散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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    See-Saa Night Fever!!


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    イシカワ マキ
    長野市在住。



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眩暈   (2007/06/23)
 梅雨らしからぬ乾いた天気が続いている。早い夏が来たかのような暑い土曜日、貞夫は新築したばかりの店舗兼事務所を眺めていた。公園通りが延長開通してから、予想通り売上は順調に伸びている。
 五年前に父から継いだ会社もようやく自分のものになってきた感がある。取引先の連中も、会社が大きくなるにつれて低姿勢になってゆくのは世の常だろうか。いい気になって経営哲学などしゃべり始めると、妻にたしなめられることもしばしばだ。
 妻は出来た女である。慎み深く、聡明な女だ。会社が傾きかけたときも根気強く、立直しに尽力してくれた。出来た女房である。

 日曜日。
 事務所の引越しもひと段落したので、久々の休日である。普段より少し遅めの朝、起きざまに軽い眩暈に襲われる。最近よくあることで、別段気にも留めない。妻は休日だというのに朝からせわしなく働いている。貞夫の昔からの無愛想に妻はすっかり慣れてしまったようだ。
 娘の仁美とは昔からあまり話さない。子育ては全て妻に委ね、仕事ばかりしていた。年頃の一人娘は何を考えているのか、貞夫には皆目分からず、派手に爪を塗り、目を塗り、唇を塗っている姿など見るにつけ、妻の若い頃との対比に苦しむのだ。

 居間に置かれたヒノキの置物から漂う香ばしい香り。その隣で新聞をひろげるのが貞夫の日課だ。近所の河べりに立つ樹齢六百年と言われたケヤキの樹が折れた、という記事を読みながら、子供の頃、よく遊んだその樹を思い出していた。この街のご神木だった。
 絶えず軽い眩暈が続いているのは、疲れが溜まっているのだろうと思った。

 めずらしく娘が、お父さん、と声をかけてきた。いつもと変わらずお互いに無愛想な親子である。次の瞬間、突き刺さる言葉が娘の口から吐き出された。

 「あの女の人、誰なの?」

 言葉を失う貞夫に、娘は答えなど求めていないとばかりに、背を向け派手にドアを閉め部屋を出て行った。妻は聞こえないのか聞こえないふりをしているのか、せわしなく居間の片付けをしている。小骨が喉にひっかかったように、鈍い喉の痛みだけが残った。

 月曜日。
 組合の会合だと言って仕事を早めに切り上げ、佳代のアパートへ向かった。食後の一服を愉しみながら佳代に伝えた。
「娘に、見られたようだ。」
 佳代は小さな目を少し大きくして、そう、と静かに言った。

 佳代と懇意になって三年が経っていた。妻とは正反対の四十手前の不器用な女である。少しの小遣いで月に何度か会っている。とは言え、この小さな街ではすぐに噂になりかねないので、外で会うことはほとんどしない。最近唯一外で会ったといえば、先週末、出張帰りに隣り街のシティホテルへ行ったぐらいのものである。
 佳代はベッドの上でも、妻のようにうるさいことは言わない。面倒なことも一切言わない女である。三十半ば過ぎまで独身でいるのは自分のせいだろうか、と申し訳なく思うこともあるが、佳代からは結婚を迫られることもない。お互いに丁度いい距離を保っているのだと、勝手に解釈していた。

 少し間を置いて、強張った声で彼女は、実は、と切り出した。
 「私、地元に帰ることになったんです。」
 喉の痛みを再び思い出し、軽い眩暈がそれに続いた。
 「今までお世話になりました。」
 不器用ながら、はっきりした口調で佳代は言った。

 深夜の帰り道は真っ直ぐに続く公園通りである。
 貞夫は昔から自尊心が人一倍強いたちである。佳代からの突然の別れは全く予想外のことだった。苛立ちにも似た感情が、貞夫から冷静さを奪っていた。いつもよりアクセルを踏む足に力が入る。
 冷静さを取り戻そうと、葛藤が続いていた。
 あのT字路を曲がりきったら忘れよう、とふと思った。
 貞夫は年甲斐もなく、その急カーブを曲がるときの高揚感が好きだった。見通しの悪いそのカーブは対向車線に大型トラックでも来ると、昼間でもひやりとする。
 アクセルを踏む。ハンドルを強く握る。
 佳代の言葉と、娘の言葉、妻の態度、ふがいない自分。諸々が浮かんでは消えた。このT字路を曲がったら、いつもどおりの日常に、何も無かった日常に戻るのだ、ともう一度心の中で唱え、アクセルを踏んだ。
その時、激しい眩暈が貞夫を襲った。ぐるりと世界が回った。T字路を曲がりきった瞬間、対向車線のヘッドライトが眩しくぼやけた。白い壁が、目の前に迫った。
 眩暈の中で光に包まれる感覚は、今まで経験したことのない高揚感だった。次の瞬間、鋭い衝撃音と熱さのような激痛が走った。

