散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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青緑の君に   (2006/03/24)
「白いヤツはやめよう」
 大学の帰り道、先輩がそう言うから、僕たちは青緑の君を待った。あの頃、東海村の原発で爆発事故があって、白いヤツはその現場ちかくを通っていたから、避ける人達もいた。青緑の君はそんな所に行ったことがない事を、みんな知っていたから、僕たちは青緑の君を待った。謂れなき理由で嫌われ者になってしまった白いヤツに、すこし同情のまなざしを向けながら、僕たちは君が来るのを待っていた。やがて遠くに見えたヘッドライトは、君のおでこのあたりで光っていた。だからすぐに君だと分かった。ひとつに見えたヘッドライトは、やがて二つに分かれた。君は青緑の体を蛍光灯の光にさらして、滑り込んできた。
「よし、これなら大丈夫だよな」
 さっきまで不安がっていた先輩は、君の姿を見るなり安心して、乗り込んでいったよ。
「先輩は気にしすぎです」
 僕はその時そう言ったけど、本当は僕も少し不安だった。しばらくは君がいてくれないと、安心して大学に通うこともできないかもしれない。そう思ったんだ。
 僕たちはシートに腰を下ろした。ちょっとやわらかすぎるんじゃないか。だけど、その優しい座りごこちは、僕にとっては君だけがくれた、他では味わえないものだったね。
 君の名前は常磐線103系電車。大学の頃は、本当にいつもお世話になったね。
 そう、いつだったか、君の柔らかすぎるシートのせいで寝過ごしたことがあった。本当は北千住で降りなきゃいけなかったのに、気付いたら三河島だった。慌てて降りたよ。それで、戻ろうと思ったけど、白いヤツは停まってくれないんだ。ここは昔に悲しい事故のあったところだから、こんなこと大の男が言うと情けないと思われるかもしれないけど、急に心細くなって、ひどく淋しかった。白くて長い鋼鉄の列が走り去っていくのを、ただ見送るだけだった。だから君が来てくれた時、安心した。心底ほっとしたんだ。
 卒業して、常磐線に乗らなくなって、本当の事を言うと、あまり君の事を気にかけなくなっていた。新しい車両が入ってきて、君の仲間が少なくなっている事は知っていたけど、でも、君はまだまだ大丈夫だと思っていたから。
 ある秋の日に、後輩に呼ばれて大学の学園祭に行った時、久しぶりに常磐線に乗ったよ。そしたらね、君の姿を全然見かけなかった。行きも帰りも、乗る事はおろか、見かける事も無かった。その時に初めて、終わりが近い事を実感した。だから僕はあせって、急に君の事を大切に思うようになった。どうしてだろうね。大学の頃は毎日乗ってたのにね。
 気がついたら君は最後の1編成になっていた。仲間を失って、さぞかし孤独だろうと思った。車庫の片隅で、力無く最後の時を待っていることだろうと思っていた。だけど違った。君はいつものように、やたらと長い編成で、ひときわ喧しいモーター音を轟かせて、元気いっぱい走り抜けていたね。快速の停まらない駅で電車を待っている客達に、そのスピードを見せつけていたね。
 最後に一本だけ残ったのは、僕たちに別れの時までの猶予を与えてくれているのだと思った。だけど、君の元気な姿を見ていたら、本当にまだまだやれそうで、かえって名残惜しくなっちゃったよ。
 僕にできる事は、君の勇姿を記録にとどめることと、脳裏に刻み付けることくらいだから、あちこちに行っては君の写真を撮った。そして君の姿を、しっかりと目に焼き付けた。
 去年の夏にはもう廃車という話も出ていたっけ。その後、秋までの命と言われて、とうとう冬も越しちゃったね。本当にがんばってくれたと思う。
 そして君と別れる春が来たよ。君は覚悟するだけの時間を十分に与えてくれたから、僕は悲しんだりしない。ただ君は、全身青緑なんてインパクトのある姿だったから、いなくなるのはやっぱり寂しいよ。
 青緑の君を、僕は忘れない。柏の駅で、仲間たちと一緒に、ただ君だけを待っていた事。三河島の駅で、君だけが頼りだった事。毎日毎日、僕達を運んでくれた事。僕は忘れない。
 青緑の君に、ありがとう。どうか、安らかに。




 今回の作品「青緑の君に」はいかがでしたか。バナークリックへのご協力をお願いいたします。



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