散文ブログ『ちりぶみ』
数名による持ち回り創作ブログ。4のつく日(4・14・24)更新。
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    主宰。企画/発案担当。
    え、それって口だけってこと!?(笑)


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    デザイン担当。ブログのレイアウトが悪いとすればコイツのせいなんだ。
    週刊とりぶみ


    ナチュレ
    [プロフィール作成中...]


    仁礼小一郎
    沖縄出身ゴールデンルーキー

    某サークル六代目総長

    しがないサラリーマン
    ~順調にジョブチェンジ中!~
    (HP:気分は下克城!!
    See-Saa Night Fever!!


    こさめ
    万緑ソー中、紅一点!? 
    ココロに移りゆく何ごとか


    イシカワ マキ
    長野市在住。



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博士と助手と前世と来世(P助)   (2007/07/05)
◇おい、助手よ。
◆なんでしょう博士。
◇なぜ幸運な人間もいれば、不幸な人間もいると思う?
◆唐突ですね。それこそ運命とか、もしくはいわゆる“徳”というヤツでしょうか。
◇んむ、世間一般的にはそう認識されているな。だがそうではないのだ! 私が秘密理に行った研究によると“運”というヤツは人間、いや生物にとって、いやこの世界、宇宙にとってすべからく平均的だったのだよ!!
◆……おっしゃる意味がわかりません。
◇ええいバカだな。今簡単に説明してやる。例えばだな、そこの蚊だ。えい! プチッ!
◆おお! 博士おみごと!
◇この蚊は私に殺されて不幸だな?
◆そうですね。血も吸ってないのにかわいそうに。
◇だがこの蚊の前世は、アラブの石油王で108人の美女に囲まれながら91歳で大往生した人間なのだ!
◆…またまた。
◇ほんとだって! まあ信じない君のような人間がいるから私もこれを開発したのだがな。『前世来世パッと見れる薄型ハイビジョンTV』~!
◆博士! 僕後ろ半分だけでいいです! おとといTV壊れちゃって…
◇やかましい、黙って見ておれ! リモコンをこの蚊に向けて…ポチッとな。
◆おお、なんか映ってきましたよ! ……こ、これは!!! なんかいかにもって感じのアラブ富豪に、いかにもって感じの半裸のアラビアンガールが酒池肉林のプレイボーイチャンネル!! うぷぷぷぷ。
◇フフフ。CS有料放送ではないぞ。これが、この蚊の前世なのだ。
◆うらまやしい!!!
◇ちなみに来世も見てみよう。ポチッとな。
◆こ、これは! 南の海で雄大に泳ぐ大海原の王、シロナガスクジラだーーーッ!!
◇天敵もおらず、海を我が物顔で自由に泳ぎまわれるクジラは幸福であるだろうな。
◆こ、これは本当なんですか…?
◇もちろんだとも! どうだ、すごいだろう。
◆うーん…
◇どうした。惜しみない拍手と賞賛を浴びせていいんだぞ? ん?
◆しかし博士。
◇なんだね。
◆人によって運の総量が平均的であることはわかりました。現世で不幸な人には、前世や来世が幸福だったってことですよね?
◇わかってきたじゃないか。
◆でも、来世が幸福だってわかったところでどうするんですか。来世には現世のことなんか覚えていないし、指をくわえて見てるしかないなんて酷な話ですよ。
◇んむ。良いところに気づいたな。君の言うとおりだ。だが私の発明がこれだけかと思うのかね?
◆ま、まさか博士!
◇そう! この『前世来世パッと見れる薄型ハイビジョンTV』には『運量調節ダイヤル』略して『うんちょダイヤル』が付いているのだーーーーッ!!
◆博士、グレイトーーーッ!!!
◇浴びせて! 惜しみない拍手と賞賛をもっと浴びせて!!
◆その小学生みたいなネーミングどうにかならないんすか?
◇お前には崇高な科学の遊び心がわからんのか。
◆科学ですか…。と、とにかく詳しく教えてくださいよ。
◇よし。このダイヤルは来世で使うべき運を現世に調節できるんだ。自分を『前世来世パッと見れる薄型ハイビジョンTV』に映して、ダイヤルを右に回せば運が増え、左に回せば運が減る。その分来世以降の運が増減するわけだ。
◆なるほど。現世の運を増やすだけってのはできないんですね。
◇うむ。だが先ほど君も言ったように来世になったら現世のことなど覚えていないし、思いっきりこの現世を楽しんだ方が得だと思わんかね。
◆なるほど、さすが博士! その通りですね! じゃあ早速ポチッとな。 ガチャ……ガチャ……

ピンポーン助手さーん。お手紙で~す。

◆なんだろう? どれどれ……うわっ!! この前応募した懸賞の当選通知だ!!
◇なんと! それは効果覿面だな。
◆博士!! グレイトです! グレイトすぎますよ!!! よーし、もう来世なんか構うもんか。幸福絶頂の人生を僕は謳歌するんだーーーッ!!! ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!
◇あああっ! こら!!! そんなに回しすぎてはいかん!! 来世がめちゃくちゃになるぞ!!
◆いいんですよー、博士。何を怖がってるんですか。この後の僕の人生はバラ色ですよ。来世以降一生オケラやミミズだったとしても怖いモノは何もないっすよ。
◇ぐ、ぐむう……。

ピンポーン助手さーん。お手紙で~す。
◆うわっ! また懸賞が! 今度はハワイ旅行7泊8日ですよ!

ピンポーン助手さーん。テレビCBで~す。
◆うわっ! 博士! 今世紀の偉人としてTV出演依頼ですよ!

ピンポーン助手さーん。あなたのこと好きだったんです!
◆うわっ! 博士! 1人かと思ったら世界中の美女達がひしめき合ってます!!

◇な、なななななんという幸運。凄まじすぎる!!
◆博士! 僕は無敵です! 今なら赤信号も目をつぶって渡れます! ピラニアが満載のプールに入っても生還できます!
◇よ、よし私もやるぞ。まず自分を『前世来世パッと見れる薄型ハイビジョンTV』に自分を映して……
◆博士~。 僕は先にいってますよ~! ああっ! 美女さんたちそこはだめえええ~!
◇あ、あああっ! く、くそう! うらやましい! ええっと…ダイヤルを回して……

ゴゴゴゴゴゴ……

◇ん? 何の音だ?
◆博士!! 大変です! 空が! 太陽が今にも爆発しそうです!!
◇なんだと!!

ぽーん ここで臨時ニュースです。
只今入りましたニュースによると、なんと宇宙が消滅するそうです。あと3分ぐらいです。もうダメです。わーーー! ザーーーーーーーーー

◆ど、どうしてですか博士! 無敵の幸運を手にした僕がいるのに!!
◇そうか!! 君はダイヤルを回しすぎたんだ。
◆どういうことですか?
◇運を現世に集中させすぎたために、来世以降の運が永久に0になったんだ。
◆というと……?
◇つまり転生する来世が無くなるってことだ。
◆そ、そんな馬鹿なあああ~~~!
◇君の巻き添えで来世を断たれるこっちの身にもなってみろ!
◆もう、どうやっても来世への転生はできないんですかね……?
◇ふむ。1つ転生できるものがあるかな。
◆おお! それはなんですか!?
◇分子。
◆不幸すぎる。




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どうもP助です。
ついにちりぶみ最後の作品となってしまいました。
最後まで時間ちょっとオーバーしてしまったのはご愛敬ということで^^;

約2年のご愛顧を頂き、ちりぶみは終了することとなりました。
ご愛読頂いた皆さん。コメントを書いてくれた皆さん。ちりぶみをお気に入りにいれてくれた皆さん。
本当にありがとうございました。
6人での活動はこれでひとまず終了となりますが、また機会がありましたら集まって書いてみたいですね^^

ということで。
今回の「博士と助手と前世と来世」如何だったでしょうか。
面白いと感じて頂けましたら、こちらのサイトにも足を運んでみて頂ければと思います。
◆P'z blog
http://psuke.exblog.jp/


コメントもお待ちしてますよ~!^^

ちりぶみラストは8/24となります。
それまでもう少しおつきあいください。
ご愛読ありがとうございました!
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テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学


最後の一葉(P助)   (2007/05/04)
A:げほっげほっ!