 シャッターが下りたように視界が暗闇になり、見たこともない折れたケヤキの巨木が、貞夫の脳裏にぼんやりと焼きついた。不思議な程の静寂が貞夫を包み、痛みも怒りも感じなくなった。
                             
                                         了
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舞台『VOICER』   (2007/06/06)
※世界設定については、「ボイサー養成マニュアル」をご参照下さい


舞台設定

・教室。夜間学校と職業訓練校を足して二で割ったようなイメージ。
・生徒は数人。学ぶのは「ボイサー:Voicer」と呼ばれる職業につくための基礎知識。
・ボイサーとは、団塊世代の高齢化退職に伴う有り余った退職者の労働力と、増え続けるニート世代への働き口として、無理矢理需要を生み出した在宅ワーク。これまで機械の自動音声で補っていた様々なアナウンス(駅の構内、留守番電話やNTTアナウンスなどの電話応答、カーナビなど各種機械に内蔵されている自動音声)を全て人間の声で行う事で、家にいながらにして仕事をした気になれる仕組み。時代の流れに逆行していることこの上無いが、斬新なアイディアとして浸透し、ボイサー志望者は増え、各地に民間の養成学校が開校された。そんな時代のお話し。

人物設定

マブチ・・・元ヤン。オレオレ詐欺の下っ端に嫌気が差していたところを、親に無理矢理入学させられた。斜に構え口は悪いが、実は電話の仕事が好きで、電話を持って喋ると人が変わる。

サクラ・・・根は明るいが、些細な事からいじめに遭い、登校拒否で家に引き籠もるようになる。既にボイサーとして再就職していた父の薦めもあり入学。少し抜けているが憎めない。

サクラ父・・・サクラの父で、昔は工場で働いていたが、定年後にボイサーとして再就職。元気に働いている。家に引き籠もるサクラにボイサーを勧め、元の元気で明るい行き方を取り戻して欲しいと願っている。いわゆる親バカ。ボイサー養成学校の第一期卒業生でもある。

ハラダ・・・頑固な老人。隠居生活に嫌気が差し、新聞の広告を見て入学。妻に先立たれ一人寂しい老後生活を送っていた。

コマノ・・・アニメおたくの暗い少女。本当は声優を夢見ているが、臆病で引っ込み思案な性格で足を踏み出せないでいる。現在はニート中。ボイサーをステップにして自信を持ち、声優へと挑戦したいと密かに思っている。

ウエハラ・・・母親の看病をしながら仕事をするため、大学を中退してボイサーの道へ。インテリ気質なので周りを少々小馬鹿にするような言動がたまに傷だが、一番真面目に学ぼうという意識が高いのも彼女。

イトウ・・・養成学校講師。アナウンサーの道を諦め講師の道に。一応講師の熱意はある。





   生徒達(マブチ、サクラ、ハラダ、コマノ、ウエハラ)、椅子に座っている。
SEチャイム音。
イトウ登場。ドアを開け教室の中へ。教台の前に立つ。

ウ「起立~! 気を付け、礼、着席~!」

   生徒達、皆で立ち上がり一礼。

イ「はい、それでは本日も授業をはじめます。まずは出欠を・・・。(各自名前を呼ばれたら返事)ウエハラさん、コマノさん、サクラさん、ハラダさん、マブチさん、リサ・スティッグマイヤーさん・・・は来てないっと」

