散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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    週刊とりぶみ


    ナチュレ
    [プロフィール作成中...]


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    沖縄出身ゴールデンルーキー

    某サークル六代目総長

    しがないサラリーマン
    ~順調にジョブチェンジ中!~
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    イシカワ マキ
    長野市在住。



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放物線   (2006/12/25)
 冷凍庫から数日前にしまった鶏肉を取り出そうとしていると、その奥に何か手ごたえを感じた。少し背伸びして視界に入ったのは真四角な平たい冷凍ご飯だった。我が家の冷凍ご飯は丸いおにぎり型だから、この四角いご飯は去年の夏に亡くなった美加の祖母が作ったものだ。
「お母さん、まだこんなの出てきたよ。」
 もう古いから捨てちゃうよ、とキッチンのゴミ箱に放り投げた。ガサっと鈍い音がして、祖母が作った最後の冷凍ご飯は処分されたのだ。

 黄色い落ち葉が、公園通りの濡れた路面に張り付いている。降ったり止んだりする雨が、片時も路面を乾かしてくれない。この通りのちょっとした名物でもある銀杏並木の紅葉はすっかり終わり、敷き詰められた落ち葉はこんな風に路面に張り付いてしまうと、お世辞にも綺麗とは言えない。
 公立高校の校内はどの教室も一日中寒い。教室のいちばん後ろの席に座り、背中を丸めて机に向かうクラスメイトを見れば、まるでかたつむりの群れのようだ。
 美加は終業のチャイムが待ち遠しかった。
 今日はチャイムが鳴ったら、この教室内の誰よりも先に帰ろうと心に決めていた。
 今夜、決行するのだ。
 呪文のように美加は心の中で唱えた。
 今夜、決行するのだ。

 最近美加はいろいろな物を捨てた。すっかり小さくなってしまった、大好きだったよそ行きのワンピース。中学時代に何度も読んだハードカバーの「星の王子さま」や「モモ」。何を描いたのか良く分からない子供の頃の絵。小学校時代に書いていた、今読むと恥ずかしい日記数冊、その他諸々。ある日突然何かをリセットしたくなって美加はいろいろな物を捨てた。何となくそうすることで生まれ変わることが出来る気がして。
 
 日没と共に気温も下がり、昼間の雨も上がり空気もだいぶ乾いたように感じた。そそくさと一人きりの夕飯を済ませ、自宅の隣にある物置小屋に足を伸ばす。
 我が家の物置は広くて暗い。古新聞。スキー用具。処分され忘れた古い机。壊れたストーブ。昔家族でよく使ったキャンプ用品。父の釣り道具。家庭菜園用の農具。捨てる物が溢れている。
 懐中電灯を照らしながら物置へ入ると、心なしか少しわくわくした。この物置で祖母は、一人っ子だった私とよく探検ごっこをしてくれた。
ひとりで佇む静かなこの空間の中で美加の鼓動が高鳴る。手にした丸めた新聞紙は少し湿っていて、灯油の匂いが鼻につく。気持ちの昂ぶりを必死に抑えるのが美加の精一杯だ。深呼吸すると灯油の匂いが堪らず、長めのスウェットの袖で鼻を覆う。さらに鼓動が高鳴る。経験したことの無い昂ぶりに酔い、美加は手にした火の玉を優しく放り投げた。それは驚くほど静かに綺麗な放物線を描いた。
 静かに広がる火の玉は辺りの冷えた温度を急激に上げ、吐く息の白さが、煙の白さなのかと美加を困惑させた。美加の細い指はいつの間にか火傷を負っている。ふと、夕べ捨てた固く平たい冷凍ご飯もこの火の中ではあっという間に溶けるだろうと思った。祖母の手が脳裏をよぎる。冷凍ご飯をラップで包む祖母の手はごつごつしていた。
 さよなら、と声に出してみた。住宅街が喧騒に包まれるのが分かり、遠くからサイレンの音が聞こえる。止めどない白い息と白い煙が美加を包んでいた。さよなら、ともう一度口にし、リセット完了、と美加は心の中で呟いた。美加は数歩後ずさりをして振り向き、勢いをつけて外へ駆け出した。風をきって駆ける美加の眼前に、夜の闇はどこまでも続いていた。


