散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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恋じゃなくなる日   (2006/02/14)
 慣れた手付きでギアを3速に落とし、ハンドルを右に切る。
 遅々として進まない国道から逃げるように、狭い路地に出た。30キロ速度制限の標識を一瞥し、再び4速へとギアをチェンジする。
 エンジンが激しく音をたてる。
「まったく、本当にお前とでかけるとろくなことにはならないな。2時間もあれば着く、と言ったのはお前だぞ」
 溜め息まじりに運転席の男が口を開く。銀縁のメガネの奥から覗く瞳が、やれやれと言っているようだ。朝9時に出発して、かれこれ4時間は経っている。スムーズに流れていれば2時間程度で到着する予定だったが、国道の渋滞が思わぬタイムロスだ。 
 それに応えた男は、助手席のリクライニングシートを限りなく水平にして、頭の後ろで腕を交差させている。色褪せたジーンズを履き、その長い足を邪魔だと言うようにどっかりと組んでいる。
「ちょっと違うな。オレは『渋滞しなければ』と言ったんだ。嘘はついてない。それに、運転するのはお前だしなァ」
 ふいに、タイヤの擦れる派手な音がして、車が急停止した。
「うわッ」
 短く叫んだ助手席の男は、あやうく体のバランスを崩し、フロントガラスに激突するところだった。
「なんだ? 猫か? ついに人でも轢いたか!?」
「赤だ」
 あわてて体を起こして前を見ると、赤く点灯した信号機の下、停止線ギリギリの所に車は止まっていた。
「……相ッ変わらず、イイ性格だな」
 眉をひそめて再びシートに横になる。
「褒めてもらって嬉しいよ」
 クラッチを切りながら男は薄く笑い、今度はゆっくりとアクセルを踏んだ。
 窓を開けると、ほのかに潮の香りがした。
 目的地まで、あと少し。


昼間の雲は太陽の味方のようだ。太陽から照らし出される陽の光の邪魔をしないように、あちこち隙間を作っている。言わば、光の通り道だ。
海岸沿いの小さな駐車場に車を停め、二人の男は外に出た。
「これのどこが、春が近づいて来ているって? この寒さは真冬並だぞ」
 運転席から降りた男は、そう呟きながら青いマフラーを首にかけ直す。ダークグレーの厚手のジャケットに、黒の綿パン。真新しい革靴は、砂浜を嫌う。
「まあ、あったかい方じゃないの」
 いくら太陽が出ているからと言って、すべてが味方してくれるわけでもないらしい。人気のない海辺に向かって歩き出す男の肌を切りつけるように、 最後の冬の風は容赦なく襲う。
風さえなければ良い天気、まさしくそんな気候だ。
 先を歩くメガネの男に少し遅れて、ジーンズの男が助手席から降りた。脱ぎかけだったスニーカーを履き直し、白いパーカーのフードを頭にすっぽりとかぶりながら、──おい、アキ待てよ。と、声をかけた。
 男は聞こえているのかいないのか、そんな声も気にかけず、より近い浜辺を目指し、石の階段を下りていく。
 アキ、本名は『アキマサ』という。短めの黒髪に、銀のメガネというスタイルは、昔から変わっていない。昔、と言っても二人が出会ったのは高校の時だから、せいぜい6、7年前というところだが。
 冷静で、マイペースな所も全く変化なしだ。
「しかし。お前も相変わらずの変人ぶりだな、マサト。この季節にこんな場所をご希望とは。よほど俺と二人きりになりたかったと思われる」
 風に運ばれた砂が覆い尽くす階段を降りきり、アキが足を止めた。 その視線は遠く地平線に注がれており、振り向くことはないが、どうやらマサトを待っているようだ。遅れて階段を降りるマサトが、潮風に飛ばされそうなフードを両手で抑えながら応えた。
「ははっ。まあいいじゃないの。海なんてお前めったに来ないだろ?」
