散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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四畳半の情熱   (2006/06/04)
「あぁ…、超能力があったらなぁ…」
四畳半の部屋の中、白黒のテレビでユリ・ゲラーの特別番組を見ながら、つい愚痴ってしまう。
外は既に暖かな季節となっているというのに、出しっぱなしで湿っぽいコタツの周りでいびきをかいている仲間達に目を向け、一つ溜め息をついた。狭っ苦しい部屋の中に大の男が4人も居れば、足の踏み場など無い。
コタツの上で空になった日本酒の一升瓶を眺めていると、学生運動、所謂安保闘争のニュースに燃えていたのが嘘のように思えてくる。安田講堂は数年前に落ち、沖縄は返還され、有り余る力はその標的を失い、日々を堕落させていった。
革命だなんだと熱中し、先駆者達に続けと意気込んで進学した大学には、既にその狂乱と熱狂は無く、反体制の同士となるはずだった仲間達、コタツの周りで酔っぱらって寝ているヤツラは、ひたすら酒と、まだ少しだけ反体制の香りを残していたフォークに傾倒していったのだ。
オレは、テレビの横で少し埃っぽくなっているフォークギターを手に取り、最近出たばかりのウィークエンドの新曲を奏で、口ずさんだ。

「あなたがいつか話してくれた 岬を僕はたずねて来た
二人で行くと約束したが いまではそれもかなわないこと…」


ちょうどサビを唄うところに差し掛かったところで、部屋の奥で寝ていたSが目を覚ました。
「なんだ、起きてたのか」
「あぁ…。起こしてすまん」
Sは、ボサボサになった髪を更にボサボサに掻き上げながら、上体を起こしてオレの方を向いた。
「『岬めぐり』か。良い歌だな…」
「あぁ。何だかこの曲を聴くと、切なくなるんだよな。曲調は“かぐや姫”なんかと違って暗くないのにさ」
「その気持ち、分かる気がするよ、オレにも」

Sに急かされ、オレは歌の続きを奏でる。その音色に合わせて、オレとSはサビを唄う。

「岬めぐりのバスが走る 窓に広がる青い海よ
悲しみ深く胸に沈めたら この旅終えて街に帰ろう」


歌い終えて、オレもSも、互いに微妙な笑顔を浮かべ、無言で見つめ合った。オレはギターを元の場所に戻し、天井を見上げながら煙草に火を付けた。煙を天井のシミに向かい吹きかける。灰が床に落ち、慌てて傍らのトイレットペーパーで拾い上げようとしたオレの手を、Sが制した。
「止めとけ、紙は高騰するんだから」
「そうだったな、すまん…」
前年から始まっていたオイルショックは収まる気配が無く、遂には生活必需品である紙まで高騰するのだと、街中で噂されていた。「節約は美徳」なんて言葉が、合い言葉になっていた。

「まるで戦時中みたいだよな…」
Sは灰皿から煙草を拾い上げ、シケモクをしながら苦笑いを浮かべていた。
「『欲しがりません、勝つまでは』、か…」
「結局その戦争に負けて、今の日本がある、と」
「今更節約なんて始めたところで、何になるんだか」
オレは最後の一息を天井に吐いて、煙草を消した。いつの間にかテレビはニュース番組に変わっていて、数ヶ月前にフィリピンから戻ってきていた小野田少尉の近況が映し出されていた。その表情は、この数ヶ月でかなり変わっていた。発見された当初の厳しさと鋭さは、和やかな笑顔へと置き換わった。戦争から平和へ、その変化こそが日本人を甘くしているに違いない。だからこそ闘争が必要なのだ。

こうして何ごともなく日々を過ごすのにも、もう飽きた。思い描いていた学生生活とは余りにもかけ離れている。生まれてくるのがあと数年早ければ、あの日本中の若者を巻き込んだ狂乱の中に居る事が出来たのに、と考えてしまうと親を呪いたくなる。そうしてその想いがまた、何もない日々をますます色褪せて映し出しているに違いない。

「なぁ?」と、Sが突然オレに尋ねてきた。
「このまま生きてて、楽しいのかな…?」

Sはオレなどと違い、明確な思想を持って闘争に参加しようとしていた。大学で出会った当初のSは、いつでもその思想を熱く語り、そんな時のSの表情は、まるでフィリピンの山中から出てきたばかりで、鋭かった頃の小野田少尉のようだった。しかし今のSの表情には、残念ながらその鋭さは無い。
Sは良く「入る大学を間違えた」とオレに愚痴っていた。確かにうちの大学は、他に比べるとあまりにすんなりと平和慣れしてしまったように思える。数年前の先輩達の行動など、誰の記憶にも残っていないのでは無いだろうか。それほど、大学自体が安穏とした雰囲気に包まれていた。そしてそんな雰囲気に残念ながら飲み込まれてしまったのが、オレでありSであった。