B:大丈夫か!?

A:はあ…はあ…もうだめ…

B:何を弱気なことを言ってるんだ!もう一度海に行くって約束したじゃないか!やくそーくーしたーじゃーなーいー♪

A:うっ…!(がくっ)

B:おいっ!大丈夫かー!しっかりしろー!

A:はあ…はあ…

B:俺がついてるぞ。気を強くもつんだ。

A:ううん、分かるの。私、あの最後の葉が落ちた時死ぬんだわ。

B:何をバカなことを!だいたいあれ針葉樹でどれが最後の葉だか…

A:う、ううん、分かるの。私、あの雲が消えた時死ぬんだわ。

『本日の天気は曇り、のち雨。明日の天気は曇り時々雨。明後日の天気は雨時々曇り。明々後日の天気はくも…』

A:う、う、ううん、分かるの。私、あの線路に最後の列車が走る時死ぬんだわ。

B:あの線路、もう改修終わってこれから特急バンバン通るよ……?

A:う、ううん、分かるの。私、あの天井のテントウ虫が飛び立つ時死ぬんだわ。

B:テントウ虫ってつついたりしないとなかなか飛び立たないよね。

A:も、もういいの!私、あの最後の綿棒が使われる時死ぬんだわ!

B:使わなきゃいいじゃ……

『お、綿棒ラス1、もらうよー』

B:ちょっ、院長先生それ使っちゃだめー!!

A:やったわ!じゃあさよなら。(がくっ)

B:もどして、院長先生!使いかけでいいからもどしてもどして!

A:(ぴっぴっぴっ)チッ…

B:生きてーのか逝きてーのかどっちかにしろ。

A:誰がうまいこと言えと。

B:すまん。

A:もういいの!放っておいて!!私は結局死ぬ運命なの!!私にはわかるの!!私最後の星が消滅するときに死ぬわ!!!

B:どんだけ生きる気だ。






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2ヶ月ぶりのご無沙汰です。P助です。
今回はだいぶ毛色の違う作品、というかショートコントを掲載してみました。
前から書いてみたかった、というのが一番ですが、どうでしょうか・・・。
にやりとして頂けたならいいのですが^^;


テーマ:ショートニミ - ジャンル:小説・文学


ミラクル艦長(P助)   (2007/03/04)
「艦長! 残念ながら我が軍の敗北のようです!! 早くこの宙域を脱出せねば!!」
 オペレーターの悲痛な叫び声が響く。
 艦に乗り合わせているもの、いや同盟軍すべての者の顔には悲壮感が浮かんでいることだろう。
「総員退却準備だ。 宇宙ブースター用意!」

「宇宙ブースター用意!!」
「メインエンジン、臨界始動!」
「宇宙エネルギー充填率80……90……100%!!」
 クルー達は、生き延びるために慌ただしく動き始める。

「艦長! いつでもいけます!」
「よし、宇宙ブースター点火!! 2時の方角に向かい全速前進!!!」

 あちこちに傷を負った戦艦は、けたたましい炎を吹き出しながら徐々に加速していく。

「か、艦長!!」
 オペレーターが悲鳴に近い声をあげる。
「どうした。」
 艦長は冷静だった。
 上に立つものとして、非常時こそ冷静さを保つことが重要だということを彼は知っていた。

「2時の方角は敵の大本陣ですが……」




 空気は凍り付いた。
 ここまでだ。
 もうおしまいだ。
 なにやってんだよ。
 こんな大事なとこで間違えんじゃねえよ。
 あの艦長、前からいつかやると思ってたんだよ。
 そんな空気だった。

 艦長は才能があるとは言い難かったが、空気を読む能力はあった。

 うわ……やっちまったよ……。この空気、まじ痛ぇ……。
 まあいいか。どうせもうおしまいだ。この宙域は包囲されている。逃げられっこなかったさ。
 お前らの気持ちは痛いほどわかるが、どうせ死ぬのさ。

 
 1万5000艇の敵本陣の真っ只中に、艦艇は流星のように突っ込んでいく。
 しかし、砲撃を受け灰塵と化すはずの艦艇は、そのまま猛スピードで敵本陣を駆け抜けていく。
 
「艦長……! 敵が……攻撃をしてきません! 攻撃艇も発進する気配がありません!」
 1万5000艇は沈黙を保っていた。
 微動だにせず、艦艇が突っ込んできた先に集中しているようだ。

 敵軍の元帥は優秀だった。
 この艦長よりも数倍。いや数十倍。

「これは罠だ。」
 1隻の艦艇が突っ込んでくるのを察知した瞬間に、全艦隊に対して発せられた言葉がそれだった。
 帝国軍全軍はその元帥を信頼していた。信奉していた。
 その発言に対し意を唱えるものは誰一人居なかった。
 突撃してくる艦艇に、集中砲火を浴びせた瞬間。おそらく同盟軍の最後の抵抗は始まるはずだ。
 有能な元帥の脳裏には、まざまざとその映像が浮かんでいた。
「全軍に告ぐ。敵艦隊が突撃してきた方向に向かい警戒態勢を取れ!」
 しかし、それが元帥の最後の言葉となる。


「艦長……敵本陣を抜けました。」

 艦内には狂気にも近い喜びの声が渦巻いた。

「奇跡だ!! これで生き延びられるぞ!!」
 艦長も喜びに打ち震えていた。
 しかし生を得た次の瞬間、あまり有能ではない艦長の脳裏には欲望が渦巻いていた。

「諸君」
 落ち着きを取り戻した艦長の低く渋い声が響く。
 能力とは裏腹に、彼は説得力のある良い声を持っていた。
 あまり有能でない彼が艦長になれたのは、先述の空気を読む力とその説得力のある声によると言っても過言ではない。

 ブリッジのクルーたちは一瞬にして静まり返り、艦長を見つめた。
「我々は今、敵本陣の背後に居る。そして敵艦隊はこちらに目もくれていない。おそらく高速で通り過ぎた我々に気づかなかったのだろう! これは究極の好機である!! この機会を逃していつ手柄を立てられようか!」
 手を振りかざし独裁者のように檄を飛ばした。

