散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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回れ回れ回れ!【年末連日掲載祭作品!】   (2005/12/31)
 屈辱だ。
 全くもって屈辱だ。
 いつもであれば、俺は既にこの世にいないはずだ。いつもであれば、俺の背中の光り輝く赤を目ざとく見付けた奴が俺を捕らえ、あの黒い液体をかけ、無遠慮なまでに咀嚼されているはずだ。いつもであれば、俺は既に噛み砕かれ、木っ端微塵となり、奴らの胃液に溶かされているはずだ。それで俺の任務は終了。短い生涯に幕を下ろす。
 ところが。
 今日はどうだ。 俺が生まれ、動く歩道の上に乗せられ、毅然とかまえていても誰一人俺に目を向けない。このまま閑古鳥が鳴き続ければ、この動く歩道をぐるっと一周してしまうのは時間の問題だ。
(俺を見ろ! この俺を!)
(俺は王だ、最高のまぐろだぞ!)
 必死のアピールも虚しく、俺はとうとう屈辱的な〝動く歩道一周完走〟という愚行に至ってしまった。客がいるテーブル席から隔たれた厨房に待っていたのは、数分前に俺を生んだ、まだ若い男。互いに望んでいなかった、最悪の〝再会〟。
「あっ! てめぇこの野郎! 何でしっかり食われて来ねぇんだ!」
 奴は、まだ「生きている」俺を見るなり、想像通りの罵声を浴びせた。
「それはこっちが聞きたい。今日の客は見る目がないな」
 極めて俺は冷静だ。腐っても鯛ならぬ、腐ってもまぐろ、だ。寿司ネタの頂点に君臨する王たる者が、こんな奴ごときに感情的になってたまるものか。
「客が悪いっていうのか!? 飲食店にとって客は神と同じだ! てめぇみてえな役立たずにとやかく言う資格はねえっ!」
 またか。「客は神」。こいつの口ぐせだ。まあ分からんでもないが、俺にとって客とは、俺が生まれ、食われ、生を放棄するまでという、任務を全うするための道具でしかない。奴らは、俺の命を奪った、とでも思っているのだろうが、俺は自分のために奴らを利用しているだけに過ぎない。まあ、今はそんなことどうでもいい。
「さっさともう一周行って食われて来やがれっ!」
「相変わらずお前は頭に血が上っているな。そんな沸騰した頭で上手い寿司なぞ握れるのか?」
 俺はしゃべりながらも流れていく。この大地は止まることを知らない。
「……んだと、このやろッ! 客だけじゃなくてこのオレ様までも愚弄する気か!?」
「ふん。あまり熱くなると握った寿司まで温くなるぞ」
「……てめぇ」
 奴は今までよりさらに顔を赤くし、俺を睨みつけた。あと数センチで第二周目に突入、という所を、俺はさっと皿ごと持ち上げられた。同時に俺の身もキュッと引き締まった。まずい。
「このオレ様にそんな口利いていいと思ってんのか? てめえをこのまま生ゴミ行きにしてもいいんだぜ?」
 奴は、俺を(正確には皿を)自分の目線と同じ高さまで持ち上げ、舐め回すような視線をぶつけてきた。
「オレ様には逆らわない方がいいんじゃないのか?」
 こうなってしまうと、こっちは不利だ。 不本意ながら、おとなしくなる。
「分かった。もう何も言わん。だからおろせ」
 ここは従順になるのが賢明だ。どっちにしろ、鮮度が命の俺の寿命は長くない。だったら、ゴミ箱なんかではなく、いつもの戦場で死を遂げたい。
「気合い入れてけよ! 三周目なんざないと思え!」
 無事に、元の動く歩道の上に降ろされた俺は、二周目というプレッシャーと戦う覚悟をし、奴に別れを告げた。
行くしかない。
 客の入りは上々。普段と変わらぬなかなかの盛況ぶりだ。だから余計に俺が捕らわれない理由がない。道は進む。数秒に一人、目の前を通過していく。視線は向けられるものの、手を伸ばしてくる奴は、未だいない。