「なぁ、どうなんだろう?」と、Sは再度聞いてきた。オレはSの目を真剣に見つめ直し、答えた。
「このまま生きてりゃ、そりゃつまらないだろうな」
「そう思うか?」
「あぁ、そう思う。今のオレ達は、情熱の行き場を失っているんだよ。そんなんじゃ、楽しいわけがない」
「そうか…。じゃあどうすりゃいい? 情熱は、オレ達にまだ残っているのか?」
Sの問いかけに、オレは考える。情熱は、オレ達にまだ残っているのだろうか? まだコタツで眠り込んでいる二人は? オレは? そしてSは? 情熱は、果たしてオレ達にまだ残っているのだろうか? オレは、それをはっきりさせなければならないと悟った。それこそが、今後生きていく上で重要な事だと悟った。情熱がまだあるのなら動くしかないし、もう無いのならそのことを自覚して生きていかなければならない。とにかく、明らかにしたかったのだ。

「バリ封、やろう」と、オレは一言、自分でも予想外の言葉を発した。もちろん、Sは驚きながらオレの方を見ている。「バリ封、やろう」と、オレはもう一度言った。自分自身にも言い聞かせるように。



バリケード封鎖を敢行し、大学の講堂を占拠したオレ達は、一時の興奮が既に冷め、意地だけで占拠を続行していた。そもそも掲げる思想を準備していなかったバリ封は、さほど大学側に影響を与えられることなく、数日後には潰された。オレ達は全員逮捕されたが、革マル派でも中核派でも何でもなく、セクトに属さないオレ達に構っている程警察は暇でないのか、さっさと釈放された。大学は退学になった。そしてオレ達は、それっきりバラバラになった。

それから暫く経って、オレの四畳半の部屋に、Sがふらりとやって来た。まだ出されたままのコタツを眺め、「相変わらずだな」と苦笑いしたSは、ギターを手に取り、井上陽水の『心もよう』を奏でた。その音色に合わせて、オレとSはサビを唄った。

「さみしさだけを手紙につめて ふるさとに住むあなたに送る
あなたにとって見飽きた文字が 季節の中で埋もれてしまう」


歌い終えたオレ達は、互いに無言になった。点けっぱなしになっていたテレビが、ワールドカップの決勝戦の模様を伝えていた。“ドイツの皇帝”ベッケンバウアー率いる西ドイツが、“空飛ぶオランダ人”クライフ率いるオランダを下し、見事優勝に輝いたのだ。オレはそのニュースを見て、バリ封を決意したあの日の事を思い出していた。オレはあの日、ユリ・ゲラーの番組を見て、超能力を欲した。その超能力でオレは、ワールドカップを見たいと願ったのだった。元サッカー部だった兄から聞いただけの、断片的な情報の中でも、ワールドカップは実に魅力的に思えたのだ。

「見たかったな、ワールドカップ…」
オレがそういうと、Sが意外そうな顔をした。
「ワールドカップ? サッカーか。釜本ぐらいしか知らないな」
「ワールドカップ、凄いらしいぞ。世界中が母国を応援して熱狂するらしい」
「国を挙げて熱狂か。正にナショナリズムだな」
「そんな意識、今の日本には無いよな…。でもオレは思うんだよ。そのサッカーに傾ける情熱があれば、学生運動なんてそれほど酷くならなかったんじゃないかって」
「まぁ、少なくともオレ達はバリ封なんてしなくて済んだよな」
オレとSは、顔を見合わせて笑った。
Sは、暫く部屋に居て、帰っていった。帰り際に、地元へ帰る事を告げられた。「どんな顔して帰ればいいんだか…」と冗談とも取れるような口振りで話したSは、「でも後悔はしてないよ」と言い、笑いながら去っていった。そしてその後二度と、会う事はなかった。


オレはと言うと、その後とある出版社に潜り込んだ後、フリーのライターとして活躍するようになった。世紀の決戦と評された、1974年ワールドカップ西ドイツ大会の決勝を見逃してしまった悔しさからなのか、サッカーというスポーツと、そのスポーツが持つ熱狂と狂乱に惹かれるようになり、仕事もその関係の執筆が多くなっていった。
そして32年後の2006年、日本に3度目の熱狂と狂乱が、すぐそこまで迫っている。愛国心溢れる若者達は、サポーターとして今回も熱い声援を送る事だろう。オレ達の時代には無かった、4年に一度の、情熱のはけ口として。



今回の作品、如何でしたでしょうか?
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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学




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