散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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ドラいぜん   (2006/01/24)
 ピッチャーの投げたボールは、明らかに僕の方へ向かって来ている。とっさにしゃがみ込む。球すじは思ったよりも低い。ボールは僕のほほにめり込んだ。首が向きたくもない方向へ向く。青い空には星が見えて、すぐに夜みたいに真っ暗になった。
「…太さん、大丈夫? のび太さん」
 しずかちゃんの声だ。
「のび太さん、しっかり」
「しずか…ちゃん」
「よかった、気が付いたのね」
 僕は気を失っていたようだ。視界には晴れわたる秋の空としずかちゃんの顔。女神のようだ。僕の頭はふとももの上に乗っているようだ。ひざまくらをしてくれたのかな。なんて優しいんだ。
「野比君、大丈夫かい?」
 うっ、突然邪魔な物体が現れた。奴の名前は出来杉。僕の恋のライバルだ。
「のび太さん、大丈夫?出来杉さんが介抱してくれたのよ」
 え、よく見ると、僕の頭の下にあるふとももは…。
「出来杉のかよ!」
 僕は思わず飛び上がった。
「わ、びっくりした。そんなに元気なら、大丈夫そうだね」
 夢心地は一瞬で消え失せた。なんだって男にひざまくらなんかされなきゃいけないんだ。
「のび太さん、お礼くらい言いなさいよ」
 ああ、確かに感謝してるよ出来杉君。介抱してくれてありがと。だけどなぜだろう、いま僕はすごく君をぶん殴りたい。
「お、目が覚めたのか、のび太」
 この声はスネ夫だ。
「顔からボールに当たりに行くなんて、のび太らしいや」
 そのイヤミな物言いと、三次元化不可能な髪型は昔から変わらない。
「さっきは何であんなに驚いてたんだよ。さてはしずかちゃんに膝枕してもらってる夢でも見てたんだろ」
 何故こうまで見抜かれるのだろう。この男も本当にうっとおしい。だが、一番やっかいなのは…。
「ぬおぉび太あぁ!」
 地鳴りのような低い声。ジャイアン、その人である。
「何やってんだ!早く一塁に行け!」
 えっ、僕に一塁に行けと? いままで気を失っていたのに?
「早くしろ!早く!」
「わ、わかったよ」
 こんなことってあるんだろうか。顔面にデッドボールを食らって、気を失っていた人間に向かって、一塁に行け、早く、なんて人の子の言うセリフだろうか。僕はメガネをかけ直す。ちょっと歪んでいる。
「のび太さん、しっかり!」
 しずかちゃんが、笑顔で僕を送り出してくれる。でも、ちょっと残酷。本当は、のび太さんは無理だから勘弁してあげて、とか言って欲しかった。
 一塁に立つと、ベンチにしずかちゃんと出来杉が並んで座っているのが見える。僕はケガをおして一塁ランナーとしてここに立っているのに、五体満足な出来杉は、しずかちゃんの隣りで野球観戦だ。憎たらしくて妬ましかった。僕は出来杉のことを、ずっとにらみつけていた。
「アウト! ゲームセット」
 え、何なに? 何があったの? 気がつくとボールは一塁手のグローブの中にある。まさか、僕はタッチアウトになったのか。
「のび太あ!お前なにやってんだ!」
 デッドボールで出塁して、一塁けん制死。こんなみじめな負け方があるだろうか。いや、負けるだけならいい。恐ろしいのはジャイアンの怒りようだ。
「のび太!今日の試合に負けたのは完全にお前のせいだ」
 やっぱりそう来たか。
「そうだそうだ、お前がヘマしなきゃ逆転してたかもしれないのに」
 そういうスネ夫だって、今日は三振ばっかりだったじゃないか。全ての責任を僕におっかぶせようと必死だな。
「のび太、お前はいつもいつもチームの足を引っ張りやがって。今日という今日は、もう我慢できねえ。お前だけ居残りで千本ノックだ」
「えー、やだよそんなの」
「いいからやるんだよ!」
「やーい、ざま見ろのび太」
「スネ夫、お前は球出しをしろ」
「え、いや、僕は早く帰らないとママに怒られ…」
「や・る・よ・な!」
「やりますやります、やらせていただきます」
 こうして僕とスネ夫はジャイアンの特訓に付き合わされることになった。ノックはあたりが暗くなるまで続いた。僕はヘロヘロになって家に帰った。
「ただいま」
「のびちゃん、こんな時間まで何してたの!」
 ママの頭に角が生えてる。わかってたんだよ、こうなるの。いつものパターンだもの。
「服もドロだらけにして! 今日という今日は許しませんからね!」
「ガミガミガミガミ、ガミガミ、ガミガミガミ」
 今日のお説教はいつもの2倍だった。そして晩ご飯抜きのおまけまで付いた。
 神様、教えて下さい。僕はそんなに悪いことをしたでしょうか。怪我にめげずに試合に出たじゃないですか。そりゃ僕のせいで負けたかもしれませんが、目の前で好きな人が別の男と仲良さそうにしていたら、冷静じゃいられないものではないでしょうか。僕はその後、ジャイアンという男に特訓と称したイジメを受けていました。心も体も傷ついて、やっとの思いで帰って来たら、親は事情も聞かずに僕を叱り付けた上、兵糧攻めにするのです。この腫れ上がったほっぺたを、少しも心配すること無くです。
 神様、教えて下さい。世の中に、こんなにかわいそうな小学生がいるでしょうか。今日みたいな日は、決して珍しいことではないのです。いつもだいたいこんな感じなのです。こんな日々がいつまで続くのでしょうか。いつの日か、思い出になって、笑える日は来るのでしょうか。
 神様の声なんて、聞こえるはずも無かった。
 僕は仕方なく、ふとんにもぐる。さんざんな目にあって、お腹も減って、こんな日は眠れるはずも無い。と思いきや、あっというまに意識が消える。そう、僕の得意なことといったら、寝ることくらいだ。