 一瞬の静寂が訪れる。
 その後。
 誰かが、ポツリと「そうだ。」と呟いた。

「兄貴の乗っていた艦は、あいつらに落とされたんだ!」
「……俺の親友もだ!!」
「そうだ! 今俺たちがやらずに誰が敵を討つんだ!!」

 小さな流れがいくつも集まり、やがて大きな流れとなり渦を巻いた。
 艦内には熱い鬨の声が響き渡る。
 そしてそれを満足そうに見つめる艦長の姿がそこにあった。

「主砲! 発射準備! エネルギー充填始めろ!!」
 意気揚々と艦長が指示する。
「はいっ!」
 そして使命感に満ちたクルーたちが答える。

「主砲、エネルギー充填120%! いけます!」
「艦長! ご命令を!!」

「失われた同胞たちのために(というか自分の栄光のために)!! 撃てぇ!!!」
 艦長は掲げた手を敵艦隊に向かって振り下ろした。

 一条の光が敵艦隊の後ろから襲い掛かった。
 艦隊の中央にあったワインレッドの艦艇は直撃を受け、凄まじい爆発と共に砕け散った。
 周りの艦艇数隻も、巻き添えになり爆発していく。

「艦長!!! やりました!! ど、どうやら敵旗艦に命中したようです!」

 なんということだろうか。1隻落とせれば良いと思ってのことが、敵の中枢を撃ちぬいてしまうとは。
 これは2階級、いや3階級特進も夢ではない。
 提督……いやもしかしたら元帥にだって……

『元帥!! 救国の元帥!!』
『キャー! こっちに手を振ってくださったわ!!』
『俺もいつかあの人みたいになるんだ……!』

 さまざまな妄想が彼の頭をよぎっていく。

「艦長……、艦長!!!」
 歓喜の中、一人青ざめた哨戒役のクルーが艦長に呼びかけた。

「ど、どうした。」
 妄想の中で国家元首にまで上り詰めていた艦長は、不意に現実に引き戻され、やや不機嫌そうに答える。

「敵艦隊の残存部隊がこちらへ向け主砲を構えています……。」




 艦内の空気は再び凍りついた。
 砲撃で撃墜された艦隊はせいぜい十数隻。
 1万5000-十数隻は1万4980隻余り。
 元帥を失ったとはいえ、優秀な帝国軍たちだ。
 その瞳は心酔する元帥を殺された憎しみに燃えている。

 考えてなかった……!
 目の前のチャンスに飛びつく余り、その後に訪れる事象を予測しきれていなかった。
 いや、予測しようとすらしていなかった。

「う、宇宙ブースターを起動しろ! は、ははは反転し、じぇんしょくりだちゅしろ!!」
 気が動転し呂律も回らない。

「艦長……宇宙ブースターは先ほど使用してしまったので、後1時間は使えません……」
 オペレーターは力なく艦長の案を否定した。

 そう、死は再び目前に迫っていた。
 彼は救国の英雄として祭られるだろう。しかしそれは死人としてに他ならない。

 そうじゃない、俺はそんなことを望んでいるんじゃないんだ!
 死にたくない!!!

 艦長がブリッジを見渡せば、そこにはやはり淀んだ空気が広がる。
 あの艦長の口車にのったばかりに。
 だからやめておけと言ったのに。
 こんな上手くいくはずがないと思っていた。
 ああ、こんなことなら別の艦にしてもらえば良かった。


 お前らだってあんなに歓喜の声をあげたじゃないか!
 艦長はそう言いたくなるのをじっと堪えて、目を閉じた。
 もうおしまいだ。八方塞りだ。どこからか隕石が飛んできてて、あの艦隊にぶち当たってしまうとかでもない限り、助からない……。



「か、艦長!! 1時の方角より高速飛行物体接近!!!」
 オペレーターが叫んだ。
「え?」
 思わず間抜けな声を出してしまう。

「い、隕石……いやあれは隕石なんてもんじゃない! 小惑星クラスです! このコースを辿ると……敵艦隊に直撃します!!!」
 艦長はもはや声がでなかった。
 恐怖でチビってすらいた。

「ぜ、全速後退……」
 かすかにそれを搾り出すのが精一杯だった……。

 主砲を充填していた敵艦隊に小惑星が突っ込む。
 不意をつかれた敵艦隊は、小惑星の激突を受け次々と粉々になっていく。
 閃光と爆発が入り乱れ、数万、数十万の命の炎が途絶えていく様はどんな光景よりも美しかった。


「奇跡だ……」
「助かった……」
「ミラクル……ミラクル艦長!!!!」
「ミラクル艦長!!! ミラクル艦長!!!!!」

 呆然としていた艦長は、次第にことの重大さと自分の戦果と自分の栄光に意識を取り戻していく。
 しとどに濡れたズボンを隠しながら右手を挙げて答えると、歓喜の声は最高潮に達した。
 両軍通してただ1機、生還することとなった奇跡の艦艇はこうして帰途についた。


「艦長……」
 クルーの一人が甲板に出ているミラクル艦長に声をかけた。
 
 主星まであと少し。
 艦艇は優雅に宇宙空間を航行していた。

「艦長。いくらなんでも宇宙空間でタバコを吸うなんて……。第一宇宙服もつけてないじゃないですか……」
 心配するクルーにミラクル艦長はさわやかに笑って答えた。
「大丈夫だよ。ここには宇宙酸素と宇宙窒素の混合物を絶えず噴出している。」
 余裕のある笑みと発言に、そのクルーは改めてミラクル艦長への忠誠を誓っていた。
「しかしもう一人のお体ではないのです。あなたは同盟軍の至宝なのですよ。もう少し気を使って頂かねば……。」
 信奉するミラクル艦長へ進言することは気が引ける行為だが、彼のため、ひいては同盟軍全体の為を思えば苦ではない。

「わかったよ。これを吸い終えたら戻ろう。」
 熱意に負けたミラクル艦長は、穏やかにそう約束した。
 笑顔ではいっ!と答えたクルーは、足取り軽く艦内へと戻っていった。

 数時間前のあの戦闘が夢のようだ。
 逃げようとした自分、部下に苛立ちを覚えた自分、死の寸前を味わった自分……。
 すべてが遠い昔のことのように感じる。

 ミラクル提督は、もう一口すうっと深くタバコを吸い、軽く目をとじ……

ピピピピーーーッ!!!
 
 歯切れのいい笛の音が響いた。
 はっと眼を向けるとその方向には、白と黒に色分けされた宇宙パトロール艦と宇宙婦人警官がいた。

「ちょっと!! ここは喫煙禁止区域ですよ!!」
 宇宙婦人警官は、笛を片手にミラクル艦長を指差した。

「え……あ……」
 笛の音とは正反対の歯切れの悪い声を上げるミラクル提督。

「宇宙軽犯罪法違反の現行犯で逮捕します! 宇宙刑法第2039条第98項に照らすと……懲役30年です!」
 ミラクル艦長の両手に宇宙手錠をかける宇宙婦人警官。
 だが、彼は今までとは違う。激戦をくぐり抜けたミラクル艦長だ。

 きっと、この場に軍の偉い人が通りがかり、「彼は今回の戦いの第一功労者だ。恩赦を与えたまえ」とか言って許してくれるはず。
 だが、今回の戦に関与した偉い軍人達は、先の戦闘で全員死んでしまっている。