                                           了

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I’m in love?   (2006/12/15)
あなたの影が夜ごとにあらわれて
はずかしながら睡眠不足の今週の僕

2、3回少々口きいただけで お互いにまだなにも知らない
始まりそうで始められないこんな関係 どう言えばいいの

I’m in love? 笑いごとじゃない
雪崩がおきそう
その声がこの胸の奥の鐘を鳴らしてしまった

人生にもちょっとずつ経験を積んでゆけば
やみくもに前にばかり進めなくなる

カレンダーがぱらぱらめくれていって
いつしか興奮も冷めるだろう
でももし今日という日でこの世界が
終わるとしたらみんなどうするの?

I’m in love? だれにも言えない
自信もぐらつく
ありえないことばかり想像しては夜が更けてゆく

なんだろう? 済みきった声に
真っ直ぐ立ってらんねぇ
I’m in love? だれにも言うまい
堤防は決壊しそう
今ならまるで新しい自分になれそうな気がする
始まるかもしれない


Words by B’z「I’m in love?」





――ああ、もう、また。
ギュッと目を閉じて、布団を頭からかぶる。
これで、今夜何度目の寝返りだろう。
体は疲れているはず。でも頭が眠くないって言っている。
寝なくては、と思えば思うほど、意識が鮮明になってくる。
瞳を閉じても暗闇にならない。見えないはずの彼女の姿。
深夜2時。聞こえないはずの、彼女の声。

こんな夜が、もう一週間も続いている。

  *****

「はよ。なんだ、具合悪いのか?」
 机に突っ伏して、朝のクラスの雑踏を聞いていた僕の上に、遠慮なく降りかかる声。
 僕の前の席に鞄をかけ、ゼンジは朝からだるそうにどっかと腰をおろした。
 本名は善治と書いてヨシハル。去年からの付き合いだが、少し口が立つことを除けば、なかなかいいやつだ。
「いや…眠いだけ」
 ホームルーム開始のチャイムまであと5分。願わくばゆっくり寝ていたかったが、こうなるとそうはいかない。
 僕はあきらめたようにのっそりと体を起こし、あくびと同時に口を開く。まくら代わりにしていたマフラーをたたみ、すぐ後ろのロッカーに突っ込む。
 クラスには、いつの間にかほとんどの生徒が登校していたようだ。
「はっ。さすが受験生。テスト勉強に勤しみ…なわけないか」
「んなわけねーよ。……ちょっと、睡眠不足で」
「だよなぁ。とゆーことは今日のライティングの宿題ももちろんやってないよねぇえ?絶対ここはテストに出るぞ~って言ってたやつ」
「ああっ!」
「はい、ザンネン」
「たのむ、見して!」
「Aランチとから揚げ棒」
「Bランチとフライドポテト!」
「交渉決裂。サヨナラ~」
「ちょっと待ったぁ~」
 そんなやり取りをしている間に、チャイムが鳴る。睡眠不足の原因を聞かれないことに、ほっとしたような、がっかりしたような。
 ガラリとドアを開けて担任が入ってくる。

