹴飛ばした。小石は2メートルくらい先にうまい具合に転がった。男は歩を止めない。また右足の先にさっきの小石がある。今度はちょっと力を弱めて突付くように軽く蹴った。力が弱かったのか、少し左に道筋が逸れた。だんだんおもしろくなってきた。
 子どもの頃は、こんな小石一つで何時間でもサッカーが出来たものだ。
 単純で、くだらないこんな遊びに、喜びを見つけ、いつの間にか没頭していた。車道に入ったら、負け。自分で決めたルール。仕事のルールも、これくらい単純だったらどれだけ楽だろう。上司も複雑な派閥も関係ない、
 でも、単純な仕事ほど退屈なのも分かっている。
 どれだけ文句を言っても、辞められないのも分かっている。
 それだけに、腹が立つ。
 結局は妥協か。
 
 男は小石を蹴り続ける。
 モヤモヤした霧みたいなもので頭がいっぱいで、不覚にも男は、すぐ後ろを歩く親子連れに気付いていなかった。自分を含めた、3人の足音に混じって、小声でしている親子の会話が耳に入った。
「いい歳して、石コロなんて蹴って歩いて」
 いかにも侮蔑を含んだその女性の声に、男はふと、視線だけを軽く後ろに流した。
「オトナでもあんなことするんだね、おかあさん」
「みっともないから、ヨシくんはあんな大人になっちゃダメよ」
 その親子が自分の話をしていると気がついた時、カァッと、なんとも言えない恥ずかしさと屈辱感が全身を駆け巡った。
 石蹴りゲームはそこで終了。羞恥を消し去るように、男は足早に歩いてゆく。
――お前らに何がわかる。学校で勉強して塾で勉強して家でも勉強して。俺も立派な大人になろうと思って勉強してたんだ。今いくら必死に勉強したところで、お前もいずれ俺になるんだ。今勉強していることなんてこれっぽっちも役に立たないってことが、今に分かるさ。
 そこで、母と息子の会話は途切れた。どうやら、道沿いに自宅があったらしく、重い扉を開く音に続き、「ただいまー」という元気な声が遠く後ろから聞こえた。
 
 男はつい足を止め、後ろを振り返った。今しがた閉じられた重厚な扉をじっと見つめる。その一軒家の窓という窓から光が洩れはじめた。
 「――ちくしょうッ」
 胸の奥から搾り出すようなその声が、暗い路地にむなしく響く。ビニール袋を抱え、男はさらに暗い闇へと走り出した。

 月曜日、夜の10時。
スポンサーサイト





この記事に対するコメント


お気軽にコメントをお書き下さい











«  | ホーム |  »


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。