「野比君、宿題はやってきたかね」
「すいません、忘れました」
「君はいつも忘れてくるね。反省というものが無いのかね」
 昨日はノックをしていて、宿題どころじゃありませんでした。なんて言ってもわかってはくれないだろう。
「罰として、廊下に立ってなさい」
 僕はいつものように、掃除用具入れからバケツを二つ取り出し、廊下に出て行く。水を入れる時は、四つの蛇口を同時に使って二つのバケツを一気に満たす。手慣れたものだ。そして、最初に先生が見に来るまでは、真面目にバケツを持つ。先生が教室に戻ったら、音を出さないように慎重にバケツを床に置く。先生が来るタイミングはもうわかっているから、それ以外の時は座っていようが寝転がっていようが、わかりはしない。学校に来て身についているものといえば、このくらいだ。
 僕は何のために生きているんだろう。いつもいつも、こんなみじめな思いをするために生まれて来たんだろうか。僕に何かできる事があるだろうか。ひとつでも僕の願いがかなう事があるだろうか。きっと、ありはしない。
 放課後、僕はジャイアンに呼び出されてこう言われた。
「今日も特訓だからな、覚悟しとけよ!」
 僕は力なく、わかったよ、とだけ言った。ジャイアンの表情は意外そうだった。あまりにも素直だったからかもしれない。僕は学校を出ると、家には向かわず、大通りの方へ歩いた。自然と足が向いた。このままジャイアンの言う通りにすれば、またボロボロになるまで特訓させられて、またママに叱られて、また宿題もできずに次の日が来て、また廊下に立たされて、そしてまたボロボロになるまで特訓を受けるのだろう。
 もういい。もうわかった。僕の人生はこんな毎日が続いていくのだ。きっと一生ジャイアンの言いなりで、スネ夫にからかわれ続けて、しずかちゃんは出来杉と結婚して、きっと僕だけみじめなままなんだ。
 大通り沿いの十階建ての新しいマンションに、僕は吸い込まれるように入っていた。屋上へあがると、すぐさま柵を乗り越えた。
「パパ、ママごめんね。僕はもう耐えられない」
 少し冷たい風が、耳元で寂しい音を鳴らす。
 一歩、二歩と歩みを進める。もう自分の意思かどうかもわからなくなって来た。ぎりぎりの所まで来て、下を覗き込んだ。
 高い。
 無理無理無理、絶対無理!
 僕は慌てて柵にしがみついた。自殺なんて無理。だってこんな高い所から飛び降りたら死んじゃうもの!
 完全にパニックだ。歯がガチガチいっている。体も震えている。あわわあわわと言いながら、柵を乗り越えて戻った。息があがっている。僕はその場に倒れ込んだ。自分の呼吸の音以外には、何も聞こえなし、それ以外のことは、何も判断できなかった。
 しばらくして、少し落ち着いて、なんだか暖かいなと思った。僕の体を太陽がくまなく照らしていた。風も止んでいた。空はさわやかな青で、雲がのんきに流れていた。
「良い天気だな」
 空にママの顔が浮かぶ。
「のびちゃん、おやつよ」やさしく微笑む。
「のび太、今日は臨時のこづかいをやろう」パパが満足げに笑う。
「のび太、お前もウチに来いよ」スネ夫、新しいラジコンを買ってもらったのか。
「のび太さん、一緒に宿題しましょ」しずかちゃんの笑顔は本当にまぶしい。
「のび太!心の友よ」ジャイアンが、そんな事を言ったこともあったな。
 みんなの顔が浮かんできて、勢揃いして、すぐに涙でゆがんでわからなくなった。
 優しくされたことを忘れて、楽しく過ごしたことも忘れて、僕は死のうとしていたのか。情けなかった。本当に情けなかった。情けないと思ったら、また涙が出た。
 気が済むまで泣いて、しばらく空を眺めていた。ひとつあくびをして、僕は目を閉じた。いつもの昼寝のように、すぐに眠ることができた。
 目が覚めた時には、陽はすっかり傾いて、学校の裏山に沈みそうだった。ああ、こんなふうに、嫌なことも眠って忘れて、こうして生きていくのかもしれない。そう思った。