 今日もまた、いつもと同じ一日のハジマリ。

  *****

 彼女と出会ったのは、ほんの1週間前だ。
 普段図書室なんて行かないのに、今は完全テスト前。年に5回、図書室が混雑する期間だった。みんなの目当ては自習机…ではなく、ドア横にある、たった一台のコピー機。この時期だけは、ここぞとばかりにその存在が際立っている。堅実に勉強しに来る奴より、他人のノートをコピりに来る奴の方がよっぽど多いのだ。
 僕も例に洩れず、その一人だった。
 散々ゼンジに頼み込んだ結果、から揚げ棒一本でノートコピー権を獲得し、一人長蛇の列に並んでいた。
「プリント一枚足りないよー」
「ここもテスト範囲だっけ?」
「あ、こないだのとこ書いてないじゃん」
 テスト前になると決まって繰り返されるこんな会話。一人でいると、嫌でも耳に入ってきてしまう。
そのたびに考える、いろんなこと。
 みんな普段からやってないないなダメじゃん、って僕もだけど、受験生とは思えないな、こんなの、大学なんて早すぎるよ、いきなり将来の夢とか言われても、今こんなせかせか勉強してることってはたして意味があるんだろうか、点数が1点あがったからって――。
 ここらへんまでぐるぐる考えて、ようやく僕の番がきた。よかった。これ以上考えるとせっかくのノート獲得権が無駄になってしまうところだった。
 おとなしく、コピーして勉強しよう。
 コインを入れる。
 ノートを開いてセットする。
 数字の「1」ボタンを押して、「スタート」ボタンを押す。
 ゼンジのこぎれいなノートの写しが、ガーっと出てくる。
 はずだった。
 出てくるはずの紙は、「ガガ…」と、どうしようもなくいやな感じの音と共に、機械の中に飲み込まれた。「まさか」と思って見たディスプレイには、案の定「紙詰まりです」の容赦ない文字。サッと、冷たい汗が流れた気がした。後ろを見ると、まだまだ途切れそうもないノートたち。慌てて紙が出てくる箇所を見てみるが、なんら変わったところはない。なんのボタンを押しても液晶画面は変化ない。すがったように見たカウンター。あいにく書架整理のため、司書の先生は不在。
そろそろ、後ろからのプレッシャーが感じられる。
 ああ、くそ、なんで学校にコピー機が一個しかないんだよっ。
「――あの、大丈夫ですか?」
 焦りがピークに達したその時、右隣から聞こえた天の声。
 え、と思って見ると、肩までの髪をふたつに縛った、少し小柄な感じの女の子が立っている。
「えっ……と、詰まっちゃったみたいで」
 僕がそれだけ言うと、その子はすっとコピー機の前に来て、
「こっちを見るんです」
 と言って、給紙トレイをガタンと開けた。それからは見事な手際だった。詰まった紙を取り除き、残りの紙も整頓しなおしてセットし、なんらかのボタンをピピッと押して、
「なおりました」
 とにっこり僕に笑いかけた。
 今思うと、その笑顔とその声が、僕のこの奥の鐘を鳴らしてしまったのだ。
 僕は小さく、
「あ、どうも」
 と言い、再びコピーを試み始めた。わずかな胸の高揚を抑えつつ、これが終わったら、改めてお礼を言おう、と思いながら作業を続けた。
 ところが、僕のコピーが終わった頃には、彼女の姿はすっかり消えていた。
 図書室には相変わらず人が多い。
 覚えているのは、制服の上着についていた、赤い校章。