 アキとは対称的に、少し肩にかかる長めの茶髪。少し日に焼けたその顔は、髪形と、ぱっちりとした丸い瞳のせいか、人なつこい大型犬を彷彿とさせる。背丈は、アキよりも少し高い。
 階段を降り、二人は肩を並べて歩き出す。
 マサトがパーカーのポケットから煙草を取り出した。一本抜き出し、口に咥えて火をつけようとするが、風が邪魔をしてなかなかつかない。手で壁を作り、向かい風に背を向けると、ようやく煙が立ち始めた。
 そんなマサトの様子を横目で見ながら、アキが呟く。その両手はジャケットのポケットにすっぽり収まっている。
「……寒いな」
「そんな寒くねーって。お前そんな厚着してるべや」
 ぷかぁと煙を吐き出し、アキのしかめ面を笑い飛ばす。車内禁煙だったため、煙草も実に4時間ぶりだ。見るからに満足そうな表情をしている。
「お前が羨ましいよ。こういう時、子供体温というのは便利だな」
「は。お前こそ、相変わらずの皮肉屋毒舌ぶりでオレは嬉しいよ」
「それは良かった。お前もヘビースモーカーは続行中だな。体に悪いと何度言えば分かるんだ。吸うならちゃんと灰皿のあるところで吸え」
「まぁったく、うるさいな。分かってるさ」
 うっとおしそうにアキの言葉を振り払い、ジーパンのポケットから携帯灰皿を取り出した。白いソフトケース型の物で、その汚れ方を見ると、随分使い込んでありそうだ。
「──まだ、持ってたのか」
 アキが、少し驚いたように言った。
「こんなの新しく自分で買うか」
 それは、何度言っても煙草を手放さず、その上投げ捨ての癖が抜けないマサトのために、アキがくれたものだった。高校生活、最後の冬のことだ。
「感心だな。喫煙家として当然のマナーだ」
 今までマサトの前で何度も繰り返してきた言葉を、また口にする。返事の代わりに、彼は再び煙を吐き出した。
「それと」
 ひと際強い潮風が、また、二人を襲う。顔にかかるマフラーを払いのけながら、アキがもう一言付け加えた。
「風が強い日はターボライターの方がいい」   



 お世辞にも綺麗とは言えない浜辺で、二人は立ち止まった。会うのは実に、高校の卒業式以来で、4年ぶりにもなる。それでもお互い「久し振り」の言葉は出てこない。
 言葉、なんて面倒くさい以外に言いようがないものだ。頭の中で選んだ単語を繋げ合わせて文章にし、感情を加えて唇にのせる。そんなことをしなくても、気持ちが伝わればいいのに、と思う人間は大勢いるだろう。だが、実際それが現実になったら人間は果たして誰を信じることができるだろう。
 マサトが砂浜にあぐらをかく。靴やジーンズの隙間に入り込む砂のことなど、考えてもいないようだ。
「しっかし、人がいないなあ。……オレも海なんてそんなに来ないけど、猫一匹くらいいてもいんじゃねぇ?」
「それで?」
「え?」
 上から降ってきた声に思わず反応し、アキを窺う。
「真顔で聞き返すな。こうしてお前から誘うなんて、何か話があるんだろう?」
 話の切り出し方も全く変わっていない。マサトが情景描写を始めたら、本題が別にあると思っていい。言わずともいい話に最後まで付きやってやるほど、親切とは言えないアキであった。
「……ああ、そうだな」
 お前が相手だもんな、……そんな、苦笑い。
 二人の視線は互いの瞳ではなく、飽くことなく繰り返している、行ったり来たりの白波。広い海には赤いブイが所々に浮かんでいる。思い出したように、ごく稀に白い鳥たちが止まっては、羽を休めていた。
「オレ、さ」
 一呼吸。
 決して話を急かしはしない。
「──結婚するんだ」
 アキは動じない。視線は沖、両手は変わらずジャケットのポケットだ。ゆうに1分は間を開け、やがて重そうに口を開いた。
「……相手は?」 
 そんな当たり前と言えば当たり前の質問に、マサトは痛そうに顔をしかめる。別に、名前を言うだけだ。やましいことなど、ためらうことなど何もない。
 マサトは口を開こうとした、しかし。
