散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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お前にくれてやる   (2005/11/24)
志米良ケンが交通事故に遭った。コミックバンド「ドリフトキングス」のメンバーとして、お笑い界の頂点に君臨した男だ。意識不明の重体だそうだ。
死ぬはずはない。志米良は最後の最後までギャグをかましてくれる男だから。
戦場へ行っても死ななかった。戦国時代も生き延びた。用をたしている最中にトイレが倒壊しても平気だった。家にパトカーが突っ込んでも笑って済ました。もちろん全部コントの中のことだが、そんな男が事故であっさり逝ってしまうなんて、あってはならない。
ニュースによると、志米良の乗っていた車に居眠り運転のトラックが突っ込んだらしい。志米良は仕事帰りだった。
俺の命をくれてやってもいいと思った。彼が死ねば国中が悲しむ。俺が死ねば、わずかの人間が泣くだけだ。
馬鹿なことを。そんなことできるわけが…。でも、もしできるのなら、俺の命を…。
後ろからクラクションの音。信号は青に変わっている。あわててアクセルを踏み込む。
ひどい事故だったのだろうか。本当に助かるだろうか。俺にできることはないけれど、助かってほしい。頭の中で事故現場を空想する。心配で運転に集中できない。気付いたら周りの景色が流れるのが速い。スピードをだし過ぎたのか? 交差点に近づく、信号が赤じゃないか。必死にブレーキを踏んだけれど、右から巨大なものが近づいてきて、車内は影に覆われて、全身を衝撃が走ったと思ったら、あたりは真っ暗になった。
なんだよ、俺もケンさんと同じ運命か。
死んだのかな。意識を失っただけ? あたりはとても静かだった。暗くて、ところどころに白い灯りが。
体は動くようだ。ここは? 
夜だ。夜の道路の脇で、街路灯をみながら、なんだかぼーっとしている。
交差点だ。俺の事故った…いや違う場所だ。知らない場所。でも、見覚えがある。ここは…。
「志米良ケンが事故を起こした場所だ」
背後からのその声に、びくっとなって、振り返る。
「ここは志米良ケンが事故を起こした交差点だよ」
黒い服のオッサンが立っている。
「オッサン、誰?」
「私か? まあ死神みたいなものだ」
「天本英世?」
「死神博士ではない!」
「じゃあ西村」
「なんだ西村って!」
「俳優の西村ナントカってのに似てるから」
「あんなハゲと一緒にするな!」
「オッサンもハゲてるじゃん」
「デコが広いと言ってもらいたい!」
なかなか、イジリ甲斐のあるオッサンだ。だけど、そんな事より…。
「聞きたいことがいろいろあるんだけど」
「やだ、お前には教えない」
「ケチケチしないでさ。ねえ、俺は事故に遭って、何、死んだわけ? ここ天国?」
「お前が行くのは地獄だろ」
「さっきケンさんが事故った交差点だって言ってたけど、確かに、ニュースで見た場所だよ」
「だからそう言っているだろう」
「つまり、それはその、よくわからないが、俺はとりあえず生きていて、ここはケンさんが事故った交差点なんだな」
「そうだ、正確には志米良ケンが事故に遭う交差点だ」
遭う、とはどういうことだ。
「私の仕事は、死者の魂をあの世に送り届けることだ」
そりゃ、死神だからな。妙に納得する。
「実は、今日一名死亡者が出る予定になっている。私はその魂を迎えに来たのだ」
「え、それって」
「志米良ケンだ」
そんな…。
「だが、助かる方法がある」
「どうするんだよ!」
「お前は志米良ケンの代わりに死んでも良いと思っているな」
「お、おう、大ファンだからな」
「そんなお前が、同じようなタイミングで事故に遭い、同じように死に瀕している。非常に珍しいケースだ。だから、選択の余地を与えてやる。志米良ケンが死ぬか、お前が代わりになるか」
言葉が、出なかった。確かに代わりになってもいいって思ったけど、だけど…。
「お前が決めるのは、志米良ケンが事故に遭うまでの間だ」
「ということは、今はケンさんが事故に遭った夜ということか?」
「そうだ、向こうにかすかに見えるヘッドライト、あれが志米良ケンの運転する車だ」
え、もう来てるのか。遠くにヘッドライトが見える。すぐ後ろをトラックがフラフラ走っている。
「衝突まで3分もない。早く決めろ」