  *****

 翌日、僕はゼンジには内緒で、再び図書室へと足を運んだ。
 会いたい、とかじゃない。ただ、昨日きちんとお礼を言っていなかったから。
 本当に、一言だけ、お礼を。
 彼女はすぐに見つかった。
 昨日と変わらず人で賑わっている中、彼女は一人黙々と机に向かっていた。
 コピーだけじゃなくて、きちんと勉強している子もたくさんいるんだな…と改めて思いつつ、軽く息を吐く。よし。
「あの」
 ここは、図書室。意識しなくとも、小声になってしまう。突然降ってきた僕の声に反応し、一瞬の戸惑った表情を見せた彼女だが、すぐ「あ」という形の口を作った。
 彼女の言葉を待たず、話しだす。
「昨日はどうもすいません。ちゃんとお礼言おうと思ったんだけど、いなくなっちゃって。あの、ホントにありがとう」
「あ、大丈夫ですよー。わざわざすみません」
 彼女もまた、周りに聞こえないような小さな声で答えた。
 胸の前で手を振って、昨日と変わらない笑顔で。
 さて。
 用は済んだ。これ以上話すこともない。これでさよならだ。
 でも。
 何かないか。何か話すこと。探せ。なんでもいいから。ほら、早く。
 自分の声が聞こえる。なかなか立ち去らない僕を、彼女がこくっと首をかしげて不思議そうに見ている。
 その時ふと目に入った、胸に光る赤い校章。うちの学校は学年ごとに校章の色が違う。
「――2年生?」
 たった一言。搾り出したようなその言葉に、彼女はほんの一瞬止まり、
「あ、はい」
 と頷いた。
 限界だ。ここまでだ。僕は、じゃあ、と呟くと、そそくさと図書室を後にした。

  *****

 あれから、一週間。明日から、二学期期末テスト。こんなことを考えてる場合じゃないのに。受験だって控えているのに。
 あの日から、彼女の夢を3回くらい見た。
「たまにはポテトでもいっか」
 結局、間をとってBランチとフライドポテトで手をうったゼンジが、ざわついた食堂で夢中でポテトをむさぼっている。その横で、必死にノートを写す僕。全く、我ながらゼンジがいなかったら卒業も危うかったのではないかと思う。恥ずかしながら、お世話になりっぱなしだ。
「よっし終わった。マジ助かったわゼンジ」
「感謝するなら今からから揚げ棒プラスでもいいぜ」
 その言葉を見事にスルーし、丁重にノートをお返しする。ゼンジは最後に残った細かいポテトを一気に口の中に流しこみ、空っぽの袋を僕に押し付けながら席を立った。僕もそれに続く。
 袋を丸めてゴミ箱に入れ、教室へと向かう。まだまだ一日は終わらない。これから午後の授業だ。
 さみい、さみいと言いながら階段を上がる。上から聞こえてくる数人の女子の声。
 その女子たちとすれ違う踊り場で、思わずはっ、とした。
 彼女だった。
 迷った。声をかけるべきか。そのまま素通りするか。
 彼女も僕に気づいたようだ。刹那、視線が交わる。
 しかし。
 すっ、と。二人はすれ違った。他人だった。僕と彼女の間には、何も、ない。ただ、コピー機を直した人と、直してもらった人だ。たった2、3回、口をきいたことがあるだけで、お互いにまだ何も知らない。挨拶をする間柄でも、ない。
 一言「こんにちは」と声をかければ、もちろん快く返事をしてくれるだろう。でも、そのたった一言がどうにも難しい。始まりそうで始められない、こんな関係をどう言えばいいのだろう。――知人。いや、それ以下か。
「今の女子、なに?知り合い?」
 意外と鋭いゼンジがすかさず聞いて来た。わずかな動揺を隠しながら、そしらぬ顔で言葉を紡ぐ。
「なんで。今の2年だろ。知り合いなんていないよ」
「そっか。お前が知ってる女子の方が珍しいか」
 べつだん、興味なさそうにゼンジが笑う。くそう。笑い事じゃない。
 いろんな感情が渦巻いて、今にも雪崩がおきそうだ。もちろん、そんなことだれにも言えないけれど。

