散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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白い轍   (2005/12/24)
 その朝、いつもより早く目が覚め、いつもより1時間程早く出勤した。明け方に降った雪は、公園通りを真っ白に染めていた。通りにはまだ車もなく、降り積もったばかりの軽い新雪は、私の車とともに15センチ程の轍を創っていく。身の引き締まるようなこの町の寒さはどこか哀しく、公園通りの街路樹は、しんしんと降る雪に包まれて、街の音を吸収してゆく。
 大きな寒波の影響で驚くほど冷え込み、この街よりまだ寒い土地があることを天気予報で知り、ここより寒い街になんて住みたくもないなと苦笑いした。

 夕べの岩倉からの突然のプロポーズは、私を混乱させた。
 岩倉とは付き合って2年になる。職場の上司ということもあり、公にはしていないが、周囲は当然気付いているのだろうと思う。束縛もし合わず、週末に気が向けば会う、といった付き合いは、居心地もよく、寒い夜は身を寄せ合い、淋しさを埋められた。

 -結婚しよう。
 雪が激しく降る夜、いつもの静かな物腰で、隣に座った岩倉は言った。突然のことに驚き、言葉を失い、あいまいな表情を向けてしまった自分自身に戸惑った。ふと窓の外を見ると、大粒の雪が風に乗って斜めに空から降っていた。
 ああ、あの日もこんな雪の夜だった、と思った。
 幼い頃、父が声を押し殺して泣いていた日。風の音だけが聞こえ、部屋の窓から斜めに降る雪の影が見えていた。父とはそれきり会っていない。
 そして2年前の今頃、岩倉が職場のデスクで声を押し殺して泣いていた夜。遅い時間に帰社した私は気まずい雰囲気を打ち消すように、飲みにでも行きますか、と言うと、岩倉はきまりが悪そうに笑顔をつくり、そうだなとうなずいた。雪が激しく降っている夜で、冷たい空気がふたりの距離を縮めた。
 夕べの責め立てるように降る雪は、あの日声を押し殺して泣いていた父の泣き声に似ていた。あの日の岩倉の泣き声に似ていた。痛いほど心に響いたあの声に似ていた。

 岩倉も私からいつか去るかもしれない。かつて父が雪の夜に姿を消したように。
 違う、私が岩倉から去るかもしれないという漠然とした不安。声を押し殺して泣くようなことがなくなれば、という願いにも似た私の同情。私が岩倉を愛していないという事実。

 ―今夜、岩倉に伝えよう。

 日中の雪ですっかり悪路になった市内の幹線道路は除雪が間に合わず、夜には深く不均衡な轍ができていた。乗りなれた車に向かって降りしきる雪は、責めるようにフロントガラスへ迫ってくる。ワイパーの速度を上げ逃げようとすればするほど雪は私を責めるのだ。

 この街の冬はまだ長い。予報では今夜も大雪警報が出ている。どこまでも続くかのような白く薄暗い道が、ひんやりと私を包んでいた。

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