 ふと目を向けると、俺の隣に乗っていた皿がいつの間にか消えている。客に取られ、その任務を全うしたのだ。……なぜ、俺はまだここにいる。
 その時。
「ああ、今日は我々は不況だねえ。特に君なんかはいい迷惑だろう」
 前を走っていた皿に、俺は声をかけられた。最近仲良くなったエビの奴である。
「なぜだ? 特に俺が、とはどういう意味だ?」
 奴の発した言葉の意味が理解できず、聞き返す。
「あれ? まさか君知らなかったのかい? あれだよ、あれ」
 そう言って、奴が指さしたそこには。
〝本日大特価! 中トロ一皿一〇〇円!〟
(なんだとッ!?)
 衝撃を受けたものの、頭のいい俺はすぐに理解した。 
(……なるほどな、そういうことか)
 どうりで俺はダメ日なわけだ。そういうことか。いくら寿司ネタの王だからと言って、安さには勝てまい。中トロか。あいつとはケンカで負けたことがないが、今日ばかりは俺の負けだ。完敗だ。今ごろアイツは優越感でいっぱいだろう。
 だが。
 俺は、俺に負けるわけにはいかない。
 他のやつがどうであれ、俺の死に場所はここだ。
 必ず、任務を全うしてみせる。
 生ゴミなんかにされてなるものか。
 俺は最後の精力を振り絞って、孤軍奮闘、必死に己をアピールする。
(この光り輝く赤を見ろ!)
(つやつやの新鮮なネタだ!)
(まぐろだ、まぐろなのだ!)
(想像しろ! ふっくらしたシャリと、弾けるばかりのあのまぐろの旨みを!)
(想像しろ! 程よい醤油の味と、香り高いわさびの絶妙なハーモニーを!)
(想像しろ! この俺(まぐろ)を!)
 その時。
 見慣れない、小さな手が俺に向かって伸びてきた。子供だった。まだ10歳にも満たないだろう、その男の子は、他の皿など見向きもしないで、一心不乱に俺を掴もうとしている。彼の背丈で皿を取るには、この動く歩道は高すぎる。
──頑張れ。
 気付くと俺は、彼を応援していた。
──そうだ、腕を伸ばせ。
 もたもたしていると、すぐ通り過ぎてしまう。 歩道は、無情にも動き続けるのだ。
 あとほんの少しで彼の届く範囲から去ろうという時。俺は、ふっと、宙に浮いた。
 掴んだのだ。
 よくやった。これで俺は任務を全うして生涯に幕を閉じられる。少年、感謝する……。
 安堵しきっていたその瞬間。
 隣から、母親と思しき人物の、鋭い声が耳に入った。
「あらしんちゃん、それサビ抜きじゃないわよ、やめときなさい」
(なにィーーーーーッッッィ!!)
 まさに空前絶後の悲劇。子供の手から皿を奪い取った母親は、そのまま何事もなかったかのように再び動く歩道の上へと俺を乗せると、
「こっちにしときなさい」
 と、後から流れてきたサビ抜きの中トロを、子供の前へと差し出した。
 もはやこれまで。
 二周目が終わるまで、あとほんのわずか。
 プライドも鮮度も、なにもかもずたずたに傷つけられた俺は、奮闘虚しく、再びあの男がいる厨房へと吸い込まれていった。
 果たして、俺が三周目に突入したか否かは、特筆すべきことではないだろう。

  ──任務完了、ならず。
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この記事に対するコメント

拝見させて頂きました。
とても面白かったです^^
まさか回転寿司をネタにした小説がくるとは。
こういう気軽に読めて楽しめる作品は好きです。
職人とマグロの力関係が素敵でした。
次回作もがんばってください。
【2006/01/10 12:23】 URL | ロビタ #tZDc9YLU

お腹が…鳴った
(まぐろだ、まぐろなのだ!)
↑とてもツボにはまる言葉でした!
プライドの高いまぐろのアホっぽい焦りよう。
とっても好きです☆
【2006/04/03 12:47】 URL | arty #-


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