「はは。ちょっと、意地が悪かったかな」
 自嘲を含んだアキの笑い声に、開いた唇は言葉を失う。代わりに、微かな吐息を一つ。
「だいぶ、な」
 おそらく、思うことは互いに同じ。それをどう言葉にしたものか。していいものか。想いだけが頭を駆け巡り、文章にまとめることができない。
 遠くで子供の叫ぶ声がした。いつの間に来ていたのか、小さな女の子がひとり、父親らしき男の側で、はしゃぐように浜辺を駆けている。だいぶここからは距離があり、会話までは聞こえない。防寒のため、だいぶ着込んでいる女の子が、なんだかもこもこしていて、可愛かった。
 風は、弱まる気配を見せない。依然として、彼らの体を打ち付けている。耳にも、赤みが増してきた。
 長い沈黙のあとで、突然、マサトが吐き出すように叫んだ。
「……結婚してくれって言った時に、アイツから聞いた。オレは知らなかったんだよ」
 覚悟は、していた。
「アヤがお前に抱かれてたなんてな!」
 今日、マサトから電話があった時から、気付いていたのだ。話を切り出しやすいようにしてやったのも、わざとだった。驚きはしない。当然の、呵責の言葉。黙っていた負い目よりも、マサトに知られたことへの安心感の方が、なぜか勝っている気がする。
「……悪かった」
 全く、意味のない謝罪の言葉。そう分かっていても、言わずにはいられない。意を決し、アキは言葉を続ける。
「二年前に、一度、会いに行ったんだ。たいした用じゃなかった。サッチっていただろう、高校から仲良かった。……住所聞いて、待ち伏せた」
 マサトは口を挟もうとはせず、ただ黙って聞いている。その目には力が入り、顔が紅潮していくのが分かる。
「そんなつもりはなかった。ただ、成り行きで彼女とはそうなってしまったんだ。それでも、俺は後悔していない」
「『後悔していない』……?」
「その時、彼女は何も言わなかった。お前と付き合っているなんて、一言も言わなかったんだ」
 マサトの表情が少し変わった。アキの言うことを頭で反芻しながら、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「……でも、お前は知ってただろう? アヤとオレのことは、サッチから聞いてたはずだ」
「そうだな。俺はお前の女だと知っていて、彼女とした(・・)んだ」
「なんで……っ」
「どうしてだろうな。もちろん、衝動的に行動したわけじゃない。俺は冷静だった」
「お前がいつも冷静なんてことは、良く知ってるさ……」
 言葉が続かなかった。マサトは今、言うべき言葉が分からない。何を言えば、いいのだろう。まったく、言葉なんて面倒だ。アキが行為を肯定したのは確かで、自分とアヤが結婚することもまた、変わることのない事実なのだ。
「俺は、お前たちが別れることを期待していたのかもしれないな」
「なんだと?」
 思いがけないアキの言葉に、マサトは目を剥いた。淡々と語るアキとは反対に、高揚した気持ちがまた、湧いてくる。
「別に、アヤが好きだから別れさせたかった、とかそういうんじゃない。俺が原因でお前たちが別れて、そのあとのお前の反応を見たかったのかもしれない」
「お前、訳(わっけ)わかんねぇよ。なんのためにそんなことすんだよっ……」
「さぁな。俺にも良くわからない。だけど、あんなことがあっても、お前たちは別れることはなかった。なんだか、思惑通りに行かない反面、やはり安心したよ」
「わかんねぇよ……。オレはアヤからそのことを聞いた時、めっちゃくちゃに腹が立った。アヤにも、お前にもな。会ったら絶対に一発殴ろうと思ってた」
「……殴っても、構わない」
「アヤは、高校の時、お前が好きだったんだよ」
 その時初めて、アキのポーカーフェイスが崩れた。視線を落とし、マサトを上から見つめる。
「オレは知っていた。だから、アヤがオレを受け入れてくれたときは正直驚いた。やったとは思ったけど、ずっと気になってたんだ。オレと一緒にいるときでも、アヤはお前のこと考えているんじゃないかって、な」