 *****

 期末テストが終わった。
 結果は良くも悪くも、という無難な、というか微妙な結果に終わり、担任からは散々発破をかけられた。あとは余計なことを考えずに受験勉強に専念しろ。この二ヶ月が人生の勝負だ。最後まで気を抜かず前進して行け。――とりあえず、はい、はい、とおとなしく聞いていた。
 「人生」か。まだ18年足らずしか過ごしてない人生だけれど、それなりに経験も積んできたつもりだ。人並みに勉強もしたし(今が一番しなきゃいけない時期だけど)、人並みに誰かを好きになったりもした。その経験の中で、前へ進むことが必ずしも成功に繋がるとは限らないということも学んだ。
 テスト中は一切彼女に会っていない。このまま日にちが経って、一ヶ月が過ぎて、カレンダーがぱらぱらめくれていけば、僕の中に残るこの興奮も冷めていってしまうのだろうか。始まらない関係だったら、いっそのことそうしてしまおうか。
 でも、前進が成功に繋がらないことはあるかもしれないけれど、成功は前進なくしては生まれない。このまま時が経てば、きっと彼女とのつながりはなくなってしまう。あのコピー機の前で出会ったこと自体が削除されてしまう。
 テストが終わったその日、ゼンジから一緒に帰ろう、との誘いを受けたが、担任からの呼び出しを理由に断った(あながち嘘ではない)。
 なんだか、むしょうにあの場所に行きたくて。

 さすがにテストが終わったその日は、この前とはうって変わってガランとしていた。もちろん、会えることを期待していたわけではない。テスト後だ。ゼンジたちのように寄り道の計画を立てながらすっきりと帰るのが普通だろう。でも、今日はまっすぐ帰るのは無理だった。初めて会ったあの場所に、ただ来たかった、それだけ。

 だから。
 心臓が止まるかと思った。
 初めて声をかけたあの場所に、彼女は、いた。
 あの時みたいに参考書にかじりついたりはしていない。
 机にむかっているものの、視線はどこか浮ついている。
 ほおづえをついているその横顔は、まだどこか迷いがあった僕の心を決めるのに十分な表情で。

 どきっとした。
 彼女が、僕に気づいた。
 彼女が席を立ち、歩き出す。近づいてくる。  
 コピー機の横で呆然と突っ立っていた僕は、必死に言葉を探した。
 でも、出てこない。
 僕が今、彼女に一番伝えたいことは。

 僕の前に来た彼女が、丁寧な動作で笑って会釈。
 ゆっくりと口を開く。
「……ここに来れば、会えるかと思って」

――なんだろう。
 澄み切った声にまっすぐ立っていられない。
 そうか。
 それは、僕が彼女に言いたかったこと。探して探して、ようやく見つかった言葉。
 一週間以上前から、もやもやしていた僕の感情の堤防は、今にも決壊しそうだ。
 にこっとした彼女の笑顔は、初めて会った時となんら変わりなく。

 今なら、新しい自分になれそうな気がする。
 彼女と会う前の自分から、新しい自分へ。
 それは、どんな楽しいことよりも、わくわくするもの。
 切れそうな糸のように、細い細い関係だった僕たちが、ようやく始まるかもしれない。

 彼女のふわっとした笑顔が、愛しい。

  