   イトウ、室内を見渡しながら帳簿に書き込む。

イ「よし。では授業を開始します。前回は確か『ボイサー』の誕生と意義についてでしたね。まずはその復習をしてみましょうか。では、ウエハラさん、ボイサーの説明をしてみてください」
ウ「はい。ボイサーは、これまで機械の自動音声で行っていた留守番電話やNTTアナウンスなどの電話応答や、駅などでのアナウンス、それにカーナビなどの音声アナウンスを全て生身の人間が代行するという、全く新しい概念から生まれた在宅ワークです」
イ「はい、ありがとう。さすがですねウエハラさん、完璧ですよ。そのボイサーという在宅ワーク、その仕事をこなすために、皆さんはこのボイサー養成学校で学んでいるわけですね。では、そのボイサーの意義について、サクラさんお願いします」
サ「は、はい! えっえ~~っと・・・。(ノートを懸命にめくりながら探す)あれ、忘れちゃいました~。てへっ(頭を自分で軽くこづく)」
マ「あん? なんだその『てへっ』ってのは! なめんじゃねぇよ!」
イ「まぁまぁ、マブチくん。サクラさんもまだ若いんだから、もっと優しくしてあげないと。サクラさん、前回やったところですから、ちゃんと復習してくださいね」
サ「はーい」
マ「ちっ」
イ「ではコマノさん、サクラさんの代わりに答えてもらえますか?」
コ「え・・・私ですか? 私はいいです・・・」
マ「いいってなんだよ、子供じゃねえんだぞ?」
コ「すいません・・・」
コマノ心の声 「負けるなワタシ! あんなヤンキーなんかに負けてるようじゃ、声優になんてなれないわ!」
イ「うーん、では誰か答えられる人は・・・?」
ハ「ワシが答えよう。ボイサーはな、ワシのように定年を迎えながらも働き口を探している老人達のためにあるのじゃ。家に居ながらにして働ける仕事じゃからのぅ。といっても、おまいさん達のような若者にも需要があるようじゃがな」
イ「はい、ハラダさんありがとうございます。そう、ボイサーは増え続ける定年後の年長者の方々や、訳あって社会に出られない方々、あとは増え続けるニートの更生といった意義もあるんですね。ですから、皆さんが目指しているボイサーは、日本政府が生み出した、斬新かつ有意義なお仕事と言えるわけです」
ウ「先生、私も家で寝たきりの母を看病しながら働ける、ということでボイサーへの道を選びました。非常に素晴らしい職業だと思います」
イ「ウエハラさん、その気持ちを忘れなければ、きっと素晴らしいボイサーになれると思いますよ、頑張って下さいね」
ウ「はい!」
マ「ふんっ馬鹿らしい・・・」

イ「はい、それではみなさん、前回の復習が終わったところで、早速次の勉強に移りましょう。今日から、皆さんお待ちかねの実践練習です」

   教室内、ざわつく

イ「今日は特別にゲスト講師をお招きしています。早速呼んでみましょうか。お父さん!」

   サクラ父、登場。

父「は~い、どんも皆さん! いつもうちのサクラがお世話になっとります~!」
サ「お父ちゃん!」
父「サクラ、ちゃんと勉強しとったか~? 真面目にせんといかんぞ」
イ「はい、というわけで、今日はサクラさんのお父さんに来ていただきました。お父さんは実はこの学校の一期生で、既にボイサーとして活躍しているプロボイサーです。今日は色々と皆さんに教えていただけるそうなので、楽しみにしましょう」
父「どんぞ、宜しくおんねがいします!」
一同「おねがいします」
イ「では、ウォーミングアップも兼ねて、早口言葉をしましょうか。私から順に言っていくので、順に回していきましょう。皆さんはそれぞれの言葉を復唱して下さいね。ではいきます」

   早口言葉合戦スタート

イ「生麦生米生卵、はい」
一同「生麦生米生卵」
ウ「赤巻紙青巻紙黄巻紙、はい」
一同「赤巻紙青巻紙黄巻紙」
サ「隣の客はよく柿食う客だがその隣の客はよく牡蠣にアたる客だ、はい」
一同「隣の客はよく柿食う客だがその隣の客はよく牡蠣にアたる客だ」
イ「おっ、新しい」
コ「カエルぴょん吉三ぴょん吉、合わせてぴょん吉六ぴょん吉、はい」
一同「カエルぴょん吉三ぴょん吉、合わせてぴょん吉六ぴょん吉」
イ「ど根性、って感じですね」
マ「天上天下唯我独尊、喧華上等、愛羅武勇、ふん」
一同「天上天下唯我独尊、喧華上等、愛羅武勇」
イ「マブチだけにマブいねぇ。はい、では早口言葉はこの辺にして、次は発音しにくい単語を三回、言ってみましょうか。ではいきます。マサチューセッツ工科大学、マサチューセッツ工科大学、マサチューセッツ工科大学、はい」
一同「マサチューセッツ工科大学、マサチューセッツ工科大学、マサチューセッツ工科大学」
ハ「万景峰号(まんぎょんぼんごう)、万景峰号、万景峰号、はい」
一同「万景峰号(まんぎょんぼんごう)、万景峰号、万景峰号」