 マサトの声は、意外にも落ち着いていた。自分でも驚くほど、すんなりと言葉が出てきた。まるで、今までずっと推敲していた書き込みだらけの草稿を、今この場で清書しているような。
「アヤは、抵抗しなかっただろう? ずっとお前を想っていたんだもんな、念願叶ったり、ってとこだろ」
 マサトは笑った。ほんの少し自虐的に、皮肉めいた言葉で。頭にかぶったフードのせいで、アキからはマサトの表情が見えない。今、彼はどんな顔をしているのか。
「プロポーズした時に、オレは玉砕覚悟で聞いた。アキのことはいいのか、ってな。アヤはオレが気付いていることは知らなくて、驚いてたよ。……でも、はっきり言ってくれた。結婚相手、オレで絶対に後悔はしないって」
 それは、アキに言っているというより、マサトの独白のようだった。語りかけている感じはしない。アヤのことを、アキのことを、一つ一つ思い出しながら台詞にする。
 彼(マサト)は、穏やかだった。
「あー。もう、いい。もう、いいや。お前の性格なんて、オレが一番良く知ってる。これから先、お前との関係が壊れることなんて想像もつかねぇ。もう、いいんだよ」
 急に、マサトの声色が変わった。考えるのが面倒だ、とでも言うように、何かを吹っ切ったのだ。でもそれは決して、投げ遣りではない。
 フード越しに彼を見つめ、アキが名を呼ぶ。
「マサト」
「オレは過去を踏み台にして未来を生きる。誰が何しようが関係ない。アヤは、オレが必ず幸せにするさ」
 建て前ではなく、心からそう思った。過去に何があろうと、これからの未来は変わらない。
「マサト、……悪かった」
「ああ、もう謝るんじゃねーよ」
 お前が本気で俺たちを別れさせようなんて、思うわけないんだからよ。
 最後の言葉は口には出さなかった。
 マサトが立ち上がる。ジーンズを軽くはらって、かぶっていたフードを取った。
「しっかし、あーどうするよ。結婚初夜に『やっぱりアタシ、アキが好きなの!』とか言われたら」
 大きく伸びをしながら、ひとり言のように叫んだ。フードを取ったせいか、幾分風が気持ち良い。
「ふん……、その時こそ、一発殴りに来い」
 唇の端を持ち上げて、アキが微笑む。冗談めかして口にした、かなり本気の言葉。ギリギリの境界線。
「は……ははっ、そうだな、そうするか」
 本気の冗談に、本気で応えた。マサトも、腹から笑った。 
 二人は、再び歩き出す。
 午後の日差しは、冷たい頬に心地良い。昼時を過ぎて、街も少しは動きやすくなっているだろう。この浜辺にも、人が来るに違いない。
 元来た階段を上がったところで、マサトが口を開く。
「最後に聞かせろ」
 アキが振り返り、彼の目を見据える。眼鏡の奥の瞳は、曇っていない。
「お前は、アヤをどう思っていたんだ?」
 僅かに瞳を震わせたアキだったが、それを隠すように、車にキーを差し込んだ。回しながら、呟く。
「……靴の砂をはたいてから乗れよ。車を砂まみれにするな」
 マサトは笑って、ああ、と一言うなずいた。 

 冬の終わり、春の訪れ。
 そんな乾いた風が、二人の体に吹き付ける。
 春に程近い日差しのおかげで、車内は暖かかった。
 海岸を後にし、エンジン音をたてて車は走り出す。
 
 春はもう、すぐそこに。
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この記事に対するコメント

こんにちは(^^)
こんにちは、http://jump.sagasu.in/goto/bloog-ranking/でブログが紹介されていましたよ!また見に来てもいいですか?
【2006/02/14 19:53】 URL | マナ #-


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