散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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春の雨垂れ   (2006/04/24)
 時計は午前一時を回っていた。
 家族の寝息と共に、静かな雨脚の音が微かに聞こえてくる。今夜は無性に目が冴えてなかなか寝付けない。しとしとと降る雨脚の音を聞きながら、この調子だと明日も一日雨だろうかと考えた。
 寝付けない体を起こし、足音を忍ばせて階下の居間へ降りる。窓から庭先をのぞくと、昼間吊るした照る照る坊主が暗がりの中で虚しく雨に濡れている。窓に反射する自分の顔は昼間の顔よりも老けて見え、目尻のしわが無くなればいいのにと指で伸ばしてみる。

 そういえば娘が生まれた日も、今夜のような静かな雨の降る夜だった。仕事から全速力で駆けつけた夫の顔は真っ赤に蒸気していて、生まれたての娘の赤い顔のようで、周りは笑いを噛み殺していたのよ、と後で母から聞いた。
 娘の小学校の入学式も、中学校の修学旅行も、高校の卒業式も、雨が降っていた。初めての海外旅行の出発日も、入社式の日もやはり雨で、その度に娘は「つくづく自分は雨女だ」と苦笑い交じりに呟いていた。
 ソファに腰を下ろし、先日から時折目を通している厚いアルバムを手に取った。少し薄茶けてしまった古いアルバムには、娘の生まれたばかりの写真から始まって、小学校から大学時代まで、成長の軌跡が綴られている。
 まだ若い夫と幼い娘の写った写真を見ながら、遠い日の記憶が蘇る。

 雨の降る夜。雨垂れが滴る赤いフェアレディZのフロントウィンドウ。緊張した車内の恋人の表情。
 ―幸せにする自信はあります。
 突然差し出された白いバラの花束。
 ―幸せにします。この花の花言葉は「約束を守る」だそうです。
 緊張で声にも力がこもっている。
 しっとりと降る雨、凛と咲く白いバラと不釣合いな、強張った恋人の表情がおかしくて、思わず吹き出してしまったのだった。遠い日の美しい記憶に、自然と頬も緩む。その恋人も、同じ屋根の下で共に年を重ね、今は隣室で静かな寝息をたてているのだ。

 そうだ、今年は庭のバラが咲いたら、娘に贈ろう。真っ白なバラの花を、父と母から娘に届けよう。先日の夕刊の園芸欄で、偶然バラの葉にも花言葉があることを知った。

「あなたは私の希望です。」

 春の雨は雨脚の音さえも暖かく、穏やかな眠気に誘われる。記憶の糸と夢想の糸が絡まり合い、幼い娘と手をつないで歩いた公園通りや、バラを届ける夫と私の姿が脳裏をよぎる。うとうととまどろみかけた頃、ほんのりとバラの香りに包まれた。

             ***

 目覚ましのアラームで目が覚め、特別な一日が始まる。深緑色のカーテンの隙間から予想外の日差しが細く差し込んでいる。いつもより少し思い切りよくカーテンを開けると、瞬時に眩しい光に包まれた。
 思わず声をあげた。
 ―お父さん、晴れたわよ!
 自然と口元がほころび、すがすがしい空気が体中に染み渡る気がした。窓の外に目をやると、夕べの雨をたっぷりと吸い込んだ照る照る坊主から、ぽたりぽたりと水滴が滴っている。その水滴が朝の日差しに照らされて輝き、まるで娘の門出を祝ってくれているようで、自然と、ありがとうという言葉が声に出た。
 昔仕立てたきりずっと着なかった黒留袖に袖を通す時、娘と共に過ごした時間の重みがじわりと心にしみて、熱いものが込みあげてくるのを抑えることができなかった。
                                                       了


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この記事に対するコメント

相当書いてますね
久しぶりに素敵な文学作品にあった感じ。     お気に入りに入れてゆっくり読みます。     またたずねます。 
【2006/04/24 19:30】 URL | 福 #-

いいねぇ・・・
実は、新聞掲載のやつはざっとしか読んでなかったんだよ。いま、会社でゆっくり読み返してみました。なんか涙出そう…。いいなぁ、ぐっと来ました。いまさらでごめん(--;
【2006/04/25 13:01】 URL | Masato.H #-

コメントありがとうございます!
実はこの作品、友達の友達のウェディング新聞に寄稿したものです。

>福さん
そう言って頂けると、ほんとにうれしいです。
どこにでもあるような、ありふれた日常の幸せとか切なさを書いていけたらなぁと思っています。
これからもご愛読よろしくお願い致します。

>Masato.Hさん
どうもです。
そんなに褒めてもらえると、うれしいやら恥ずかしいやら。。。照れますね。
これからもよろしくです☆
【2006/04/25 15:26】 URL | イシカワマキ #-


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