※ こんな感じで続いたあと・・・

イ「はい、ではようやくお待ちかね、ボイサーの実践練習にいきましょうか。サクラさんのお父さん、御協力お願いしますね」
父「うぉっほん、では早速・・・。まずは基本から。御客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません、はい」
一同「御客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません」
父「番号をお確かめになってもう一度お掛け直しください、はい」
一同「番号をお確かめになってもう一度お掛け直しください」
父「何だか昔を思い出すなぁ。では次。次の交差点を左折、その後しばらく道なりです、はい」
一同「次の交差点を左折、その後しばらく道なりです」
父「まもなく三番線に新宿、渋谷方面の電車が参ります。『え~三番線山手線到着で~す』。はい」
一同「まもなく三番線に新宿、渋谷方面の電車が参ります。『え~三番線山手線到着で~す』」
ウ「先生! 自動音声じゃない部分も混ざっていると思います!」
イ「まぁいいじゃないですか。それがプロのボイサーってことですよね、お父さん」
父「そうですともそうですとも。プロボイサーというもの、自動音声にプラスアルファが必要なんですな。利用者の気持ちを思い遣る、それがプロってもんじゃないですか~?」
ウ「確かに・・・そうかもしれません。失礼しました!勉強になりました!」
父「その気持ちを持って、じゃあここから応用問題いきますぞ~。準備はいいですか~?」
一同「は~い」
父「(トラックの音声風)ピッピッ、バックします。ピッピッ、バックします。ピッピッ、バッ・・・ってアブナ~イ、トラックの真後ろにカルガモの親子が~! はい」
一同「ピッピッ、バックします。ピッピッ、バックします。ピッピッ、バッ・・・ってアブナ~イ、トラックの真後ろにカルガモの親子が~!」
マ「いや居るわけね~だろ!」
父「ぱんぽーん、お風呂が沸きました。お風呂が沸きました。奥さ~ん、今日もいい湯加減ですぞ~! 何なら・・・一緒に入っちゃいますか~? はい」
一同「ぱんぽーん、お風呂が沸きました。お風呂が沸きました。奥さ~ん、今日もいい湯加減ですぞ~! 何なら・・・一緒に入っちゃいますか~?」
マ「単なるセクハラじゃね~か!」
父「ピッポッパッ。レンジ、あたため5分を設定しました。あたためをスタートします。奥さん、最近いつもレンジでチンじゃないか。あんたの娘さんは、母親の温もりをたったの5分のあたためで、毎日感じてるんですよ・・・、はい」
一同「ピッポッパッ。レンジ、あたため5分を設定しました。あたためをスタートします。奥さん、最近いつもレンジでチンじゃないか。あんたの娘さんは、母親の温もりをたったの5分のあたためで、毎日感じてるんですよ・・・」
マ「いや余計なお世話だろ、人んちの家庭事情なんて」
イ「はい、とまぁこのような感じで、利用者の気持ち、立場を思い遣ってあげるというのが、プロのボイサーの腕の見せ所というわけですね、お父さん」
父「そんですとも。私も始めの頃は、どうも緊張して言えなかったり、『部外者がそんなこと言っていいのか』って良く悩んどったんです、でも今はその悩みもすっきりして、毎日が楽しくてたまらんのですよ、はっはっは~」
マ「いやずっと悩み続けろよ、人の生活に介入して、みのもんた気取りか!」
イ「まぁ確かに、ボイサーもいくつか問題を持っています。例えば、マブチくんが今言ったようなプライバシーという問題、これも重要です。ボイサーは、担当場所の状態を絶えずチェックするために、支給された専用の最新機器を使って映像や音声をリアルタイムで受け取っているわけですから、ある意味盗聴や盗撮との垣根があいまいになってしまったんですね」
父「あぁ、そういえば友人のボイサーが、こんなことをしとったなぁ。さくら、あの話、再現するぞ」
サ「あ、父ちゃん、あの話だね!わかった!」
父「んじゃちょっとこっち来んさい」
   父とサクラ、前に出て寸劇開始。恋人のように手を取り向き合う二人