 いや、また隕石が飛んできて、この宇宙婦人警官を直撃して何もなかったことになるはずだ。
 しかし彼方を見回しても隕石が飛んでくる気配はない。

 い、いや何かある。つかまっても優秀な弁護士がついて無罪を立証できるはず。
 現行犯で捕まったものの無罪を果たして立証できるだろうか。

 い、いや……私はミラクル艦長だ。
 きっと……きっと……。

 そうこうしているうちに宇宙レッカーが艦艇を宇宙警察星に向かいレッカー移動していく。
 故郷の星は目の前だ。
 栄光の凱旋帰星まであと数時間なのだ。
 そんな馬鹿なことがあろうか。あってたまるかーーーーーーー。

 艦長の叫び声は、真空の宇宙空間では響くはずもなかった。




 だが、ミラクル艦長はすぐに自分のミラクルに気づかされる。
 3日後、彼の星は異性人の攻撃を受け、数時間で木っ端微塵にされてしまったのだから。




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祝祭<P助>   (2007/01/05)
廃墟と化した街並みは、これ以上、どれほどの黒い雨に打たれてもその姿を変えることはないだろう。
空には低く灰色の雲がたれこめ、何時やむとも知れない雨は、砕けたアスファルトの地面に汚れた水たまりを作っている。

さほど驚くこともない、いつもの風景だ。
もう五十年も前、世界は滅びた。
都市も自然も、ビルも花も失われてしまった。
夢も希望も、神も奇跡もない。
あるのはただ、残骸となったコンクリートに見えない放射能だけ。
世界中にどれだけの人間が、………いや、どれだけの生物が生き残っているだろうか。

あの陰惨な戦争の爪痕は未だに消えはしない。
各国に落とされた核爆弾は人々から子孫を残すという機能を奪い、細菌兵器によって汚染された水は人々に得体の知れない病気をもたらした。
為すすべもなく死んでゆく、人、動物、植物……。
それまで戦争を楽しんでいた人々が、自分たちの愚かさに気付いたときにはもう遅かった。
既に彼等の目前にも死が迫っていたのだ。
戦争からは生き残っていた人々も、戦争の残した毒によって、ほとんど死んでしまった。

しかし、戦争から十年ほどが過ぎたある日、人々は皆自分たちの目を疑った。
それまで決して晴れることの無かった灰色の雲が、一日だけ、すっきりと晴れ渡ったのだ。
人々はその太陽の姿に喚起し、狂ったように祈りを捧げた。
人々は思った。いや、思いたかった。
これは奇跡の前触れに違いないと。

太陽は一日でまた雲の中に隠れてしまったが、それからは毎年その一日だけ、太陽が顔を見せるようになった。
生き残っていた人々はその日を祭りとし、必死に人類存亡を願った。
しかし。
その願いは叶わぬまま、一人また一人と死んでゆく。

そうして祈りを捧げながら四十年。
ここは廃墟と化した街の、とある教会。
私はもう立つ気力もなくベッドに横たわっている。
一体、毎年現れるあの太陽は何を表しているのだろうか。
おそらく人類はおろか、もう数年もたてば、地球上の全ての生物が死滅するだろう。
私は、教会の窓から天を仰いだ。
すると、今まで空を覆っていた灰色の雲が、瞬く間に晴れていく。
そうか、今日は祭りの日だ。

私は最後の気力を振り絞り、教会を出る。
暖かい日の光が私の体全体に降り注ぐ。なんと心地よいのだろう。
しかしすぐに私はあたりの異変に気がついた。
祭りの日だというのに、他の人間が出てこないのだ。
そうか……。もう、私一人になってしまったか。
私は最後の人類になってしまった。
ついに、願いは成就しなかった。
私の体から全ての力が抜けていくのが分かった。
どさりと、地面に倒れ込む。
人類の歴史ももう、これでおしまいか…。
だが祭りの日に終わるのなら悪くない。

その時、私の閉じようとする瞳は、最後にあるものをとらえた。
砕けたアスファルトから垣間見える土の大地、そしてそこには…青々とした小さな双葉が開いていた。
その瞬間、私は全てを理解した。
母なる地球を汚した人間。
私達が滅びたのは、戦争のせいではない。
地球を自分たちだけのものと誤解し、大いなる罪を重ね続けた人間。
その罪を償わなければならなかったのだ。
人類が、母の肥料となることで…。
滅びと再生。
年に一度の太陽は人間などにではなく、地球と、そこに芽生える新しい生命への…祝祭だったのだ。

霞んだ目に映る緑色の命は、優しい風にゆっくりとそよいでいた。






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あけましておめでとうございます。
アップロードが遅くなり申し訳ありませんでした。
すっかり忘れていたとかいやそんなことはもがもがが。。。。。。

面白いと感じて頂けましたら、下記バナクリお願い致します。


今年もちりぶみを是非よろしくお願い致します^^

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七百年の平和(P助)   (2006/11/04)
それはもう七百年も前のことだそうだ。
大きな戦争があり、何十万人が一瞬にして消し炭になるような兵器が、何度も使われたらしい。
僕らの祖先は地下に逃げ込み、そうしてこの楽園を築いた。

人工の太陽を浮かべ、常緑の木々を植え、技術の粋を集めた浄水システムを設置した。
森では小鳥や小さな動物たちも楽しげに生活している。

工業地区と居住地区を隔離することで、煙や騒音といった公害とも無縁だ。
人々は穏やかに暮らしている。

僕ら人類ははもう二度と地上にでることはできないのだそうだ。
地上は戦争の爪痕が今も生々しく残り、僕らがもし地上に出れば、使われた兵器の呪いでたちどころに死んでしまうのだそうだ。

確認するすべはないが、先日のみんなの制止を振り切り、地上に向かった男は未だに帰ってこない。
今まで外に出た人間達は全てそうだった。
おそらくそれは真実なのだろう。

だが僕にしてみれば、外に出たいと思う気持ちは全く理解できない。
先にも述べたが、ここは楽園だ。

眼にも鮮やかな自然。
食べるものにも、住む場所にも困らない。
寒さに凍えることもない。

そして何より代え難いものがここにはある。
それは平和だ。
いざこざもケンカもなければ、いじめも言い争いすらない。
もちろん戦争など起きるはずもない。

これ以上のことがあるだろうか。

僕らの祖先は、その争いから地上に築いていた楽園を壊してしまった。
僕らはそんなことを繰り返さない。
この最後の楽園を壊してはいけない。

争いは愚かな行為だ。
この場所を築いた人たちも同じ考えだったのだろう。

この楽園を守っていくために、彼らは一つだけ条件を設けた。

それは平和であること。

この楽園には、外の世界の呪いを遮断する特殊な壁が築かれている。
先に述べたように、外の世界の呪いに汚染されればこの楽園の全ての生物は、あっという間に死滅してしまうだろう。

10年平和が続けば、その壁が1枚増える。
ただしその間、1度でも争いごとがあれば壁はすぐに失われる。

ここは平和だ。
平和で「なければならない」。
僕らは平和を「続けなければいけない」。

どんな些細な争いも許されない。
主張よりも、個性よりも、本能よりも重視されるのは平和である。
主張し、個性を出し、本能に従って生きるから争いが起こる。
平和であれば、そんなものは必要ないのだ。

外の世界を求め、死んでいく人間は何を考えているのだろうか。
僕らはそれを理解することができない。

平和以上に何を欲しようというのだろうか。
七百年の平和を僕らはこれからも守っていくのだ。
全てを捨てても。





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今回もUPが遅くなりすいませんでした。
「七百年の平和」如何でしたでしょうか?
面白いと感じて頂けましたら、是非下記バナークリックお願いします^^

コメント・TBもお待ちしてますよー!