上等だよ。ケンさんはお笑い界の王だよ。すでに神だよ。安いもんだよ俺の命で救えるならさ。
「俺はケンさんの代わりに…」
言葉が続かなかった。
「どうした?」
ケンさんの代わりに、死ぬ? 俺が…。そりゃ俺は、ケンさんみたいに有名人じゃないけどさ。
「どうするんだ?」
ヘッドライトが近づいて来る。早く言えよ。俺の命で助けるんじゃないのかよ。
「ケンさんの代わりに…」
言えない、どうしても。ケンさんは皆の人気者だけど、俺は人気者じゃないけど、俺のこと愛してくれる人も、少しだけどいるんだよ。その人のためにも、生きなきゃいけないんだよ。いや、そんなんじゃなくて、もっと単純に、死ぬのが、怖い。
車の音が聞こえてきた。死にたくねえよ。ケンさんだって死にたくないだろうけどさ、俺だって死にたくねえよ。俺は、俺は…。
だけど、ケンさんは死んじゃダメだ。そうだ。俺は力いっぱいに叫んだ。
「志米良!後ろ!」
声は、ケンさんには届かなかった。
重い衝撃音の後に、鼓膜を引き裂くような金属の摩擦音が続いた。
ケンさん、あんたはいつだってそうだ。セットが崩れてきた時も、いかりがはら長助が忍び寄ってきた時も、あんたの背後で便器から幽霊が出てきた時も、俺達は「志米良!後ろ!」と叫んだのに、あんたは決して振り返らなかった。だから、だから死んじまうんだよバカヤロー。
「身代わりになることはできなかったな。予定通り志米良ケンの魂を連れて行く」
「待ってくれよ。何とかならないのかよ。ケンさんは、皆が必要としてるんだよ」
「チャンスは与えたつもりだ。だが、お前はそれを生かさなかった」
「待ってくれよ西村。お願いだよ。ケンさんの魂持ってかないでくれよ。なあ、西村、助けてくれよ」
西村にすがりついた。
「私は西村じゃない」
そう言い残して、西村は煙のように消えた。
俺はグシャグシャになった車を見た。
「ケンさん、ごめん。ケンさん、ごめん」
ケンさんに申し訳なくて泣いた。自分の無力さに、自分の情け無さに、ただ泣いた。
泣いているうちに街路灯が消えたのか、意識を失ったのか、目の前が真っ暗になった。
悲しくて目が覚めた。病院のベッドだった。傍らで女房がうたた寝をしている。ずっとそばにいてくれたのだろうか。手を伸ばして、彼女の髪に触れると、目を覚ました。
「あなた?あなた?」
少しうなずく。
「あなた、私が分かる?」
笑顔でうなずく。
「よかった。一時はどうなることかと思ったんだよ。だけど本当によかった」
女房はうれし涙を流していた。俺が流している涙は、うれし涙とは違うけど。いや、うれし涙も流れてるかな。
ケンさんを助けることのできなかった俺だけど、ケンさんに捧げることを躊躇したこの命だけど、お前の命と、俺の命、どちらをとるかを言われたら、今度こそ迷いなく俺の命を捧げる方を選択できる。俺の命は、お前にだったらくれてやってもいいと思ってる。ほんとに、そう思ってるんだ。
ケンさん、あなたはもう死んでしまったのだろうけど、あなたのギャグは永遠に生き続ける。生きている俺達は、あなたのギャグを真似し続けるから。女房を喜ばすために、さっそく使わせてもらうよ。
俺はあごの下に手を持っていって、力いっぱいに叫んだ。
「アヰーン」
女房は笑ってくれるかと思ったけど、驚いて目を丸くしていた。そして病室を飛び出して、医者を連れてきてこう言った。
「先生、主人が目を覚ましました。だけど、変なんです。主人が、主人が変なおじさんになっちゃったんです」
それを聞いたらおかしくて、ふき出してしまった。そして、ケンさんのことを思い出して、涙がたくさんこぼれた。


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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学




この記事に対するコメント

拝見させて頂きました。
すばらしいです!!
見ただけで引き込まれるタイトル、コメディタッチながらも感動のストーリー。
判りやすく面白い。小説の大事な部分はここではないでしょうか。
堪能させて頂きました。
次回作も大いに期待しております。
ありがとうございました^^
【2005/11/25 09:45】 URL | ロビタ #-


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