『戦場の挽歌 ~荒野の二人~』   (2006/12/04)
「司令、ご報告します」
「ん、何事だ?」
「はっ。我が部隊の西に展開する部隊が撤退を始めました。これにより、既に後退し始めている東の部隊と共に、かなり押し込まれ、我が部隊だけ孤立してしまう可能性が出てきました」
「そうか…」
「司令、どうされるおつもりなのですか? 我が部隊も同じく後退した方が良いのでは…?」
「うむ…」
「司令、こうしている間にも、敵の侵攻は進むばかりです。周りをご覧下さい、暫く前までは周りに多くの味方の部隊が居たというのに、今では我が部隊しか居ないではないですか。孤立してしまうのも時間の問題です」
「孤立…か。怖いのか? 孤立が…」
「はっ、昨晩の戦闘でも、多くの犠牲を出しました。このまま孤立してしまっては、全滅してしまう可能性が高いのでは…」
「私は怖いのか、と聞いたのだ。孤立は怖いのか?」
「はっ、恐れながら申し上げますと…。私は孤立を恐れております。もちろん、もちろん戦場で恐れを抱くということは敗北を意味することだと分かっております。分かっておりますがしかし…やはり怖いのです。恐ろしいのです…」
「そうか…。恐ろしいか…。その気持ち、分からぬでもない」
「司令、では我が部隊も撤退するのですか?」
「撤退、か…。確かにここで撤退するのも賢明な判断やもしれん。無駄な戦いを避け、潔く負けを認めるのもある意味正しいのやもしれん。しかしな、私は思うのだ。負け戦と分かっても、微かな望みに託し、精一杯もがくのも、一つの答えではないかとな」
「司令…。しかし、しかしもはや我が部隊が持ちこたえたところで、戦局は何も変わらないのではないですか! 最前線で残っているのは我が部隊のみなのです!」
「ふっ」
「何がおかしいのですか、司令! 私はこの部隊のためを思って申し上げているのです」
「いや、なに。ものは考えようだと思ってな。私は今のこのような機会を待っていたかもしれん」
「…といいますと?」
「何もせずに撤退したのでは何の意味も無いではないか。これまでの歴史を振り返ってみろ。敗者は必然的に歴史からは消え去っている。唯一歴史に名を残しているのは、負け戦の中で最後まで戦い、そして華々しく散っていった者達ではないのか? 古代ローマのカエサル、スペインのフランコ将軍、そしてレッドリボン軍のブルー将軍。見よ、皆後生にまで名を残しているではないか」
「確かに、そうです…。し、しかし」
「私はな、司令官という位になった時に心に決めていたのだ。必ず歴史に名を残して見せる、と。もちろん、華々しい戦績で名を残せた方が良かったに決まっている。しかしそれは無理だった。だからこそ、今この機会を逃したくは無いのだ。私は、その為であれば自らが犠牲になることは恐れぬ」
「司令…。しかしだからといって、我が部隊全てを犠牲にしても良いというのですか? それではあまりにも他の者達が報われません…」
「そうだろうな…。だから私は無理に残れとは言わん。私の意志に共感した者だけが残れば良いと思っている。もちろん、その結果私一人になったとしても、それはそれで構わんのだ」
「司令、そこまで覚悟なさっているのですね…。わかりました。それでは私は他の皆にこのことを伝えに向かいます」
「うむ、頼んだぞ」
「司令…。何故我が国はこのようなことになったのでしょうか…? こんな屈辱的な敗戦を迎えなければ成らなかったのでしょうか?」
「……。それは、必然だ、今までの行いを顧みると、な…。我々はあまりにも無茶をやり過ぎた。その先のことを全く考えず、国中を無駄な思想、無駄な主張で染めていったのだ。この報いは、必然なのだよ。そうは思わんかね?」
「確かに、確かにそうでした。しかし、途中で過ちに気付き、正しい方向へ向かおうとしていたではないですか! あの努力は、あの血の滲むような努力は、報われないのですか?」
「何事も遅すぎたのだ。あのような施策は、結局は一時的な活性化にしかならん。所詮気休めでしかなかったのだ」
「……」
「さぁ、皆に伝えて来るのだ。意志無き者は去れ、とな…」
「…わかりました」
「うむ、それで良い」
「司令…、もし我々が抵抗を続けたとして、果たしてそれは国にとって意義を見出してくれるのでしょうか? それとも過去の施策と同じく、単なる気休めになってしまうのでしょうか?」
「それは私にもわからん。しかしこれだけは言える。我々の子孫達は、我々を誇りに思うだろう。そして我々も、最後まで誇り高く、生き抜き、生え抜けることができるのだ」
「わかりました…。私も、最後までお供します。例え、司令と私だけになろうとも…」
「そうか…。すまんな…」
「では、皆の所へ向かいますので、これで」
「ああ、頼んだ」
「はっ」
「……。認めたくないものだな……、若さ故の過ちというものを…。そしてこの、不毛なる戦いでしか見いだせぬ、自分自身の存在意義を……」

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