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愛は世界を救わない<P助>   (2006/09/05)
「愛してるわジョニー」
リンダは言った。

「愛してるよリンダ」
ジョニーは言った。

「すごい機械を発明したわねジョニー」
リンダは言った。

「すごい機械だろう?」
ジョニーは言った。

「私たちがこうして愛し合っているだけで、世界が平和になっていくなんて、まるで夢のようだわ。」
リンダは言った。

「夢のようだろう?」
ジョニーは言った。

「こんな機械を作るなんて、やっぱりあなたは天才だわジョニー。」
リンダは言った

「天才さリンダ。」
ジョニーは言った。

「愛が世界を救うなんて本当に素敵!」
リンダは言った。

「愛は世界を救うのさ。」
ジョニーは言った。

「私、ずっとあなたを愛し続けるわジョニー」
リンダは言った。

「愛し続けるよリンダ。」
ジョニーは言った。

「私たちの愛は永遠よねジョニー」
リンダは言った。

「永遠さリンダ」
ジョニーは言った。

「あなただけを愛してるわジョニー。」
リンダは言った。

「……君だけだよリンダ。」
ジョニーは言った。

「……………」
リンダは何も言わなかった。

「……………」
ジョニーは何も言わなかった。

「……………」
リンダは何も言わなかった。

「……どうしたんだい? リンダ。」
ジョニーは言った。

「……何よ。その間は。」
リンダは言った。

「な、何を言ってるんだいリンダ? 間ってなんのことだい?」
ジョニーは言った。

「しらばっくれないでよ! 21行前(空白含む)のこともわからないの!?」
リンダは激しく言った。

「誤解だよリンダ。君の考え過ぎさ。ただの溜めじゃないか。僕が愛してるのは君だけだよリンダ。」
ジョニーは落ち着いて言った。

「……ごめんなさいジョニー。あたし考えすぎてたみたい。」
リンダは申し訳なさそうに言った。

「いいんだよリンダ。僕もいけないのさ。」
ジョニーは内心ホッとしながら言った。

「ううん、そんなことないわ。悪いのはあたし…。 あらジョニー、あなたの電話鳴ってるわよ。」
リンダはにこやかに言った。

「おや、誰だろうね。もしもし?」
ジョニーは内心ドキドキしながら言った。

「はぁ~い。ジョニ~。あたしよ、あ・た・し。ステファニーよ~ん。」
ステファニーは艶めかしい声で言った。

「ど、どちら様かな。番号を間違ってはいませんですか?」
ジョニーは狼狽を隠しきれずに言った。

「も~う、忘れちゃったとは言わせないわよぉ~。あなたの熱いベーゼは今もアタシをしっぽりと濡れさ」
ステファニーは途中までしか言えなかった。

「ははは、間違い電話みたいだよリンダ。」
ジョニーは暑くもないのに、汗びっしょりになりながら言った。

「そうみたいねジョニー。」
リンダはにっこりと笑って言った。

「さ、さぁ今夜はもう寝ようかリンダ。」
ジョニーはひきつった笑みを浮かべながら言った。

「何言ってるのジョニー。今夜は寝かさないわ。」
リンダはにっこりと笑って言った。

「寝かさないだなんて、だ、大胆だねリンダ。」
ジョニーは悪い予感に打ち震えながら言った。

「そうかしら?」
リンダはにっこりと笑って言った。

「ス、ステファニーとはなんでもないんだ。ただ桃鉄を一緒にやっただけだよ!」
ジョニーはうっかりステファニーの名前を出しつつ言った。

「あら、ステファニーって誰かしら」
リンダはにっこりと笑って言った。

「…………!」
ジョニーは顔面蒼白になりながら、息を飲んだ。




「頭を冷やせバカ野郎!!!!!」
そう言いながら放ったリンダの蹴りは見事ジョニーに炸裂し、ジョニーはもんどり打って家の外に転げ落ちた。

「誤解だよ! リンダ!! 僕は世界平和の為を思ってだね……!」
ジョニーは必死に扉を叩きながら言った。

「お休みなさいダーリン。」
リンダはダブルのベッドで悠々と眠りにつきながら言った。


こうして世界は今日も混沌としている。



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カウント<P助>   (2006/07/04)
「は………?」

僕は彼女の姿に言葉を失った。
日曜日、そこに現れた彼女はジーンズと白いカーディガンのシンプルな姿だった。
だがその頭の上には、純白の数字の『1』が浮かんでいた。
立体的にも平面的にも見えるそれは、ゆらゆらと優雅に佇んでいる。

その日のことは殆ど覚えていない。
会話も、目線も、足取りさえも虚ろだった僕を気遣ってくれた、彼女の言葉をうっすらと覚えているぐらいだ。
だがその日よりも驚愕の事件が、翌日起こった。

おはようと声をかけてきた彼女の頭の上には……。


数字の『2』が浮かんでいた。


増えてる……。

言葉もない。
混乱と苦悩が渦を巻く僕の前で、彼女はただにこやかに笑っていた。



そしてまた翌日。
僕の後ろから、いつものようにおはようと優しい声が聞こえる。
だがもう驚くこともない。
僕は明るく振り返り、彼女に挨拶を返す。

「おはっ……よんっ…………………」


『4』かよ……。
これは想定外だ。
『3』をとばすとは侮れない。
少しイントネーションのおかしくなったおはように、彼女は明るく笑っていた。

それからも彼女の頭の上の数字は着実に増えていった。
たまに数を飛ばしながら。

次第にそんな光景にも慣れ、僕は彼女の頭の上の数字の変化を楽しめるようになった。
それは、もはや彼女の魅力の一つだった。

そのことを彼女に話そうかとも思った。
だが思い留まった。
どうやらそれは僕にしか見えないようだ。
おそらく彼女に言っても、いつものように朗らかに笑われるだけだろう。
彼女は優しく、穏やかに僕を愛してくれる。
そしてそんな彼女を僕も愛している。
それ以上、何もないのだ。
これから何があっても、この思いは変わらない。

明日はいくつになっているだろう。
そう思いながら、僕は健やかに眠りについた。



だが、このとき僕はまだ知らない。
翌日から彼女の頭の上の数字が減り始め、またしても僕を悩ませるようになることを。







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テガホン<P助>   (2006/05/04)
あれは幾つのころだったか。
まだ小さかった頃と言うのは覚えてるが、それ以上は忘れちまった。
ただ、その瞬間のことは今でも鮮明に覚えてる。

俺は本の好きな子供だった。
毎日いろんな本を取っ替え引っ替え読んでいたもんさ。

そんなある日。
俺はいつものように図書館にいくと、そこで埃を被った本を見つけたんだ。

タイトルはなく、薄汚れた茶色の外装。
なんともなく気になってその本に手をかけた瞬間。

ばくん!!!!
鈍い音と共に、そいつは俺の左手に噛み付いた。

……歯はなかったので「噛み付いた」という表現は適切ではないかもしれない。
だが、それ以来そいつはどうやっても俺の左手から離れなくなった。

痛みはなかったが、幼い俺は泣き喚き、両親は驚き戸惑った。
医者や学者、牧師、果ては胡散臭い占い師に俺の手を見せたが、誰一人その本を外すことは出来なかった。

ワイドショーや見世物番組に取り上げられたりもしたが、すぐに風化していった。
両親が作ってくれた『本を持っているように見える義手』のお陰もあり、親しい人間以外俺の手のことを知るものはいなくなった。