父「こんなロマンティックな夜に・・・君と一緒に居られて、幸せだよ」
マ「なんだこの猿芝居」
サ「えぇ、私も幸せよ、ぴょん吉さん」
マ「またど根性ガエルかよ!」
コ「あたしの持ちネタが・・・」
父「月の光も綺麗だ・・・軽く、一緒に踊らないかい?」
サ「えぇ、喜んで、ヒロシさん・・・」
マ「いやど根性ガエルだけどキャラ変わってるし!」

   父、ラジカセに電源を入れる仕草
   曲『アンチェインド・メロディ』が流れ、曲に合わせて踊る二人

ウ「ロマンティックねぇ」
ハ「わしの若い頃を思い出すのぉ」
マ「いや主旨変わってるだろ、明らかに!」

   しばらく踊ったあと、踊りを止め見つめ合う二人。黙ってうなずく。
   手を取り合ってラジカセのボリュームを落とし、電気を消す。(舞台上、薄暗くなる)

父「と、ちょうどその時! 友人が担当していたビデオデッキが作動したんじゃ。『ピピピピッ、ピピピピッ、まもなくタイマー設定時間です。ギルガメッシュないとの再放送が始まります』。友人が発したその言葉で、二人のいいムードはぶち壊し。結局、このことが原因で別れてしまったんですね~」
ウ「その女性、可哀想・・・」
マ「よりによってギルガメッシュないとだぜ、当然じゃねぇの?」
コ「アニメだったらまだ良かったのに・・・」
父「その友人はこの事件に非常にショックを受けましてな、『私は人の私生活に介入してしまった、人生を狂わせてしまったのかもしれない』って思い悩んでおったのです。現場の状況を知っていながら、口にすればどうなるか予想できるような言葉を発しなければならない、その辛さったらないですなぁ」
イ「ボイサーのルールとして、あらかじめ設定された機能を解除することはできないですからね、いくら中身が人間だからと言って、自動音声は自動音声としてのたちばがありますから。悲惨な出来事でしたね・・・」
ウ「ボイサーの厳しさを垣間見た気がします・・・」
イ「でもねウエハラさん、もちろんボイサーならではの貢献の仕方もあるんですよ。例えば公共施設や銀行では、逆に積極的にボイサーからの働きかけをやっているんですよ」
父「では実際にやっていますぞ~。ではコマノさん、御協力お願いします」
コ「えぇっ、あたしですか? でも~・・・」
父「いいからいいから、(コマノの耳元で指示出し)よし、ではこの設定でいきますぞ」
コ「はい・・・」
コマノ心の声「負けるなワタシ! こんな寸劇の一つや二つできないようじゃ、声優になんてなれないわ!」

   銀行のATMの設定。コマノ、老人のように腰を屈め、ATMの前に立つ

父「通帳、またはカードをお入れ下さい。(この後はコマノの動作に合わせて)あぁ、おばあちゃん、これは通帳じゃなくて電話帳ですよ! でんわちょう! 機械に入りっこないんだから」
マ「どういう間違え方だよ、どう見ても重すぎるじゃねぇか!」
ハ「うっ、ワシの妻のことを思い出すのぉ、良く通帳と間違えて電話帳を持って行っていたわい。今頃あの世でのんびりと過ごしとるかのぉ」
ウ「あぁ、うちの母もそういえば・・・。今は寝たきりで出歩けなくなってしまったけれど、昔は良く持ち歩いていたわ・・・」
マ「みんなボケ過ぎだろ!」
父「お忘れ物がございます。お忘れ物がございます。お忘れ物がございます」
マ「どんだけ不注意なんだよ!」
父「おわすれものがございます。おばあちゃん、忘れ物、ほら入れ歯、入れ歯!」
マ「入れ歯外してたのかよ! 何のために!」
ハ「うぅぅっ、サチコや~! お前もよく入れ歯を銀行に忘れていたなぁ。どうしてワシを置いて先立ってしまったんじゃ~! お~いおいおいおい(泣く)」
ウ「あぁ、お母さん、今じゃ入れ歯もろくに忘れられなくなって、どうして寝たきりになってしまったの! え~んえんえんえん(泣く)」
マ「またこいつらもか! どんだけ不注意天国なんだこの国は! そんなんだからオレは・・・」
ハ&ウ「お~いおいおいおい、お~いおいおいおい」
イ「ほら、ウエハラさんとハラダさん、泣きやんでください。ボイサーになれば、奥さんやお母さん達のような人々のために貢献する事もできるんですよ。ですから、立派なボイサーになれるよう、頑張ろうじゃないですか」
ハ&ウ&サ「はい!」
父「じゃあ早速実践練習の続きを行きますぞ~」
マ「ちょっと待てよ・・・」
イ「それではお父さん、お願いします」
マ「ちょっと待てよ!」