「ただいま」
 学校からの帰りが遅かったから、ママは心配しているだろうか。
「どこに行ってたの、こんな時間まで」
 マンションから飛び降りるのをためらって昼寝してたなんて、言えるわけがない。僕は話をごまかそうとした。
「ねえ、今日の晩ご飯はなに?」
「のびちゃんの好物のハンバーグよ」
 好物のハンバーグ、どうして。こんな遅くまで帰らなかったのに、叱ることもなく、ハンバーグ。もしかしてママは、昨日のことも、今日のことも、僕の気持ちも、ぜんぶ見抜いて…。
 さっきあれほど泣いたのに、また涙がこぼれそうになった。見られたくなかったから、急いで二階に上がろうとしたけど、階段がよく見えなかった。
 部屋に戻ると、いつものように座布団を折って枕にした。
 誰にも言えないけど、僕には夢がある。
 時間を超えて旅をして、白亜紀の恐竜達に遭ってみたい。誰も知らない魔境を、空を飛んで冒険してみたい。地球を脅かす悪の異星人と戦うヒーローになってみたい。遠くの星に、友達を作りたい。どれも子供じみた夢だから誰にも言えないけれど、きっと叶うことはないけれど、なぜだかこの夢はいつまでも心から消えない。いつかきっと…。
「夢は叶うよ」
 僕は飛び起きた。誰だ、今の声は。ロボットみたいな声、いや、おばちゃんの声みたいだった気もする。確かに机の方から…。僕は引き出しを開けてみた。鉛筆がカラカラと転がってくるだけだった。でも、確かに聞こえた…。
「のびちゃん、聞こえてるの?ご飯できたわよ」
 ママの声だったのだろうか。耳をすましてみても、もう何も聞こえない。だけど、なぜだか耳に残る「夢は叶うよ」という言葉を胸にしまい込んで、僕は一歩、踏み出した。




今回の作品「ドラいぜん」はいかがでしたか。あなたの心に残るものがあったなら、下のバナーをクリックしていただきますようお願いいたします。



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この記事に対するコメント


・前半→「救われない話だ。かわいそう・・・」
・中盤→「のび太くん意外としっかりしてる。きっと良い方向に話は進むはず!」
・後半→「ママやさしい。やっぱりハッピーエンドだ」
・読後感→「いや待てよ・・・。次の日ジャイアンにこっぴどく怒られるにちがいない。やっぱり救われない!」
 なんだかのび太に同情しました。
【2006/01/25 00:51】 URL | 匿名希望 #-

拝見させて頂きました。
相変わらず面白いですね^^
これはドラえもんがくる前日なのか。はたまたまだまだこないのか。
とにもかくにもまさかドラえもんを持ってくるとは…。してやられました。
次回も期待しております。
【2006/01/26 11:33】 URL | ロビタ #gPxiGQPc


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