散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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ペットボトル(P助)   (2006/01/04)
その日、私が買ってきたのは一つのペットボトルだった。
500mlのそのボトルは無色透明で、中味はもとから入っていない。
そう、これから私がそれを詰めていくのだ。

薄暗い部屋のテーブルにそれを置き、私はコートを脱いでラフな部屋着に着替える。エアーコンディショナーから流れる空気は、常にこの部屋を最適な温度に保っていた。

小さなテーブルライトを付け、椅子に座る。
予め購入しておいたボトル詰めの材料を傍らに広げ、ペットボトルの蓋を厳かに開けると、私は静かに作業を始めた。

先ず詰めるべきは土。地面である。
これから家を建てることを考えなくてはならないから、固すぎず柔らかすぎず、適度な保水性を持ったものがいいだろう。
少々値は張ったが、十数キロ先から仕入れてきたこの土はとても満足のいくものだった。やはり全ての基礎は土台である。
封を空け、黒みがかった土をボトルの四分の一まで流し込み、少量の水を垂らして湿り気を持たせてやる。地味なことだがこれが中々に重要だ。土に水分を与えるという意味もあるが、この一滴の水が繋ぎとなって地面が締まり、土台としての強度を持つようになるのだ。

いくつかの種類の草花の種を蒔き、甘い果実が実る木と、丈夫だか加工しやすい木材の取れる木の苗を、長いピンセットで植え込む。数日もすればペットボトルの中は次第に鮮緑で覆われていくことだろう。

続いて水場の作成だ。
地面の一部に窪みを作り、そこに水を流し込む。
もちろんこの水も遠方から取り寄せた自然水だ。滅菌加工も行っていない。
そうして作った小さな池に、いくつかの種類の淡水魚の卵を撒く。
これも数日後には、元気にその池の中を泳ぎ回る稚魚たちの姿を、見ることが出来るようになるだろう。

私は時を忘れてペットボトルに中身を詰めていく。
そう、私はこの小さなボトルの中に、世界を作っているのだ。

ペットボトルはすべてを詰め終わった後、蓋をして密閉しなければならない。その為、この中では全ての生態系サイクルが滞りなくつながる事が必須条件となる。
雨が降り、池となり、土に染みこんだ水が次第に蒸発し、雲となりまた雨を降らせる。
生物もそうだ。草や果実を食した動物が死に、また、成長した木が朽ち果て、それを地中の微生物が分解し、新しい草木を育てる栄養となり、それを生まれてきた動物がまた食する。
全てのものは、この微妙なバランスとサイクルの中で生きている。
この中では上位も下位も強弱もない。どれか一つでも欠けたとしたら、それは一瞬にして崩壊するのだ。

しかし。
私たち人間は違った。

科学と言う名の魔法を手に入れ、神と等しい存在になった。
存在していたサイクルを破壊し、その上に新しいバランスを築き上げた。
もちろんそれは崩れないように科学の力で強引に支えている天秤だ。
地球の環境をどれだけ汚しても、人間は生き残った。

だがその果てはどうだ。
自然の自浄作用では到底追いつかないこの世界。
道端には人工的に光合成を行う造花が並び、全ての湖の傍らには延々と汚れた水を浄化し続ける水草型のポンプがおかれている。
そんな人工的なものの中で生きる事ができない動植物が一つ消え、二つ消え、今や天然種の生物はこの人間以外には、殆ど死滅してしまった。

私は、そんな呪われた世界と決別すべく、忌まわしき科学の力を行使している。

科学の力を借りて作ったミニチュアの樹木とミニチュアの生物たち。
そして科学の力を使い、全ての生態系サイクルが機能するよう計算され尽くしたこの小さな世界。


ここが私の、私だけの、新しい世界となるのだ。


私は生活に必要と思われる道具を中に入れていく。
小さなナイフ、斧、火打ち石、釣り竿、そして一枚の毛布。
そして、極小の人工太陽を中に浮かべ、蓋を閉めれば完成だ。

しかし、私の世界たるこのペットボトルの中に、私が存在しなければもちろん意味をなさない。だが、残念ながら万能であるはずの科学でも、私自身がこの中に入ることは許可してくれない。

この中に入るのは私の分身。
最後に取り出した小さな箱の中には、麻酔で眠らされた私の小さなクローンが入っている。
その箱をそっとペットボトルの中におくと、私は蓋をしめ封印を施した。
これで私のペットボトルは完成だ。

だが、私にはもう一つやらなければならない事がある。
この世の中に二人の私はいらない。
私は、最後に残った小瓶の中から青色の錠剤をとりだし、池を作った残りの水でそれを飲み込んだ。
ゆっくりと睡魔が私を襲う。数刻で私は死の世界への旅路につくだろう。
薬を使い安らかな最後を迎えられることもあるのかもしれないが、それ以上に、私が死んでも楽園に私が存在するという事実が恐怖を和らげる。
 
私の人生はここで終わるが、ここから始まると言っても良い。
私の分身たる彼は、あの中で豊かな緑に囲まれた素晴らしい生活を送るだろう。いや送るに違いない。
草木もなく動物もいない、機械に管理されるだけの外界とは正反対の楽園が、あの中には存在しているのだから。




◆新年あけましておめでとうございます。
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この記事に対するコメント

う~わぁ
面白かったです。
ぺットボトルの中のサイクル、、、
どうしてこんな面白いテーマが思いうかぶんでしょう?!
素晴らしいです!
とても楽しく拝見させていただきました。
長いのも読んでみたいけど、
SFはこの長さが一番ですね。
星新一氏の短編を思い出しましたが、
それとはまた違い、
とても新しい面白さがあって、新鮮でした。

(すいません、文を書くのが下手なので、
きちんとした感想になってませんね。)
【2006/04/03 13:57】 URL | arty #-


artyさん、『適性』に引き続きコメントありがとうございます。
お察しの通り、僕は星新一の大ファンです^^

読んでしまうと自分の作品に影響がですぎてしまう(てゆーかそのものになってしまう)ので、ちりぶみ始めてからは封印していますが(笑)

短いけれども、読み手の想像力を書き立てる、そんな小説が書ければと思っております。

ペットボトルの中のサイクルってのは、全てを自給自足できる宇宙ステーションとか、蓋のない水槽(中に小エビや水草、プランクトンが入っていて完全なサイクルが出来上がっているもの。ホントにあるかどうかしりませんが。笑)なんかを見て思い付いたんだと思います。
でもこれ、倒れたらどーすんだろ(笑)
【2006/04/05 22:03】 URL | P助 #tZDc9YLU


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