   一同、驚いてマブチを見る。沈黙。

マ「あのなぁ、そういった『貢献』だとか『親のため』だとか、そんな下らない理由を嬉しそうに語るんじゃねぇよ。みんながみんな、そんな気持ちでボイサーになろうとしてるんじゃねぇんだよ。オレなんてなぁ、オレなんてなぁ、ついこの間までそういった老人達を騙して生計を立ててたんだよ!」
イ「振り込め詐欺、ですか・・・?」
マ「あぁそうだよ。毎日毎日名簿を見て電話してよ、『オレオレ、オレオレ』って言ってよ、罪もない人たちを騙し続けてきたんだよ! だからなぁ、もしかしたらオレは、お前らの奥さんやお母さんを騙してた可能性だってあるんだよ!」
ウ「マブチさん・・・」
マ「オレはな、そんな生活が嫌になって逃げ出したくて、でもグループからは抜けようにも抜けられなくて、もう我慢ができなくなって警察に自首して、それでこの後ここに来たんだよ。だからな、オレはお前らと違って立派な動機なんてねぇんだ、単なる罪滅ぼしの意識しかねぇんだよ・・・」
ハ「何を言っておる、単なる罪滅ぼし? それこそ立派な動機じゃないか。立派に更正を目指している証拠じゃないか」
イ「マブチくん、ボイサーはそういった人達のためのものでもあるんですよ。罪を犯してしまった人、ニートだった人、心の病だった人、そんな人々が社会復帰できるよう支援する、それもボイサーの大事な意義です」
マ「先生・・・」
父「青年、君は今日の授業中、ずっと皆にツッコミを入れておりましたな。最初は単に難癖をつけているだけかと思って聞いていたけれど、本当はそうじゃなかった。もっと真剣な授業を求めていたんですな。そういった真剣な心があれば、必ず立派なボイサーになれますぞ、ワタシが保証します。だから、大船に乗った気になって、授業の続きに励もうではあ~りませんか」
マ「・・・」
イ「マブチくん・・・」
マ「・・・」
イ「マブチくん・・・」
マ「・・・」
イ「マブチ~!」
マ「!」
イ「おまえ男だろ! 悔しくないのか!」
マ「先生・・・」
イ「悔しくないのかよ!」
マ「く、悔しいです!」
イ「悔しくないのか!」
マ「悔しいです!」
イ「よ~し、お前の言いたい事はよく分かった。オレはこれからお前を殴るっ! 歯を食いしばれ!」
マ「ハイ!」

    イトウ、マブチを思い切りビンタする。そして何故かその場の全員を殴る。
マブチ以外の全員、舞台上に倒れる

イ「マブチ! 悔しいなら誰でもそう思う。だが思うだけじゃ駄目だ! それでお前はどうしたいんだ~!」
マ「勝ちたいですっ!」

    曲『スクールウォーズ』
    曲のイントロに合わせて皆立ち上がる

イ「よし、マブチ、来い! トライ、トライ、トライ、トライ・・・」
マ「先生~!」

    マブチ、ラグビーボールを抱え、イトウへ抱きつく

イ「マブチ~!」
マ「せんせ~い!」

    マブチ、イトウを抱きかかえたまま回転する

一同「せんせ~い!」

    立ち上がった回りのメンバーが、一人ずつ先生と叫びながら二人に抱きつこうとする
    しかし二人は回転したまま、皆を吹き飛ばす
    曲、大きくなり暗転。暫く曲が流れた後フェードアウト