そんな、俺を不幸にしたかに見える本だが、実はとんでもない力を秘めたものだった。

茶色い装丁には、何も題名は書かれていない。
何気なしに中を開けば、そこには日記でも書きたくなるかの如き白紙が続く。

だが、一度俺が念じれば、その本は古今東西どんな書物にもなるのだ。

小説、雑誌、漫画、医学書、写真集、果ては説明書まで。
こと、「本」と名がつくものであればどんなものにでもなる。

本好きな俺にとってこれほどの道具はあるだろうか、いやない。

移動時間にはもっぱら小説と漫画だ。
車の中、電車の中、船の中、飛行機の中、俺は話題沸騰、人気爆発の新刊を次々と読み漁る。
最近のお気に入りはあれだ、あー、ロボットの刑事が小さな少年ロボットと出会ったり、とんでもなく強いロボットに立ち向かう漫画。
なんでも、かの巨匠の作品のリメイクらしいな。これ以上は諸般の事情で語れない。わかってくれ。

こんなこともあった。通りを歩いていると、突然目の前のおばあさんがブッ倒れちまったんだ。
辺りが騒然とするなか、俺は左手の本をばっと開いて応急処置をしてやった。
もちろんそこに現れていたのは「家庭の医学」。
医学書でもよかったんだがな、ありゃあ俺には難しすぎて理解するのに時間がかかるし、急な時にはやっぱりこれだ。

そうそう、街行くアイドルを見かけて、とっさに左手をそいつの写真集にしてサインをもらったこともあったな。
そのページは破いて額にいれて、ちゃあんと飾ってあるぜ。

そう、この本はいくら破いてもページがなくならない。
いったん閉じれば、元通りだ。

友人たちと、雪山で遭難した時は、これを燃料にして難を逃れたもんさ。

そうしているうちに、だんだんと周りのやつらも俺のことを奇異の目で見なくなっていった。
TVにも、見世物番組ではなく「書籍評論家」として出演するようになった。

いつからか俺は、「テガホン」って呼ばれるようになっていた。

そんな俺だが、そろそろお前らともお別れしなきゃならない。
あの大国の研究者どもが、俺の左手に目をつけたんだ。

詳しい原理はしらないが、なんでも、この小さな箱の中に俺の左手を入れておけば、永久機関になるんだそうだ。
頭のいい奴が考えることは違うねぇ。

おっと、そろそろ眠くなってきやがった……。このまま冷凍冬眠してりゃ、目を覚ましたときには「異星人」が出迎えてくれるんだからよ……。
それじゃ……あば……よ……。


全人類の喝采の中、地球人の代表テガホンを乗せた最新鋭ロケットは宇宙へと旅立っていった。





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摩天楼(P助)   (2006/03/04)
小さなビルの上。
僕は、その街を眺めている。

彼は、明日を夢見て路上でギターを掻き鳴らす。
彼女は、お気に入りの服を着て闊歩する。

男は、肩をいからせ擦れ違うもの全てを威嚇する。
女は、その店の中では女王と呼ばれる。

少年は、紫煙を燻らす。
少女は、色とりどりの服を思う様買い漁る。

青年は、毎日寸分違わぬ時刻に出社し、毎日寸分違わぬ時刻に退社する。

鳥は、捨てられたご馳走を漁る。

虫は、人目を避けて強かに生き抜く。

木は、何か無機質に見える。

道は、走り行くものたちを支え続ける。

ビルは、ただ静かにそれを眺める。
街は、今日も動いている。

これは、人々の息遣いだ。
それは、長い輪廻の断片だ。


僕は、この街が好きだ。


夜空に高層ビルの光が生える。
この街ではこれが星の代わりだ。

大地には、申し訳程度に小さな草木が植えられている。
それでも、この街には必要な潤いだ。

人々は、多種多様な生活を送っている
だが、この街の元では平等だ。

全てを見下ろすバベルの塔たちが崩れ落ちる時、僕らは何を思うのだろうか。

街はただ静かに僕らを見守っている。
ビルはただ静かにその時を待っている。

喧噪と雑踏が渦巻く、愛すべき街。
僕はまた、大好きなこの街を眺める。

少し温んだ風が、摩天楼を通り抜けていった。



◆2ヶ月のごぶさたでした。P助です。
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ペットボトル(P助)   (2006/01/04)
その日、私が買ってきたのは一つのペットボトルだった。
500mlのそのボトルは無色透明で、中味はもとから入っていない。
そう、これから私がそれを詰めていくのだ。

薄暗い部屋のテーブルにそれを置き、私はコートを脱いでラフな部屋着に着替える。エアーコンディショナーから流れる空気は、常にこの部屋を最適な温度に保っていた。

小さなテーブルライトを付け、椅子に座る。
予め購入しておいたボトル詰めの材料を傍らに広げ、ペットボトルの蓋を厳かに開けると、私は静かに作業を始めた。

先ず詰めるべきは土。地面である。
これから家を建てることを考えなくてはならないから、固すぎず柔らかすぎず、適度な保水性を持ったものがいいだろう。
少々値は張ったが、十数キロ先から仕入れてきたこの土はとても満足のいくものだった。やはり全ての基礎は土台である。
封を空け、黒みがかった土をボトルの四分の一まで流し込み、少量の水を垂らして湿り気を持たせてやる。地味なことだがこれが中々に重要だ。土に水分を与えるという意味もあるが、この一滴の水が繋ぎとなって地面が締まり、土台としての強度を持つようになるのだ。

いくつかの種類の草花の種を蒔き、甘い果実が実る木と、丈夫だか加工しやすい木材の取れる木の苗を、長いピンセットで植え込む。数日もすればペットボトルの中は次第に鮮緑で覆われていくことだろう。

続いて水場の作成だ。
地面の一部に窪みを作り、そこに水を流し込む。
もちろんこの水も遠方から取り寄せた自然水だ。滅菌加工も行っていない。
そうして作った小さな池に、いくつかの種類の淡水魚の卵を撒く。
これも数日後には、元気にその池の中を泳ぎ回る稚魚たちの姿を、見ることが出来るようになるだろう。

私は時を忘れてペットボトルに中身を詰めていく。
そう、私はこの小さなボトルの中に、世界を作っているのだ。

ペットボトルはすべてを詰め終わった後、蓋をして密閉しなければならない。その為、この中では全ての生態系サイクルが滞りなくつながる事が必須条件となる。
雨が降り、池となり、土に染みこんだ水が次第に蒸発し、雲となりまた雨を降らせる。
生物もそうだ。草や果実を食した動物が死に、また、成長した木が朽ち果て、それを地中の微生物が分解し、新しい草木を育てる栄養となり、それを生まれてきた動物がまた食する。
全てのものは、この微妙なバランスとサイクルの中で生きている。
この中では上位も下位も強弱もない。どれか一つでも欠けたとしたら、それは一瞬にして崩壊するのだ。

しかし。
私たち人間は違った。

科学と言う名の魔法を手に入れ、神と等しい存在になった。
存在していたサイクルを破壊し、その上に新しいバランスを築き上げた。
もちろんそれは崩れないように科学の力で強引に支えている天秤だ。
地球の環境をどれだけ汚しても、人間は生き残った。

だがその果てはどうだ。
自然の自浄作用では到底追いつかないこの世界。
道端には人工的に光合成を行う造花が並び、全ての湖の傍らには延々と汚れた水を浄化し続ける水草型のポンプがおかれている。
そんな人工的なものの中で生きる事ができない動植物が一つ消え、二つ消え、今や天然種の生物はこの人間以外には、殆ど死滅してしまった。

私は、そんな呪われた世界と決別すべく、忌まわしき科学の力を行使している。

科学の力を借りて作ったミニチュアの樹木とミニチュアの生物たち。
そして科学の力を使い、全ての生態系サイクルが機能するよう計算され尽くしたこの小さな世界。


ここが私の、私だけの、新しい世界となるのだ。


私は生活に必要と思われる道具を中に入れていく。
小さなナイフ、斧、火打ち石、釣り竿、そして一枚の毛布。
そして、極小の人工太陽を中に浮かべ、蓋を閉めれば完成だ。

しかし、私の世界たるこのペットボトルの中に、私が存在しなければもちろん意味をなさない。だが、残念ながら万能であるはずの科学でも、私自身がこの中に入ることは許可してくれない。

この中に入るのは私の分身。
最後に取り出した小さな箱の中には、麻酔で眠らされた私の小さなクローンが入っている。
その箱をそっとペットボトルの中におくと、私は蓋をしめ封印を施した。
これで私のペットボトルは完成だ。

だが、私にはもう一つやらなければならない事がある。
この世の中に二人の私はいらない。
私は、最後に残った小瓶の中から青色の錠剤をとりだし、池を作った残りの水でそれを飲み込んだ。
ゆっくりと睡魔が私を襲う。数刻で私は死の世界への旅路につくだろう。
薬を使い安らかな最後を迎えられることもあるのかもしれないが、それ以上に、私が死んでも楽園に私が存在するという事実が恐怖を和らげる。
 
私の人生はここで終わるが、ここから始まると言っても良い。
私の分身たる彼は、あの中で豊かな緑に囲まれた素晴らしい生活を送るだろう。いや送るに違いない。
草木もなく動物もいない、機械に管理されるだけの外界とは正反対の楽園が、あの中には存在しているのだから。




◆新年あけましておめでとうございます。
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カレンダー【年末連日掲載祭作品!】   (2005/12/29)
君が僕を選んでくれたのは去年の年末だった。
僕を買うにはちょっと遅い年の瀬。
居並ぶ売れ残りの中から選ばれたのは僕だった。

白地に四季折々の風景画がクレヨンで柔らかに描かれた、少し大きめのカレンダー。
数字の横には鮮緑のクローバーが、小さくだが一つずつ入っている。
それが僕だ。
仲間の中では少し地味かもしれない。

彼女は店員さんから僕を受け取ると、足早に帰路へと着いていった。

僕が次に日の目を見たのは、年が明けて一週間程してからだった。
ちょっとずぼらなご主人様だなって思ったっけ。
多分、新しい月が始まってもしばらく前の月のままなんだろうな、と思ったのも覚えている。
彼女は真新しい僕を壁に飾り、とても満足そうだった。

彼女は大事な予定の日には、赤いペンでぐりぐりと僕に丸を付けた。
とっても嬉しそうな、幸せそうな笑顔で。
あの笑顔を見るのが、僕はすごく好きだった。

泣きながら帰って来ることもよくあった。
真っ暗な部屋の中うなだれる彼女を見るのは辛かった。
何も出来ない僕自身を、少し恨めしく思った。

でも、そんな日々ももう終わり。
12枚の僕は最後の1枚になった。
そろそろ彼女は新しいカレンダーを買ってくるだろう。
少し寂しい。
願わくば、僕の弟たちを買ってきて欲しいとも思うけど、その願いは叶わないだろうなと思う。

軽やかに階段をあがる音が聞こえる。
この足音で帰って来た日は何か良いことがあった日だ。

部屋に明かりが灯り、写し出された彼女の手には、真新しいカレンダーが握られていた。
開いたそれは彼女が大好きなアーティストのカレンダー。
彼女は時が経つのを待ち切れずに、12月までを丁寧にめくりながら1枚毎に違った笑顔をみせる。

ひとしきり眺めた彼女は、今年もあと2日あるというのに、僕に手をかけ丁寧に画鋲を抜く。
僕を四つ折にしゴミ箱に入れると、彼女は僕のあった場所に真新しいあのカレンダーを飾る。
そしてとても満足そうに二度頷いた。

幸せそうな顔でカレンダーを眺める彼女を、階下から母親が呼んだ。
彼女は電気を消し、少し慌てて部屋をでる。

これで僕の役目はおしまい。
あとのことはあそこに飾られた彼に任せるとしよう。
暗くなった部屋の中、僕はゆっくりと永い眠りについていった。
あの時、僕を選んでくれてありがとう。
一年間、大事にしてくれてありがとう…。




階段を降りていた彼女は、不意に足を止めた。
ほんの少しの間だが、まるで時が止まったように。
彼女は母親の呼ぶ声を余所に、踵を返して階段を駆け上がる。
自室に戻った彼女は、先程ごみ箱に入れたカレンダーを眺めながら再び時を止めた。

不思議な感覚が彼女を支配している。
目に映るのはゴミ箱にすてられたカレンダー。

そして彼女は机からハサミを、ごみ箱からカレンダーを取り出す。
12月一枚きりとなったカレンダー。
四つに折られたカレンダー。

彼女はそれにハサミを入れていく。
端から見ればそれは狂気的なものに見えたかもしれない。
彼女自身考えがあって行っているわけではなかった。
何か脅迫観念、そうしなければいけないという感覚、それに追われているような気さえした。

一心不乱にハサミを動かす。
少し大きなそのカレンダーを切るのは、なかなかに手間がかかる。
5分ほどして、ようやく彼女は12月31日の横にあった小さなクローバーを丸く切り抜いた。
丸と呼ぶにはやや歪んではいたが。

彼女はそれを見つめて軽く微笑んだ。
なぜだろうか。
彼女は少し優しい気持ちと、安堵感に包まれていた。

彼女はそのクローバーを大事そうに手帳に挟むと、部屋を出る。
再び電気の消された部屋の中。
クローバーを一つ切り取られたカレンダーがごみ箱に入っている。

そのカレンダーは、少しだけ、嬉しそうに見えた。








◆お読み頂きましてありがとうございます!
本日より「ちりぶみ年末連日掲載祭」開催です!!
本当は28日中にUPする予定だったのですが、すいません29日になってしまいました。
ごめんなさい><
31日まで連日作品が掲載されます!(僕のを含めて計4作品)
29日大塚晩霜 30日仁礼小一郎 31日こさめとなります。
どうぞお楽しみに!!