    曲が終わると共に、照明つく。一同、元の位置に戻っている
ウ「先生! では続きをしましょう! なんだか私、ますますボイサーになりたいという気持ちが大きくなりました!」
ハ「ワシもじゃ!」
サ「あたしも!」
コ「わ、私も・・・」
コマノ心の声「ワタシの動機は声優になること! だからまずは立派なボイサーになってみせるわ!」
イ「はい、皆さん、今日の気持ちを忘れず、これからの授業にも励んで下さいね。しかしながら今日は、もう授業時間が残り少なくなってしまったので、実践練習はここまでにしましょう。サクラさんのお父さん、御協力、本当にありがとうございました」
父「いえいえ、お役に立てましたら光栄です」
イえ~、実は今日は授業の最後に、簡単なテストを行いたいと思います」
一同「え~!(いいとも風に)」
イ「まぁまぁ、そう言わずに。テストの説明をしますね。今日の授業で初めて実践練習を行いましたが、まず第一に必要な事は、タイミングを計った発声だということがわかったかと思います。絶妙のタイミングでの発声が、プロボイサーへの第一歩です。今日は、皆さんの聞き慣れたCMやジングルといった音源を流します。皆さんはその音に合わせて、適切な言葉を発してください。ではまずはお手本ということで、お父さんお願いできますか」
父「いいとも~!」
イ「では問題はこちらです。いきますよ~」

    ジングル「めちゃイケのオープニング」流れる。そのタイミングに合わせ・・・

父「Wanna Cool We Are!」
一同「お~!」(拍手)
イ「はい、というような感じでテストを行います。順番に行きましょう。ちなみに、このテストで一番評価の高かった方は特典がありますので、皆さん奮って答えてくださいね。では・・・まずはサクラさん」
サ「は~い!」
イ「それでは問題です、どうぞ!」

    といった形で、順番に問題に答えていく。問題は当日も秘密。
    コマノだけは毎回同じ問題。トトロの一場面(「メイの馬鹿!」「ごめんなさい」)と
いうシーンを完璧に一人二役でこなす

イ「はい、これで全員終了しましたね。では結果を決めたいと思います。少々お待ち下さい」

     イトウ、サクラ父と打ち合わせる

イ「はい、決まりました。では発表をお父さん、お願いします」
父「わかりました。第一回実施テスト、最高点は・・・」

     ドラムロール

父「コマノさんです!」
コ「や、やったわ~! う~ん・・・」
ウ「コマノさん! しっかり! 先生、嬉しすぎて気を失っちゃいました」
サ「父ちゃん、なんであたしじゃないのさ~」
マ「いやていうか、話の流れ上、普通オレじゃねぇの?」
イ「皆さん第一回というのに素晴らしい出来で、私も非常に満足していますが、今回はお父さんとの選考の結果、コマノさんに決定したいと思います。お父さん、選評をいただけますか」
父「メイちゃ~ん!」(トトロのお婆さんのモノマネで)
イ「はい、というわけで、コマノさんには・・・って本人はまだ気を失っていますが、今回の特典として、とある劇団の前説、後説を担当してもらいます。つまり初仕事ですね。次回以降もこういった特典を用意していますので、皆さん予習復習をしっかりとして、早く一人前のボイサーとなれるよう、皆で頑張っていきましょう!」
一同「はい!」

    SEチャイム

イ「ちょうどチャイムが鳴りましたね。それでは本日の授業を終わります」
ウ「起立~! 気を付け、礼、解散~!」

    生徒達、皆で立ち上がり一礼。そして暗転。
    BGM『ダンシングクイーン』流れる
    照明がつくと、部隊にはイトウとサクラ父だけ残っている

父「先生、このクラスの生徒達はいいですなぁ。皆真剣で、やる気があって」
イ「いやぁ、お恥ずかしい事に前回までは全くまとまりがなかったんですが、今日の授業のお陰で、私も自信が持てました。今では私の自慢のクラスですよ」
父「私も初心を思い出しましたよ~。新鮮でした。また良ければ呼んでくださ~い」
イ「えぇ、また次回必ず・・・」

     イトウとサクラ父、笑いながら教室を後にする

コマノ心の声「こうして気を失っている間に、ワタシのデビューは決まっていました。演劇はあまり観ないので詳しくないのですが、YAX直線とかいう劇団の仕事らしいです。何はともあれ、ワタシにとっては声優への夢の第一歩。精一杯ガンバルンバ!」

     BGMフェードアウトで幕


上演:2006年10月15日 新宿ゴールデン街劇場

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