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適正   (2005/11/04)
「それでは今日は皆さんに『適正テスト』を受けて頂きます。」
楽しくさえずる小鳥のように美しい声に目を覚ますと、僕は真っ白な机の置かれた、そして真っ白な壁に四方を囲まれた小さな部屋の中にいた。

30cmほどの彼女は鮮やかな若草色のスーツに身を包み、その白い机の上に立っていた。
――まるで雪中から芽吹くフキノトウのようだ――などと見たこともない光景を僕は思い描く。

白い壁と家具は、これから行われる『適正テスト』に影響を与えないよう配慮されたもので、彼女の若草色の服と表情そして声のトーンは、僕らの緊張を解すために特別に調整されたものなのだそうだ。
そう、彼女はコンピュータが作り出した仮想人格、仮想人間だ。
とはいえ、注視してもそれは僕らとなんら区別はつかない。完璧過ぎて機械的という欠点すらない。ほんの少し声のトーンにゆらぎを持たせたりして人間味を出すよう厳密なプログラムがされているらしい。

彼女はその素晴らしい声で、滔々と『適正テスト』の説明を始める。
・問題は二者択一。
・問題数は1000問。
・回答時間は1問3秒。
・途中200問毎に3分の休憩を挟む。
・全問回答必須。回答し損ねた問題数の分、追加問題を行う。

要約すればそんなところだ。
時間にして約1時間といったところだろうか。
この1時間で僕の未来が決定する。
職業だけではない。住むべき場所、生活スタイル、友人、家族、結婚相手…。

時は22世紀。
過去の人間が見たら楽園だと言うに違いない。
この世界は3台のコンピュータが全てを支配し決定している。
森羅万象全てが公平に判断され、戦争も差別も国家も過去の遺物となった。
まさに人類の英知の結晶と言って良いだろう。
そのコンピュータが考え出し、始まったのがこの『適正テスト』だ。
社会不適合者と見なされれば『教育』の延長もあるらしいが、素晴らしい『教育』を受けている僕達からは、そんな者はでるはずがない。

テストが始まった。
純白の机上に文字が書き出されていく。

第一問『あなたは赤色が好きですか?』
…NO
僕は机上のボタンを押す。

第二問『目の前に階段があります。あなたは上りますか?』
…YES
僕は机上のボタンを押す。

第三問『あなたは左右どちらの道を進みますか?』
…右
僕は机上のボタンを押す。

最初は簡単な心理テストのような質問が続く。

第二百十七問『あなたは車が好きですか?』
第三百五十二問『あなたは物語を書くことに興味がありますか?』
第六百九十問『あなたは妻を必要としますか?』
続いて具体的な好みに対する質問。

最後の百問は、果たしてそれが絵なのかどうかすらわからないものを見せられ、YES/NOを問われる抽象的なものだった。

そして答え損ねた十五問分の問題を追加で回答しテストは終了した。
机上に彼女が現れ、にこやかな笑顔とともに「おつかれさまでした」と軽く頭を下げる。
そして結果が出るまで15分ほどお待ちくださいと告げ、彼女は姿を消した。

これで僕の将来が決定するのか。
少し緊張してきた。
いったいどんな人生になるのだろうか。
様々な想像、空想が頭を駆け巡る。
しかし、もうすぐその答えが、目の前に提示されるのだ。

結果が出た。

おお、僕は画家になり、K子という女と結婚するそうだ。
絵はそこそこに売れ、どうやら死後には爆発的な人気を誇るらしい。
その他色々とあるが、まぁ割愛させて貰おう。
そろそろ忙しくなる時間だ。

これから母となるべき人の胎内に移植され、産まれ出る準備をしなければいけない。
あと二週間もすれば、幸福という名のレールが引かれた楽園に産み落とされる。
レールの通り走っていけば、幸せになれるのだ。これほど楽なことはあるまい。

さて、ではそれまで一寝入りさせてもらうとするかな。
僕は体を丸める。
200本のコードが繋ぐガラス張りの我が家の中で、僕は健やかに眠りに落ちていった。





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終わりのない世界   (2005/09/04)
その国は『終わりのない世界』となった。
とある男によってもたらされた不老長寿の薬を、王は国中に振る舞ったのだ。
老いたる長老は日に日に若返り、不治の病に寝たきりだった母は晴れやかに起き上がり、息絶え絶えに生まれ落ちた息子は天高く産声を上げるようになった。
国民は何れ襲い来る老いと死の恐怖から開放され、歓喜に満ち溢れた。
神秘の薬に、そしてそれを惜し気もなく振る舞ってくれた希代の名君に、国民は果てない賛辞と謝辞を送った。

最初の一年は、昼夜をとわずいつまでも祭りが続いた。
毎夜、空には大輪の花が咲き、昼は軽快な音楽と絶え間無い笑い声が響いた。

しかし次の一年は停滞の年となった。
国民は終わることの無い命に飽き始め、かつ食べなくても死なない体にかまけて働くことをやめた。
博打と淫蕩が横行し、国は荒れ果てた。
だが、無論それでも不死の王国は滅びなかった。

翌年、ついに王は宣言する。
「正義をもって、悪の隣国を滅ぼそうぞ!」
平和と不死と賭博と淫行に飽き飽きしていた国はたちまち活気に満ち溢れ、不死の国民たちは瞬時にして歴戦の強者へと変貌した。
戦術など無い。
なまくら一本を携え、ただひたすらに隣国の住人を殺した。
なまくらが折れれば、素手で殴り殺した。
王国は日の沈む果てを越えて版図を広げ、国民は殺戮というゲームにうち震えた。

四年目のある日。
なんと国民の一人が、流れ矢にあたり呆気なく死んだ。
だが彼らは信じなかった。
おそらく薬を飲み忘れたのだろう。
おそらく隣国の兵士が紛れていたのだろう。
おそらく何かの間違いだろう、と。

だがそれは真実だった。
その日を境に次々と同朋は死んでいく。
隣国の住人に切られ、流行り病に倒れ、いとも簡単に死んでいく。
いくら薬を飲み直しても、その力が戻ることはなかった。

不死の力が失われたことはたちまちに知れ渡り、隣国は猛反撃に転じた。
命と誇りを弄ばれた彼らの怒りは凄まじく、王国は3日ともたず占領地はおろかもとの国土さえ失い、深い山の奥へと追われていった。

山間の小さな沢に落ち延びた国王と国民はそこに小さな村を築いた。
もはや王国とは呼べぬその国だが、彼らはまだあの栄光を忘れられなかった。
失意の中、いつかあの日々が帰ってくることをまだ信じていた。

ある日、薄汚れた長衣を纏った男が山間の村を訪れた。
そして男はこう言った。
「あなたがたが不老不死になる方法があります。この薬を飲み、毎日寸分違わぬ生活を送りなさい。さすれば時は止まり、永遠の輪廻が繰り返すでしょう。」
男は軽く杖を振りかざすと、それ以上なにも言わずに立ち去った。

人々は再び歓喜に満ち溢れた。
そして皆で薬を飲み、必死に終わりのない生活を始めた。
しかしそれは容易なことではなかった。
変化をもたらすという理由で、妊婦と老人は斬り殺された。
迷い込んだ憐れな旅人はいないものとして扱われ、生活に干渉した瞬間にやはり斬り殺された。
残った国民は、毎日同じ歩幅で歩き、同じ量の水を飲み、同じ物を食べた。
やがてその生活に慣れ、苦労も苦痛も感じなくなった頃。
森のざわめき、川の流れ、そして月の満ち欠けまでもが変化をやめた。
老いも病いも死も訪れず、10日、100日、1000日が過ぎても全く同じ毎日が続くようになった。
あの日々が帰ってきたのだ。

だが。
もちろん彼らには喜ぶことすら出来ない。
歓喜の声を上げた瞬間に変化は訪れ、それは失望へと変わるだろう。
彼らは果てしなく続けるしかない。
終わりのない世界で終わりのない生活を。



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